ドラマや映画の撮影が行われたロケ地やアニメで描かれたゆかりの地など、“聖地”と呼ばれる場所を“巡礼”してファンが集まることを目指した観光戦略を「ロケツーリズム」と言います。
ロケ誘致がもたらす経済的な効果には大きく2つ挙げられます。1つは、施設の使用料や俳優・スタッフの飲食・宿泊代、撮影機材・車両のレンタル料などの一次的収入。2つ目が、聖地巡りで訪れるファンの飲食やグッズ購入などによる二次的収入です。
地域活性化につなげることを目指していることもあって、ロケ誘致や制作支援に前向きな自治体が増えています。
アカデミー賞で邦画初の視覚効果賞に輝いた「ゴジラ−1.0(マイナスワン)」の撮影支援を行った浜松市は、2023年度のロケ支援の実績が323件と過去最高を記録。
知事をリーダーとする庁内の連絡会議“ロケ支援スペシャルチーム”を発足させた群馬県は、高崎市にある大型コンベンション施設「Gメッセ群馬」で撮影する際の経費を一日最大35万円まで補助する制度を新設。
神戸を舞台にした映画やドラマなどの撮影支援件数は165作品(2023年度)。その経済効果が4億2684万円に上り、過去最高を記録。「ネットフリックス」配信の「シティーハンター」では、延べ3500人が撮影に従事。セット用の機材調達や施工などは地元企業に発注され、1億円を超える経済効果を神戸市にもたらしました。
ロケ誘致に力を注ぐのは自治体だけではありません。エンタメ作品の撮影などを自社関連施設で行って多くの人に訪れてもらいたい、と“聖地化マーケティング”で集客を図る企業も増えています。2023年、社内にロケサービスの専従チームを立ち上げたのは[西武ホールディングス]。鉄道をはじめ、各種ホテル、遊園地、水族館、球場、さらには全国500カ所超の公園など、ロケの候補地は選り取り見取り。
[パルコ]では2020年から「PARCOロケーション・サービス」を立ち上げ、事業としてロケの誘致に取り組んでいます。年間50〜80件の撮影が行われ、その6割がCM、ドラマや映画は4割程度。
オフィスビルでもロケ誘致の動きが広がっています。施設の付加価値を高め、聖地として訪れる人が増えることで、ビル内に入っている飲食店には大きなプラスに。ビルのテナント企業で働く人にとっても、自分の働く会社のビルが映像発信されることで、ある種の“誇り”が醸成され、テナント側の満足度につながるといいます。
一方で、「ディズニープラス」の配信ドラマ「SHOGUN 将軍」の撮影はカナダで、長崎の隠れキリシタンを描いた映画「沈黙(サイレンス)」の撮影はほぼ全編を台湾でと、国際的な映画やドラマのロケ撮影の誘致に関して、日本は苦戦を強いられています。
他国と比べ、手薄な補助金制度と撮影許認可手続きの難しさが主なハードルとして横たわります。特に、英国や韓国、カナダ、台湾など、ロケ誘致を国策として自国の経済成長につなげようとする国では、製作費の一部を補助する制度を設けて撮影陣を呼び込んでいます。遅まきながら日本も2024年、『知的財産推進計画』を策定。海外の大型作品を対象に、ロケ誘致とロケツーリズムの推進を打ち出しました。
※参考:
内閣府 https://www.cao.go.jp/
観光庁 https://www.mlit.go.jp/kankocho/
ジャパン・フィルムコミッション https://www.japanfc.org/
(一社)ロケツーリズム協議会 https://locatourism.com/
西武ホールディングス https://www.seibuholdings.co.jp/
パルコ https://www.parco.co.jp/
日経МJ(2024年8月5日付/同8月9日付/同8月14日付)
かつては、北海道産のコメ(道産米)は味が劣るとされて評価は低く、“やっかいどう米”などと揶揄されていましたが、それも今は昔。
コメは、登録検査機関(JAなど)によって、色や形状などが評価され、“1等・2等・3等・規格外”の4段階にクラス分けされています。1等米と2等米では玄米60kgあたり数百円の差が生じ、農家の収入への影響も小さくありません。2023年度、道産米の生産量は約48万tで全国2位。うち1等米の比率は87.4%と高水準を維持。ちなみに、約51万tで生産量トップの新潟県の1等米比率は、前年の73.9%から大幅に落ち込んで14.8%に。生産量3位の秋田県は生産量約39万t、1等米比率は53.8%と、こちらも前年比で大きく下げました。特筆すべきは、2023年の記録的猛暑と水不足により主な“コメどころ”の収穫量が大幅に減少したと同時に、品質の低下が著しかった点です。特に新潟県では、1等米比率の下落幅が59.1ポイント。「コシヒカリ」に限れば、1等米の比率はわずか5.0%でした。例年は80%ほどとなることから、業界に衝撃が走りました。“コメどころ”が軒並み高温障害に見舞われるなか、平年より暑い夏だったにもかかわらず北海道のコメの1等米比率は、4.1ポイントの低下にとどまりました。
北海道で作付けされている品種の約半分が「ななつぼし」で、人気の「ゆめぴりか」は3割程度。北海道で独自の品種が生まれた背景には、「コシヒカリ」など、本州の人気ブランド米が北海道では育ちにくいという事情がありました。日が短くなることで穂が出るという性質を持つ本州の品種を北海道で栽培すると、秋になり、稲穂が出る頃にはすでに気温が低く、実りが妨げられるのです。その冷涼な気候を逆手にとって改良を重ねた結果生まれた道産品種が、本州のブランド米との競争力の源泉となりつつあります。道内では、質の良いコメを作るため、生産者らが主導して品種ごとに独自の厳しい基準を設け、水質管理や肥料、種子などに関して細かなルールが設定されています。
『日本穀物検定協会』の“食味ランキング”では、北海道産の「ゆめぴりか」と「ななつぼし」が14年連続で最高位の“特A”を獲得。コメのうま味が購買動機の重要な要素となる小売店からは、道産品種の“指名買い”も増えているといいます。
食味にこだわった道産米のブランド力が、国内のコメ市場でますます存在感を増していきそうです。
※参考:
農林水産省 https://www.maff.go.jp/
ホクレン農業協同組合連合会 https://www.hokuren.or.jp/
日本穀物検定協会 https://www.kokken.or.jp/
農業・食品産業技術総合研究機構 https://www.naro.go.jp/
総務省 https://www.soumu.go.jp/
日本農業新聞(2024年6月9日付)
朝日新聞(2024年7月27日付)
日経МJ(2024年9月2日付)
2024年、国産ジンの生産量が4年連続2ケタ増で推移し、2020年比で約4倍に拡大。市場は盛り上がりを見せており、いよいよ日本でも本格的なジン・ブームが訪れそうです。
ジンは、麦やトウモロコシなどの穀物を発酵させて作るスピリッツ(蒸留酒)をベースに、ジンには必須の素材である“ジュニパーベリー”(セイヨウネズの実)というスパイスで香り付けし、そこに果物やハーブ、花、木などの“ボタニカル”(草根木皮)な素材で風味付けして作られます。この時に使用するボタニカルによって、香りや味わいの印象がまったく変わってきます。
ジンの大きな特徴は、長い年月をかけて熟成する必要がない点。ウイスキーが蒸留に3〜5年かかるのに比べ、ジンは約1カ月で完成します。さらに、ベースとなるスピリッツの原材料に関しても特に規定はありません。極端に言えば、ジュニパーベリーさえ使っていればジンになる、という極めて自由度の高いお酒なのです。この、製法や素材の自由さがジン業界への参入障壁の低さにつながり、近年、地方の小規模蒸留所などで、少量で唯一無二の個性的なジンを作るという、“クラフトビール”ならぬ“クラフトジン”作りが急増しています。
長崎の五島列島ではツバキ風味、京都ならお茶風味というように、ご当地のボタニカルを使うことで地域性やストーリー性が演出できるのがクラフトジンの魅力。今では、クラフトジンの蒸留所がない都道府県を探すのが難しいというほど、全国各地でジンが作られています。
80年にわたってジンを手掛け、国内のジン市場で約8割のシェアを握る[サントリー]もクラフトジンに力を入れています。2017年発売のクラフトジン「ROKU<六>」には、 桜花、玉露、山椒など6種の和素材のボタニカルを使用。コンセプトは“旬を味わえる贅沢なジン”。次いで2020年に発売された「翠(SUI)」では、柚子、緑茶、生姜などを使用。2022年には、“ハイボール”“レモンサワー”に続く第3の“ソーダ割り”として開発された「翠ジンソーダ缶」がヒット。サントリーは、2030年には2023年比で2倍以上のジン市場に拡大させる目標を掲げています。
そのほか、2023年には[キリン]がクラフトジンを発売。2024年には[養命酒酒造]も参入。清酒「久保田」でお馴染みの[朝日酒造]も、「KUBOTA GIN」のブランドで市場に参入しました。
自由に香りを組み合わせて作ることから“飲む香水”とも呼ばれるジン。2010年代にクラフトジン・ブームが起きた英国では、すでにジンがウイスキーの市場規模を上回っているといいます。
日本では、増えているとはいえジン市場はまだ小さく、ホワイトスピリッツ(無色の蒸留酒)仲間である“焼酎”に押され気味の感があります。そんな現在のジンに、低迷していたウイスキー市場を炭酸水で割る“ハイボール”の提案で復活させた姿を重ねて期待するのは荷が重すぎるでしょうか。
※参考:
ジンラボジャパン https://ginlab-japan.com/
日経МJ(2024年9月2日付)