コロナ禍の間に、「学校旅行」の代表格である“修学旅行”を取り巻く環境が大きく変化。それに伴い、さまざまな課題が浮き彫りになっています。
課題の一つ目は、貸し切りバスの確保とバスの運転手不足です。コロナ禍で貸し切り観光バスの需要がほぼストップし、ドライバーがタクシーなどに流れ、車両はあっても走らせる運転手がいないという事態が。さらに、いわゆる“2024年問題”によって、バス運転手の一日の継続休息時間が、これまでの8時間から11時間に延長。そのことで、一人のドライバーで旅行の全行程をこなすことが物理的に無理になり、交代要員が必要になってきます。一方、この困難を自前で乗り切る学校も出現。全国屈指のスポーツ強豪校「青森山田中学高等学校」では、8台の大型バスを所有。教職員の一部が大型免許を取得して大会などの移動に活躍しているケースも。
二つ目は、人手不足の問題です。共通しているのは、コロナ禍による旅行需要の減少のため職場から離れる従業員が続出したこと。宿泊施設などでは、厨房スタッフをはじめ、団体を受け入れるための人手が圧倒的に足りていません。同時に、修学旅行を取り扱う旅行会社の人手不足も深刻です。学校訪問、企画提案、打ち合わせから旅行の随行と、一貫してサポートできる経験豊富な人材が不足しています。
三つ目の課題が、物価高に伴う旅行費用の高騰です。修学旅行の費用は、保護者からの積立金が充てられます。そのため多くの自治体では、保護者の負担軽減のため“修学旅行実施基準”を定め、旅行費用の上限額を示しています(公立学校の場合)。例えば、2022年度の費用は、中学校で5〜7万円、高校で7〜10万円となっていました。しかし、昨今の値上がりの状況は、当然、宿泊費、交通費、食費など修学旅行費用全般に直結し、従来の予算ではとうてい実施できない、つまり応じてくれる旅行会社が現れないという事態を生み出しています。学校側も、宿泊日数を減らしたり、ホテルから民泊に変更するなどの対応を行っていますが……。
修学旅行だけでなく、遠足や校外学習、スポーツ遠征など、学校が主体的に催す「学校旅行」が、コロナ禍によってガラリと様変わり。今後は、これまでのように学校単位で一斉に同じ場所を訪れて行動するというスタイルは崩れ、分便・分散化への流れが主流となりそうです。学校だけでなく、保護者、関連諸機関(旅行会社、宿泊施設など)、そして行政など、社会全体が連携・協力して学校旅行が直面している諸問題の解決に向けた対策が早急に求められています。
※参考:
(公財)日本修学旅行協会 https://jstb.or.jp/
(公財)全国修学旅行研究協会 https://shugakuryoko.com/
観光庁 https://www.mlit.go.jp/kankocho/
日経МJ(2024年8月9日付)
年間10万足売れればヒット商品といわれる靴業界において、約75万足を販売したという人気商品があります。その“お化け商品”は、「かがまずに履ける靴」。手を使わなくても脱ぎ履きできるハンズフリーのシューズで、一般に広く知られるようになったのは、テレビCMが流れるようになった2023年頃から。“腰や膝が痛いので、かがんで靴を履けない”“子どもを抱いたり、両手がふさがっている時に靴がうまく履けない”“太っているのでお腹がじゃましてかがんで履くのが苦しい”など、子育て中のママやアクティブシニア層からの切実な声に応えて多くの支持を獲得。元々は、カカトを踏んで履く癖のある子供用として開発されたもので、ほかにも、かがむのが大変な妊婦さんや、指のケガで靴ヒモが結べない人、靴の着脱の多い引越し業者にも好評。また、母の日・父の日のプレゼント用の需要も伸びています。
先駆けは、2022年、米国ロサンゼルスで誕生した[スケッチャーズ]の「スリップ・インズ」。CMの効果は絶大で、放映前に比べて売り上げが4倍超に。商品の特徴は、カカトの外側部分に、硬く柔軟性のある“ヒールパネル”を採用して履きやすくし、カカトの内側には枕のようなクッション(アンクルピロー)が入っているので足をしっかりホールドして脱げにくい設計。価格は1万円前後。スニーカータイプ以外にも、サンダル型やスポーツシューズ型、ビジネスシューズ型など。メーカーでは、「スリップ・インズにすれば、どんな靴でも売れる」と強気です。
機能的にはほぼ横並びのハンズフリーシューズですが、市場は活況を呈しており、各社しのぎを削っています。
[チヨダ](東京)のプライベートブランド「スパットシューズ」は、2022年から販売。カカト部分が、大人の体重でも潰れない硬い素材を使用して靴ベラのように反っているため、履きやすさと脱げにくさを両立。この独自設計のヒールの傾斜がスムーズな出し入れを実現しています。価格は5000円前後。高齢者を中心にリピーターが続出し、初年度から15万足を売り上げて大ヒット商品に。昨年は、人気アニメとコラボしたジュニアタイプも発売。同タイプのブーツやサンダルなども好調な売れ行きで、2024年度中に累計100万足の販売を目指します。
そのほか、[プーマ][ルコックスポルティフ][ナイキ][アーノルドパーマー]などの海外ブランドも同タイプのシューズを販売しています。
履いているときの履き心地を競ってきた靴業界に、“履くとき・脱ぐとき”の快適性という、新たな競争軸が生まれました。一度履くとやめられないと、リピート率も上がり、支持層も老若男女と幅広く拡大。ハンズフリーシューズは、もはや一時的なブームではなく、定番のジャンルになっていきそうな勢いです。
※参考:
スケッチャーズ https://www.skechers.jp/
チヨダ https://www.chiyodagrp.co.jp/
日経МJ(2024年8月21日付)
個人の住宅(戸建て/分譲・賃貸マンション/賃貸アパートなど)や部屋を短期間、宿泊施設として有料で貸し出す形態を「民泊」といいます。“民家”に“宿泊”するから「民泊」。
2010年代中頃、米国の民泊サービス[Airbnb(エアビーアンドビー)]が上陸して日本でもブームに。しかしコロナ禍の影響で旅行需要の減少とともに民泊ブームが収束。ところが、2023年後半、アフターコロナに向けて環境が変化していくにつれ、人々の旅行願望も急速に回復。さらに、インバウンドの増加による宿泊施設不足やホテル料金の高騰(コロナ前の約6割上昇)なども追い風となり、今、再び民泊に熱視線が送られています。ちなみに民泊の宿泊料金は、ホテルの3分の2程度が一般的。たしかに世の中の動向に合わせて民泊の料金も値上がりしてはいるものの、ホテルの上がり方には及ばないレベルとのこと。
民泊の物件数は2万5326件(2024年7月時点)で、ピークだった2020年4月の2万1385件を上回り過去最多に(観光庁)。インターネットを通じた仲介サービスの普及が、民泊市場の広がりに大きく貢献していることは見逃せません。
民泊はまた、増え続けている“空き家”問題の解決策の一つとしての側面も持ち合わせています。特に、宿泊施設が慢性的に不足している地方の観光地では、リノベーションしてアパートなどの賃貸物件にするより、宿泊料金を高く設定できる民泊の方が収益性が高まります。実際、宿泊単価は、東京より、長野や北海道のような観光地の方が高い傾向に。
民泊誕生当初は、市場が先行した感もあって法整備が後回しになり、違法民泊も少なくありませんでした。しかし、2018年に施行された「住宅宿泊事業法(民泊新法)」によって民泊事業を合法的に行えるようになり、これまで「旅館業法」の“許可”が必要だったのが、“届け出”さえすれば営業できるようになったのです。大きな規制緩和といえます。ただし、この新法の最大のポイントは、営業日数が年間180日(泊)と上限が設けられていることです。
今、全国では、さまざまな形態での民泊が展開されています。
年間180日で利益を出すことは難しいと、それ以外の期間をマンスリーマンションの短期賃貸として運用する、民泊の“二毛作”が広がっています。また、ある不動産会社では、所有する賃貸マンションの一部を民泊として貸し出して運用。共に、民泊と賃貸のハイブリッド化が注目されています。
また地方では、1Fがテナントスペース、2Fが民泊という、“ショップハウス型”の新しい取り組みで町おこしを進めているところも。
コロナ禍を経ての大きな変化は、インバウンド客中心だった以前と異なり、日本人客が増えたことです。2019年には全体の1割ほどだった日本人利用者が、昨年4〜5月には民泊利用者の44%が日本人客でした(観光庁)。
個人だけでなく、大手企業も事業として民泊への参入の動きが活発化。旅のスタイルが多様化している今、従来型の宿泊施設とはひと味違う民泊が、日本の成長ビジネスの一つになり得ると期待が高まります。
※参考:
観光庁 https://www.mlit.go.jp/kankocho/
日経МJ(2024年8月18日付)