日本人の食事で不足しがちな栄養素の一つに「カルシウム」が挙げられます。『国民健康・栄養調査』によると、現代の日本人が一日に摂取しているカルシウムの量は、平均で男性517mg、女性494mgとなっています(2019年調べ)。年代別には、60歳以上では男女とも533〜585mgと平均値を超えている一方で、30代男性が最も低く395mg。
また、7〜14歳が男性676mg、女性594mgとカルシウム摂取量がひときわ多いのは、学校給食で牛乳を摂っているからだと考えられています。いずれにしても、成人が一日に摂るべきカルシウムの目標値は、男性750mg、女性650mg。成長期の子どもで700〜1000mgと設定されていますから、ほぼすべての年代でカルシウム不足の傾向が見られるということになります。
カルシウムは、牛乳・乳製品や大豆製品、野菜、海藻類などに多く含まれます。例えば、牛乳コップ1杯(200g)でカルシウム231mg、プロセスチーズ1切れ(20g)で126mg、納豆1パック(50g)で45mgなど。さらに、カルシウム摂取に忘れてはならない食材が“魚”。ししゃも(2尾/165mg)や干しエビ(大さじ半分/213mg)といった骨ごと食べられる小魚類など、今、魚のカルシウムを手軽に摂れる食品の需要が高まっています。
菓子メーカーの[MDホールディングス](大阪)が3月に全国発売したのは、「ぎゅっといわし」(税込378円)。国産のカタクチイワシの煮干し、いりこ粉末、ゴマ、玄米パフ、アーモンドなどをぎゅっと固めておこし状にした商品。1袋(65g)にカルシウム845mgを含み、成人の推奨量が手軽に摂れると好評。
介護施設への食事提供を展開する[斎藤アルケン工業](島根)は昨秋、地元の高校と共同でレトルトカレー「体にやさしい“まご(孫)”のまごころ豆カレー」(税込864円)を開発・販売。地元で水揚げされる白身魚“マトウダイ”の頭や骨を粉末にしたものをルーに加えて使用。地元の“ソウルフィッシュ”といわれるマトウダイですが、食べられる部分は少なく、魚体の7割は廃棄されていました。この未食部分を再利用することで、カルシウム不足が健康課題となっている高齢者の栄養強化と食品ロス削減の両立を実現。このカレー1食で75歳以上の女性が一日に必要とするカルシウム量を補うことができます。
乾物大手の[浜乙女](名古屋)から今春発売されたのは、「徳用ふりかけ 焼さば風」(税込237円)。香ばしいサバ節を、原価の許す限り大きめに削ってふんだんに配合。カルシウムをはじめ、DHA、EPAといった青魚の栄養分も手軽に摂取できます。
日本人の魚の需要は減り続けています。“においが苦手”“骨を取るのが面倒”などの理由からか、1人当たりの年間消費量は2001年の約40kgから、2023年には22.0kgと半減しています(水産庁)。ちなみに、カルシウムは一度に多くを摂取しても吸収できる量には限度があります。一度にまとめて摂るのではなく、毎食少しずつコツコツ摂ることがポイントです。
※参考:
経済産業省 https://www.meti.go.jp/
厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/
水産庁 https://www.jfa.maff.go.jp/
森永乳業 https://www.morinagamilk.co.jp/
MDホールディングス https://md-holdings.com/
斎藤アルケン工業 https://hohoemilife-shimane.com/
浜乙女 https://www.hamaotome.co.jp/
日経МJ(2025年3月3日付)
国民の4人に1人が75歳以上となる“2025年問題”元年の今年。国勢調査が行われた2020年時点で、配偶者のいる50代男性の割合は約68%でした。1985年の調査時には約92%でしたので、35年の間に24ポイント近くも下がったことになります(女性も約72%で約13ポイント減)。このように、50代の未婚者、つまり独身中高年の数は男女ともに年々増加。40〜60代の独身者数(離別・死別を含む)は1542万人に上り、20〜30代の1665万人に迫る規模となっています。
今、こうしたミドル&シニア世代の「婚活・恋活」市場がにわかに活気を帯びてきています(シニア世代=WHOの定義では“65歳以上”)。
40代以上向けの婚活パーティーを中心に展開する[IBJ](東京)。昨年は8000件を超えるパーティーを開催。成婚を目的とせずパートナーを探したいという40〜60代に人気です。
40代以上限定のマッチングアプリ「ラス恋」を運営する[アイザック](東京)は、2023年から首都圏でサービスを始め、昨年からの全国展開で登録者数が6倍に拡大しました。登録者の75%が50〜70代。女性は参加無料、男性は月4980円。“最後の恋”というコンセプトにひかれて、という利用者が多数。
結婚相談所大手の[パートナーエージェント](東京/運営タメニー)は、2年前から年齢制限を撤廃。50代以降の入会が増えているほか、50〜60代の成婚数も増加。
同社の調査によると、50〜79歳の独身男女の11.7%が“交際している相手がいる”、4.0%が“好意を寄せている相手がいる”、4.2%が“気になっている相手がいる”と回答。約2割のミドル&シニアが、“ときめいている”という結果が。また、婚活にマッチングアプリなどを“すでに活用している”もしくは“使ってみたい”と回答した人は約6割となっています。
婚活といっても、必ずしも結婚をゴールとせず、気の合うパートナーと出会いたい、日常の喜びや体験を共有できる相手が欲しいと望む人が多いようです。
そもそもシニア婚が注目されるようになったきっかけは、2008年『年金分割制度』が施行され、離婚しても夫が支払っていた厚生年金を妻が受け取れるようになったことから、熟年離婚が増えたことが一因といわれています。さらに、コロナ禍により、このまま1人で生きていくことに不安と孤独を感じて婚活を始める人たちが増え、今日のシニア婚ブームに拍車をかけました。
パーティーをはじめ、カラオケやダンス、街散策、料理教室、バスツアーなど、婚活運営各社では様々な出会いの場を演出、提供します。ある結婚相談所の利用者は、“ここに来るだけで気分が上がる。少しオシャレをして、いろいろな人と話すだけでも楽しい”と声を弾ませます。
平均寿命は、2070年には男性85歳、女性が90歳に達するという予測も(人口問題研究所)。“いい歳してマッチングアプリで相手を探すなんて”という風潮は昔の話。
今や、シニア世代が新たなパートナーを探すことは自然な選択肢になりつつあります。“人生100年時代”の到来は、“恋愛100年時代”の幕開けでもあるようです。
※参考:
内閣府 https://www.cao.go.jp/
IBJ https://www.ibjapan.com/
アイザック https://aisaac.jp/
タメニー https://tameny.jp/
日経МJ(2025年2月14日付)
ペットを家族やパートナーとして接する“コンパニオン・アニマル化”は、もはや当たり前の時代となっています。
ネコの総飼育数は900万匹を突破(2024年/ペットフード協会)していますが、新規の飼育数は減少傾向。平均寿命は、ほぼ右肩上がりで延びて14.5歳(2022年)。人間に換算すると74歳になります。2008年には13.9歳(人間換算約72歳)でしたので、14年の間に0.6歳=人間換算約2歳分延びたことになり、ネコの世界でも人間と同様、長寿化、言い換えれば高齢化の波が押し寄せています。
飼い主が1年間に愛猫(あいびょう)にかける費用としては、平均約16万1000円(2023年)。ネコの飼育に関する支出で多いのは、キャットフードでも、食事・おやつでもなく、最多は“医療費”です。15歳で年間18万1132円と、年齢が高くなるほど費用が上がり、年間10万円以上かけている飼い主は約13%で、前年の約7%からほぼ倍増しています。
人間がそうであるように、医療技術の革新によりペットの健康寿命はまだまだ延びると、様々な領域からの研究・開発に多額な愛猫家マネーが注がれています。
ネコの寿命を現在の2倍の30歳(人間換算136歳)まで延ばすことを目指しているのは、[トレッタキャッツ](神奈川)。カメラ付きのスマートトイレ「トレッタ」を開発。ネコがトイレに入るとセンサーが感知し、尿量や排尿回数、体重などを自動で計測。アプリに記録し、飼い主に通知されるシステム。世界初の“AIネコ顔認証”により、1台のトイレで複数のネコのデータを取得可能。2019年のサービス開始以来、すでに蓄積されたデータは3万9000匹分に上り、将来的にはフードメーカーに提供して食べ物の開発につなげたり、動物病院と連携して治療に役立てたりという展開も。同社へは、起業家などから8億500万円が出資されています。
ネコの尿に着目するのは、腎臓病が“ネコの宿命”といわれるほど、寿命に大きく関わってくるからです。特に慢性腎不全は、早期発見できるか否かで寿命が3年変わるといわれています。
[RABO](東京)は、首輪型デバイスと受信機のセットで、食事や毛づくろい、嘔吐など8つの行動をチェックする「キャトログ」(新規利用7425円〜)や、いつものトイレの下に置くだけで、体重や排せつ管理ができるスマートトイレ「キャトログ ボード」(同9900円)を開発・販売。今春から、獣医師監修のAIに相談できるチャット機能を導入しました。
腎臓病の悪化を止められればネコの寿命は飛躍的に延びると、特効薬の開発に挑むのは[AIM医学研究所](東京)。体内の老廃物を掃除するときの鍵となるタンパク質を発見、それが“AIM”で、近い将来、長年の研究が実を結ぼうとしています。愛猫家の悲願といえるこの薬の開発には、支援のための基金が設立され、10億円以上が集まりました。
ネコの体調不良はイヌと比べて見つけるのが難しいといわれています。ワクチン接種(年に1度)が義務付けられているイヌの飼い主と違い、ネコの飼い主は病院に出かけ、獣医と話す機会が少ないためです。
“ネコの健康のためなら支出は惜しまない”と、愛猫家たちの思いは、飼いネコへの“必要経費”の金額に比例します。テクノロジーの力で、1秒でも長くネコといられるように-----“ネコ30年時代”の実現へ向け、飼い主たちの願いは膨らみます。
※参考:
(一社)ペットフード協会 https://petfood.or.jp/
トレッタキャッツ https://jp.tolettacat.com/
RABO https://rabo.cat/company/
(一社)AIM医学研究所 https://iamaim.jp/
日経МJ(2025年2月21日付)