4年前の2020年、政府は2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにするという「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表。その一環として、「2035年までにガソリン車の販売を禁止し、新車販売のすべてをEV(電気自動車)にする」としました。石油などの化石燃料からの脱却こそが世界的課題になっており、日本国内でも2040年には石油製品の需要が今の半分になるとみられています。
輸入された原油を、製油所でガソリン・軽油・灯油・重油などに精製する“石油元売り会社”は、[ENEOS][出光興産][コスモエネルギー]の大手3社が国内の9割以上のシェアを握っています。売上高でみると、順に“10-6-3”という規模感。
遠くない将来の窮状を眼前にして、何もしなければ会社の経営が行き詰まることは明らか。そこで元売り各社は、生き残りをかけて一斉に“脱石油”へとカジを切り始めました。
元売り会社の販売拠点である“給油所”、いわゆる“ガソリンスタンド(GS)”の数は、1994年度約6万カ所をピークに、2022年にはその半分以下の約2万8000カ所まで減少。ガソリン車が禁止されたら、GSは無くなってしまうのか----この問いに、元売り各社は根底からの事業見直しを迫られ、業態転換など“ガソリンに頼らない”新たなGS像の構築が急務となっています。
全国に約1万3000カ所のGSを展開する業界最大手の[ENEOS]は今年3月、茨城県牛久市に、次世代型給油所「ENEOS プラットフォーム」を開設。カフェやコインランドリー、フィットネスジムなどを併設して給油以外のサービスを提供。
[出光興産]は“給油をしないGS”「アポロワン」の1号店を昨秋オープン。洗車やカーコーティング、整備といった車関連サービスを提供する、出光の新業態です。現在(2024年春)、東京・兵庫・北海道の3カ所で展開。2030年までに250カ所を目指します。
GSの脱石油化対策としては、水素の充填、ガスボンベの配送、自治体からの委託で道路の破損調査、輸入EVの試乗・販売サポート、カーリース、宅配、ハウスクリーニングなど、多種にわたります。中には、地元の特産品を販売する“道の駅”的なGSも。
米国では、流通する8割近いガソリンが、GSではなくコンビニで売られているといいます。EV時代の充電ステーションの最有力候補がコンビニであることを考えると、コンビニとの連携に、GSの生き残りのヒントがありそうに思われるのですが……。
参考:
ENEOSホールディングス https://www.hd.eneos.co.jp/
出光興産 https://www.idemitsu.com/jp/
コスモエネルギーホールディングス https://www.cosmo-energy.co.jp/
日経МJ(2024年4月24日付)
コロナの流行で換気の重要性が叫ばれるようになったこともあり、近年、「サーキュレーター」の需要が高まっています。
室内の空気を攪拌(かくはん)して均一に保つよう循環させるための風を作り出す家電がサーキュレーターです。扇風機と形状は似ていますが、両者の間の大きな違いは“風の質と届き方”にあります。扇風機はやわらかな風が広がりながら届くのに対し、サーキュレーターは強い風がまっすぐ直線的に届くのが特徴。
またサーキュレーターには、場所によって生じる室温のムラを解消して均等に保つことで冷暖房効率を向上させるという働きがあります。エアコンの設定温度を、夏は高く、冬は低くできるため、結果として電気代の節約につながります。
サーキュレーター購入の際のチェックポイントは-----まず“風力”。スペックに記載されている“適用畳数”を確認し、使用する部屋のサイズより大きめの畳数のものを選ぶのがオススメ。また、頻繁に部屋干しをする場合は、360度の首振り機能を備えたモデルで、留守中もしっかり乾かせる“長時間のタイマー設定”ができるものが便利です。さらに、ファンの風切り音やモーター音によるノイズを低減させるための静音モードや風量調整モードの有無の確認も忘れずに。
最近のトレンドは、扇風機とサーキュレーターの“歩み寄り合戦”。扇風機側がサーキュレーション機能を搭載した製品を増やせば、一方のサーキュレーター側も風の質など扇風機に近づけた機能を搭載して迎え撃ちます。
幅広い品ぞろえで売れ筋ランキング上位の人気を誇る[アイリスオーヤマ]の「サーキュレーター扇風機」は風量を10段階で設定でき、繊細な風を送り出します。パワフルなのに静音性にも優れ、価格も1万円前後とお手頃。
そのサーキュレーター市場に今年4月、家電の大御所[シャープ]が本格参入。扇風機の分野で培ってきた技術を惜しみなく注ぎ込んだ第1弾製品には、フクロウの翼の形状をファンに応用した“ネイチャーウイング”を採用。約3年をかけて開発されたもので、扇風機のようなやわらかな風でありながら大風量を実現。さらに同社自慢の“プラズマクラスター”の働きで部屋干しの生乾き臭を抑えた乾燥が可能に。価格は他社のほぼ2倍にあたる2万4000円前後。
通年で使用することができて節電効果もあると、消費者から年々高い支持を集めるようになったサーキュレーター。扇風機との“いいとこ取り”から生まれた新しい価値を備えた製品は、今後ますます増えていくと思われます。
参考:
アイリスオーヤマ https://www.irisohyama.co.jp/
シャープ https://jp.sharp/
電波新聞 電子版(2024年4月4日付)
日経МJ(2024年5月3日付)
1980年代後半、全国の書店の数は2万5000軒を超えていました。しかしその後は減り続け、現在はピーク時の半分以下、1万軒程度まで落ち込んでいるとみられます。今では全国1,741市町村のうち、なんと456市町村が“書店ゼロ地域”となっている現状(出版文化産業振興財団)。
そんな中、今注目されているのが「無人書店」。人手不足や人件費高騰、後継者不在といった書店の抱える課題への有力なソリューションの一つとして浮上しています。
出版取次大手の[日販]が昨秋、東京・地下鉄「溜池山王駅」構内にオープンしたのが、完全無人書店「ほんたす」。平日、朝7時から22時までの営業時間中、店員が一人もいない“完全無人”を実現。店舗は約52m2(16坪)と書店としては小規模。入退店はLINEアプリで管理。店頭のQRコードを読み込んで名前を会員登録するとデジタル会員証を発行。リーダーにかざすとドアが開き入退店できるシステム。会計はセルフレジによるキャッシュレス決済で、現金は不可。店内には4台の防犯カメラを配置し、日販のサポートセンターがリアルタイムで監視。この店舗サイズで運営する場合、通常ならスタッフ2人が必要となりますが、その費用はゼロ。人件費の大幅削減が、賃料の高い駅ナカでの出店を可能にしました。同店の月商目標は500万円。数年のうちに20店舗の目標を掲げると共に、この“完全無人書店”のソリューションを他の書店にも売り込みたいと考えています。
同じく取次大手の[トーハン]は、中堅チェーンの[山下書店]と組んで昨年3月、「世田谷店」で19時から翌朝10時までの時間帯に無人書店の実証実験を開始。それ以外の時間帯は有人で運営するため、完全な無人化ではありませんが、有人・無人の“ハイブリッド型24時間営業”の書店です。入店は掲示されているQRコードをLINEから読み込むと認証が完了し、自動ドアが開く仕組み。支払いはキャッシュレスのみ。実験期間中の利用者の反応は上々で、営業利益の上昇(前年比2割増)もみられたことから、同店では昨夏から正式運用。ゆくゆくは、トーハングループ以外の書店への導入提案を視野に入れています。
東海エリアを中心に70店以上の書店を展開する[三洋堂書店]は今年4月、「三洋堂よもぎ店」(名古屋)で、国内書店では初となる顔認証を活用した24時間営業をスタートしました。9時から23時まで有人で営業し、それ以降、翌朝9時までは無人で営業する“有人・無人ハイブリッド型24時間営業”。店舗前に設置された専用の顔認証カメラで顔を写せばドアが開いて入店でき、事前登録や予約は不要。
いずれも、取次各社にとっては“24時間営業”のビジネスモデルを構築・提案して書店の生き残りを後押しし、紙媒体の流通量拡大につなげたいと願う思いがひしひしと伝わってきます。それは、市井の、いち“本屋さん好き”である私たちも同じ思いではないでしょうか。
参考:
(一財)出版文化産業振興財団 https://www.jpic.or.jp/
日本出版販売 https://www.nippan.co.jp/
トーハン https://www.tohan.jp/
三洋堂書店 https://www.sanyodo.co.jp/
日経МJ(2023年10月9日付/2024年4月26日付)