現在、飲食店の約7割が人手不足状態といわれるほど、慢性的で深刻な状況が続いています。ファストフードをはじめ、ファミレス、居酒屋、レストラン、カフェなど、これまで大学生などのアルバイト採用に力を入れてきましたが、コロナ以降は若年層のバイト応募が激減。特に近年は、“売り手市場”の傾向が強く、若年層人材の取り合いが激化し、少し給与を上げたくらいではなかなか人は集まりません。人手不足が企業成長の足かせとなり、従業員の確保が業界全体の喫緊の課題となっています。
こうした背景のなかで最近注目を集めているのが、「シニア人材」の活用です。総務省によると、2023年の65歳以上の就業者数は914万人と過去最高を記録。うち、70〜74歳の労働人口比率は34.5%と、過去10年で10ポイント近くも上昇しています。
外食産業の中でも、特にシニア雇用に積極的なのが[マクドナルド]。“プレミアムエイジクルー”と呼ばれる60歳以上のスタッフは、2024年時点で約1万2000人に上り、統計のある2016年比で3.4倍に増加しています。70〜90歳代は5178人と5倍近くに拡大、最高齢は96歳。マックでの働き方の特徴は、“分業化”にあります。すべての業務がこなせて一人前、ではなく、調理、商品提供、店内接客、ドライブスルーの誘導、清掃など、業務を細かく分け、単一の作業に専念することで肉体的・精神的負担を減らし、シニアでも働きやすくしています。週1回、一日2時間からの勤務が可能な柔軟なシフトで後押し。
[スターバックス]では、業務の複雑さを理由に応募をためらうシニアが見られたことから、単一の業務限定で働くことができる“カフェアテンダント制度”を2016年に導入。バイトの年齢制限はなく、現在の最高齢は81歳。
同チェーンでは、76歳の女性スタッフが提案した朝の体操イベントが話題となっています。毎月1回、店舗(千葉・館山)の駐車場に小学生から高齢者まで40人ほどが集まり、ラジオ体操を行います。その後、店内はコーヒーやマフィンの朝食を楽しむ住民で満席に。“スタバ=若者”というイメージを破り、高齢者層の来店ハードルを下げて新たな顧客層を生み出す効果も。現在、このイベントは全国の70店舗に広がり、地域とつながる新たな収益モデルとして注目されています。シニアの活用が、単なる人手不足解消策にとどまらないことを示す一例といえます。
他にも、[モスバーガー]や[すかいらーく]が運営するファミレス各店、[丸亀製麺]などもシニアの採用に積極的です。
“元気なうちは働きたい”“年金だけでは十分でないので”と、働く意欲を持った高齢者が増えている一方で、約7割もの企業がシニアの採用に“前向きではない”と回答(リクルート調べ)。今後、若手人材に固執している企業は、超少子高齢社会を迎える日本で、働き手のさらなる不足への対応に遅れをとることは明らか。早いうちから高齢者層の“隠された力”に気付き、より優秀なシニアスタッフを獲得した企業が、高い競争力を発揮し他社との差別化を実現できると思われます。
※参考:
総務省 https://www.soumu.go.jp/
日本マクドナルド https://www.mcdonalds.co.jp/
スターバックスコーヒージャパン https://www.starbucks.co.jp/
日経МJ(2025年2月17日付)
昨年の夏、白米がスーパーの店頭から姿を消したことがありました。日本人の“コメ離れ”が進んでいるとはいえ、主食である白いご飯が食べられなくなることに、そこはかとない不安を感じたものです。そんな“コメ不足”や“コメ価格高騰”がもたらした“令和のコメ騒動”を背景に、今一躍スポットライトを浴びている商品があります。それが、大麦の一種である「もち麦」です。
私たちが普段食べているコメが、“うるち米(白米)”と“もち米”に分類されるように、大麦にも“うるち性”と“もち性”の2種類があります。もち性の大麦は粘り気が強く、名前の通り、もちもちとした食感が特徴です。この“もち性大麦”を、国内シェアNO.1の穀物食品メーカー[はくばく](山梨)が、2012年、「もち麦」と命名しました。同社では、大麦特有のニオイを軽減したり、麦粒の中央にある黒い線を除去するなど、独自の技術を確立しながら改善を重ね、いかに白米に近づけるかという難題をクリア。2023年には、その名も「白米好きのためのもち麦」(300g/税込529円)の発売に至りました。麦飯が苦手な人でも違和感なく食べられる“コメ粒状の麦”として開発された画期的な商品です。
このように、もち麦は白米と一緒に炊くことを想定した商品設計となっており、コメに混ぜて炊くと量が増えるという性質を発揮します。1合のコメに、もち麦50gを混ぜると1.5合に“かさ増し”されるのです。そこがまさに、コメ価格高騰の折り、もち麦が注目されている点で、この“かさ増し”用途が家計の救世主になると、消費者が飛びつきました。
もち麦にはもう一つ、大きな特長があります。食物繊維(ベータグルカン)が豊富なことで、その量は、お茶碗1杯あたり、玄米の4倍、白米の7倍。血糖値の上昇を緩やかにする効果が期待されています。食物繊維1gあたりの値段を比べてみると、ゴボウが17.4円、レタスは42円、白米は93円に対し、もち麦は、なんと4.1円。白米と一緒にもち麦を食べるだけで、コスパよく食物繊維を摂ることができるというわけです。
もち麦ブームは、飲食店やコンビニなどにも波及。「もち麦もっちり 梅こんぶおむすび」(セブンイレブン)、「たっぷり食物繊維が摂れる 枝豆と塩昆布おにぎり 国産もち麦入り」(ローソン)などが売り場に並びます。また、牛丼チェーンやファミレス、持ち帰り弁当チェーンでももち麦メニューが増えています。さらに、もち麦を利用した冷凍食品やスナック菓子、栄養調整食品など、主食以外の商品も続々登場。
今年4月、厚労省は『日本人の食事摂取基準』を改定。食物繊維について、一日あたり25g以上の摂取が望ましいとしました。1955年に22.5gだったのが、2018年には15gまで下降。現状の食生活では、推奨基準に遠く及びません。
コメと野菜の供給不安と価格高騰、そして食物繊維摂取基準の見直しと、もち麦にとっては追い風となる状況が続きます。もち麦市場拡大のポテンシャルには、まだまだ余力がありそうです。
※参考:
厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/
はくばく https://www.hakubaku.co.jp/
日経МJ(2025年1月20日付/同3月2日付)
日本を主戦場とした世界のコスメブランドの覇権争いが激しさを増しています。中でも、後発のアジア勢の勢いには目を見張るものがあります。
日本の輸入コスメで近年、急成長しているのは、“K-ビューティー”と言われる韓国ブランド。K-POPとの相乗効果もあって2022年には輸入額が1位のフランスを抜いて首位に踊り出ました。同時に、米国をかわして3位に浮上した中国も、同年上半期、前年比45%増の勢いで2位のフランスを抜き去り、順位を1ランク押し上げました(日本輸入化粧品協会)。つまり、日本の輸入コスメ市場の、1位と2位をアジア勢が占めるという結果に。
“中国新興コスメ”の代表的ブランドが、[Florasis(フローラシス)]です。2021年に日本でオンライン販売を始め、今年1月、東京・銀座の「GINZA SIX」に店舗を構えるまでに成長。本国以外での単独常設店は初の試みで、将来的には、5年で日本国内に25店舗の出店を計画。
2021年に日本に進出した[INTO U(イントゥユー)]の主力商品は、泥っぽい質感の「スーパーマットリップ&チークマッド」(1430円)。“泥リップ”と呼ばれ、世界での販売数は4200万本を記録しました。2022年に日本進出を果たした[PERFECT DIARY(パーフェクトダイアリー)]は、大きな豚やキツネを描いたキャッチーなパッケージの「エクスプローラ 12色動物アイシャドーパレット」(4390円)が人気。
[FUNNY ELVES方里(ファニーエルヴス ホウリ)]が日本に参入したのは2024年。アジア人のための敏感肌向けのベースメークアイテム4品を「ロフト」や「アットコスメ」などの店舗で販売。2020年に発売した「ソフトマットプレストパウダー」(全4色/各2750円)は、超微粒子による“てかり”防止能力が評価され、世界で2500万個を売り上げる大ヒット商品に。
日本で中国風コスメがブームとなったのは2019年頃からで、当時、日本のネットユーザーたちの間では、輪郭がはっきりとし、真っ赤な唇でちょっと人間離れした顔立ちに仕上がる中国メークを、中国の“チャイナ”とサイボーグを合わせた造語で“チャイボーグ”と呼ばれました。中国コスメを使った日本人女性たちは、“カラフルで華やか”“テンションが上がる”と、厚化粧になるのではという懸念を裏切り、ナチュラルで、いい意味でギャップがあったとの感想。
ECやバラエティーショップなどから広まった中国コスメも、気が付けばドラッグストアでも普通に見かけるようになりました。ただ、“中国製は不安”といった声は減ってきてはいるものの、まだメークアイテムが中心で、スキンケアが弱いのが実情。
本国市場が失速気味のなか、日本での実績が今後の海外展開に“箔(はく)”がつくと、日本での挑戦に力を入れる中国の化粧品メーカー各社。はたして、日本で、「C-ビューティー」が「K-ビューティー」に追いつき、追い抜く日は来るのでしょうか。
※参考:
日本化粧品工業会 https://www.jcia.org/
日本輸入化粧品協会 https://www.ciaj.gr.jp/
フローラシス https://jp.florasis.com/
イントゥユー https://into-u.jp/
パーフェクトダイアリー https://jp.perfectdiary.com/
ファニーエルヴス ホウリ https://jp.funnyelves.com/
日経МJ(2025年3月5日付)