百貨店で少しでもお得に買い物をしようとする場合、百貨店発行のクレジットカードの使用や株主優待割引などの方法がありますが、最近注目を集めているのが「百貨店友の会」の利用です。
毎月一定額を積み立てていくと、1年後の満期時には総積立額にボーナスとして1カ月分が加算された額を受け取れます。毎月の積立額は、5000〜5万円の範囲内で、いくつかのコースが設けられているのが一般的。例えば、月1万円コースなら、12カ月目に1カ月分のボーナスの1万円を上乗せした13万円が受け取れる仕組みで、特筆すべきは、その年間利回りの高さです。友の会は、最初に一括で12万円を預けて1年後に13万円になるというものではなく、あくまでも“毎月積み立てる”ということに意味があります。その結果、月々の積立金が運用率を生み、最終月で年利が最大15%を超える計算となるのです。昨今の超マイナス金利時代にあって、まさに夢のような数字です。なお、積み立てた分は現金で戻ってくるのではなく、入会している百貨店の商品券やプリペイドカードにチャージされる形でリターンされます。高年利の“ごほうび”であるボーナス分は、課税されず、そのまま受け取ることができます。
使い道は、当該百貨店での買い物や飲食をはじめ、百貨店主催の優待サービスや各種イベントの割引きなどのほか、最近はネット通販でも使えるところが増え、近くに百貨店がなくても利用できるようになっています。また、系列の家電量販店やホームセンター、ショッピングセンター、スーパー、ホテルチェーンの割引き。フィットネスジムやゴルフ場、リゾート施設などの優待など。
特に地方の百貨店では地元客の囲い込みに「友の会」が一役買っています。九州の老舗[鶴屋百貨店](熊本)では、会員限定のユニークな体験サービスが話題となっています。今年4月には、日赤とコラボして積立金で支払える特別メニューの“人間ドック”を企画。さらに、地元の自動車学校などと組んでEVの試乗体験会を開催して好評でした。
友の会は、1925(大正14)年に鹿児島の百貨店「山形屋」が起源とされており、来年(2025年)で誕生100年を迎えます。コロナ禍では、積み立てたお金も使う機会を失い、百貨店の売り上げにつながりにくい状況にありました。また、地方百貨店の閉鎖も相次いでいます。
「友の会」という、せっかく手にしたお得なサービス。そのメリットが最大限生かされ、魅力が先細りにならないことを願うばかりです。
※参考:
経済産業省 https://www.meti.go.jp/
日本百貨店協会 https://www.depart.or.jp/
鶴屋百貨店 https://www.tsuruya-dept.co.jp/
日経МJ(2024年7月26日付)
人口減少やコロナ禍に加えて、食材・燃料・電気・人件費などの高騰によるコスト増で厳しい状況が続くなか、日本より高い価格設定が期待できる海外に活路を見いだそうという外食企業が増えています。
海外の日本食レストランの数は約18万7000店と、2021年比で2割増(2023年/農水省)。中でも顕著な傾向は、外食企業の間で、“ラーメン”を前面に押し出して海外展開を図る動きが広がっていることです。
2024年現在、海外で展開するラーメンチェーンは1000店を突破。その中で、店舗数と売り上げでトップは、とんこつラーメンの[味千拉麺](熊本/重光産業)という、国内に70店舗(東京には未出店)の、全国的には決して知名度が高くない店でした。海外へは1994年、台北に出店したのを皮切りに、15カ国600店舗以上を展開する、世界では名の知れた大ラーメンチェーンです。加盟店からロイヤリティーを取らないという独自のフランチャイズ方式が奏功して店舗を拡大。今年4月には、南米コロンビアに新店をオープンしました。
近年の海外ラーメンブームの立役者的存在が、博多とんこつラーメンの[一風堂](福岡/力の源(もと))です。海外は15カ国、135店舗。2008年、ニューヨーク(以下、NY)に海外1号店をオープン。お酒を飲んで、おつまみを食べて、おしゃべりを楽しみながらラーメン(1杯約3000円)で締めるという、“ラーメン&ダイニング”のコンセプトがニューヨーカーのライフスタイルにヒット。NY、ロンドン、シンガポールといった大都市出店によるブランドイメージの構築と積極的なメディア戦略、従来のラーメン店の価値観にとらわれないユニークな店舗スタイルがウケて、ラーメンブームを巻き起こしました。
NYに3店舗を展開中の[吉野家HD]傘下の「せたが屋」(東京)は、今春、韓国に1号店をオープン。また、[?食](東京)が運営する「喜多方ラーメン坂内(ばんない)」(国内64店舗)は、昨年に続き、今春に米国で8店目となる店舗をオープン。ラーメン1杯、約2200円で提供。
うどんでお馴染みの「丸亀製麺」を運営する[トリドールHD]が今春、中国・上海で開業したのが、濃厚とんこつラーメンの店「ずんどう屋」(国内88店舗)。人気の“味玉らーめん”は、日本円で約750円と、日本での価格(960円)より安く設定しました。
かつては、海外のラーメン店の多くは現地に駐在している日本人が主なお客さんでしたが、日本のアニメやマンガ、ゲームなどの“Cool JAPAN”ブームをきっかけに“RAMEN”に注目。キャラクターたちがラーメンを食べているシーンに触発され、“どんな味なんだろう”“食べてみたい”と海外のアニメファンを中心に盛り上がりました。
海外でも日本のように行列ができるラーメン店やミシュランに選ばれる店も出現。そんな、海外で成功する店に共通しているのは、現地の飲食市場に精通した優れたビジネスパートナーとの出会いがカギとなるとか。
※参考:
農林水産省 https://www.maff.go.jp/
重光産業 https://shige3.jp/
力の源カンパニー https://www.chikaranomoto.com/
吉野家ホールディングス https://www.yoshinoya-holdings.com/
麵食 https://mensyoku.co.jp/overseas/
トリドールホールディングス https://www.toridoll.com/
(一社)日本フードサービス協会 https://www.jfnet.or.jp/
日本経済新聞(2024年5月13日付)
日経МJ(2024年6月28日付)
飲食店などの外食産業の多くは、アルバイトやパートといった非正規雇用の従業員を中心に日々の業務が回っています。しかし昨今、ニュースなどで頻繁に取り上げられて話題となっているように、人手不足が深刻化。そんな状況を克服する解決策の一つとして今注目されているのが、「調理ロボット」の導入です。
調理ロボットとは、従来は人が行っていた調理の工程を自動で行うことのできるロボットのことで、AIやカメラ、センサーなどが組み込まれ、食材のカットから加熱、蒸し、焼き、混ぜ、炒め、揚げなどの調理作業、さらには盛り付けまでも対応。下ごしらえや微妙な火加減、味付けなど、熟練した職人の技をAIが学習。休憩も必要なく、一日中稼働しても疲れ知らず。オリジナルの創作料理を一から作り出すことはできませんが、既存のレシピに基づいて均一な品質で提供し続けることが得意です。そのため、多店舗展開の飲食店には最適で即戦力に。
世界89カ国で展開し、すしロボットシェアNO.1の[鈴(すず)茂(も)器工](東京)から今夏発売されたのは、小型の「シャリ玉ロボット S-Cube(エスキューブ)」。1時間に1200貫分のシャリを握るロボットで、ボタン一つでシャリの大きさ(12〜20g)を1g単位で調節できる技術は業界初。
中華の職人技“あおり炒め”を再現する画期的なチャーハン製造機を開発したのは、奈良県にある創業114年の[品川工業所]。直径120cmほどの鍋に食材や調味料を投入するだけで100人前の本格チャーハンが3分ほどで出来上がります。3枚の羽根が回転しながらお米をすくい上げ、最大60cmの高さに舞い上げて水分を飛ばしてパラパラにする“あおり炒め”をロボットが再現。2年を費やして開発されました。
ギョーザ製造機メーカーの[東亜工業](浜松)は、電子レンジほどのサイズで、1時間に1500個のギョーザを包むことができる「餃子革命」を発売。
[コネクテッドロボティクス](東京)は、不定形の総菜(きんぴら、ひじき、ポテトサラダなど)を一定量測ってトレイに盛り付けるロボット「DELIBOT」を開発。
労働力不足と人件費の高騰からロボットを活用した自動化・省人化のニーズが加速しているのは世界共通の動き。世界の食品ロボット市場は、2023年から2030年にかけて年間12%超と右肩上がりの成長を続けるとみられています。
今回、紹介できたロボットはほんの一例。今後、さらに進化すれば、AIで一流シェフの味を忠実に再現することも可能となるばかりか、それが飲食店だけでなく、家庭のキッチンでも楽しめるようになる日も近いかもしれません。
※参考:
鈴茂器工 https://www.suzumo.co.jp/
品川工業所 https://www.qqqshinagawa.co.jp
東亜工業 https://www.toa-industry.co.jp/
コネクテッドロボティクス https://connected-robotics.com/
日経МJ(2024年7月15日付)