高級ホテル、シティホテルを問わず、首都圏を中心としたホテルの宿泊料金の高騰に歯止めがかかりません。ある調査によると、昨年12月の国内ホテル全体の平均客室単価(ADR)は2万626円と、コロナ禍前の2019年比で42%の上昇。その波は、低価格帯の「ビジネスホテル」(以下、ビジホ)にも押し寄せており、この影響が、出張にも広がり始めています。
2023年度、出張時の宿泊料金の実費支給上限額の平均は9117円でしたが(産労総合研究所)、それに対して、2023年のADRが1万6947円(2022年比、約40%増/東京ホテル会)に跳ね上がっているという現実。もはや、これまでのように出張旅費の上限、1泊1万円を保持するのが厳しい状況に。なんとか出張経費内で収めようと、“早割予約”の活用や、少々不便でも少しでも安い郊外のホテルを探すか、超過分は自己負担したり、挙句は友人・親類の家に泊めてもらうといった涙ぐましい努力で対応せざるを得ない事態に。このままでは、業務の生産性や効率性に悪影響を及ぼしかねないということから、企業側も出張旅費の改定に動き始め、宿泊費の上限引き上げに踏み切るところや臨時の経費補助などを検討するところも出始めています。
ホテルの宿泊料金が上昇している原因には、3つの要因があります。
1つ目は、急回復した国内旅行の需要増。円安で海外旅行を敬遠した国内組の増加が、コロナ禍によるマイナス分を取り返したいと願うホテル側の思惑と合致。
2つ目は、水際対策が緩和された2022年10月以降、インバウンドによる観光需要の増加です。人数の急増もさることながら、円安の恩恵から、高価格の“インバウンド料金”が恒常化してしまったことによります。
3つ目は、諸々のコスト増加分の宿泊料金への転嫁です。某ホテルチェーンでは、2023年の運営コストが前年比で25%近く上昇。水道光熱費やリネン業者の値上げなどに加え、客室清掃費が30%以上のアップ。さらにそこに深刻な人手不足から、人手獲得とつなぎ止めのための賃金アップなどが加わります。
高くてもOKなインバウンドの基準に合わせた価格設定のため、肝心の日本人観光客が減少するという、ホテル運営上、決して歓迎されない事態に陥っています。テレビのニュースで、出張してきたビジネスマンが“出張費の範囲で泊まれるのは、今の東京ではカプセルホテルぐらいですね”と話していましたが、そのカプセルホテルさえも料金はぐんぐん上がっている状況。出張の味方だったはずのビジホの料金値上げに、出張族からは悲鳴が上がっています。今後も上昇基調が続くとみられるこの切実な問題を、“出張クライシス”と言っては大げさでしょうか……。
参考:
産労総合研究所 https://www.e-sanro.net/
東京ホテル会 https://www.neomount.co.jp/hotel/
日経МJ(2024年3月4日付)
東洋経済電子版(2024年3月24日付)
「スイーツ」の販路にちょっとした変化が起きて注目されています。実店舗、ECに次ぐ販売チャネルのニューフェイスとして“冷凍自動販売機”が登場。菓子チェーン大手が積極的に乗り出したため、一層話題に拍車がかかりました。
[不二家]が昨年6月から、冷凍スイーツを24時間365日販売できる自販機「FUJIYA CAKE´s STAND」を、関東(東京・埼玉・千葉・神奈川)と北海道、計10店舗の前に設置。ショートケーキやモンブラン(共に、2個セット600円)をはじめ、マカロン(3個入り600円)、不二家オリジナルのスイーツボトル(700円)など10種類のスイーツが、いつでも欲しい時に手に入ります。自販機による販売を実現したのが、同社が約10年前から取り組んできた“セミ(半分)フレッド(凍った)クリーム”という独自のフローズン技術の開発。スーパーなどで売られている冷凍ケーキは、解凍に3時間ほどを要し、その間に水分が飛んでしっとり感が失われることが多いのに対し、この製法なら常温に5分ほど置けば(半解凍)おいしく食べられるように仕上げてあります。
商品の単価は、店舗内で扱うケーキが1個500円以上のところ、自販機では2個600円と半値以下。そのタネ明かしは、原材料のコストにあります。例えば、店舗販売用のショートケーキには生のイチゴが使われますが、冷凍スイーツには冷凍のフルーツやシロップ漬けにしたものが使われるため。
自販機を利用する時間帯は、売り上げの60%が19時以降で、夜中の2時、早朝の4時、5時にも一定量の売り上げを示しています。自販機の反響は予想を大幅に上回り、当初見込みの3倍を超える売り上げを記録。設置場所も、店舗の敷地内にとどまらず、大学のキャンパス内や駅、スーパー、ホテルなど、全国で104台設置(2024年3月時点)。
[銀座コージーコーナー]は今年2月、初となる冷蔵スイーツ自販機を都内の同社店舗前に設置。冷蔵スイーツ4種とマドレーヌ(5個入り486円)など、2種の常温商品、計6種類のスイーツをラインナップ。“冷凍”の不二家と違い、こちらは“冷蔵”の特性を生かし、常温商品にも対応しています。
24時間営業の無人スイーツ専門店も拡大しています。「24トゥエンティフォースイーツ専門無人販売所」(運営:トゥエンティフォー/広島)は、昨年、五日市(広島)に1号店をオープンしたのを皮切りに、フランチャイズ展開で1年で全国78店舗まで拡大(2024年2月時点)。スイーツを手に取る機会が少ない地方にフォーカスして出店する戦略が功を奏し、1カ月の全店来店者数は昨年末で約10万人。昨年12月にオープンした鹿児島店は、初月の売り上げが2000万円超えを達成しました。店内には常時80〜100種類以上の商品が陳列。利用者の約7割が20代後半〜30代の女性が占め、家族連れや一人で訪れる男性も。時間帯は、20時から深夜0時の売上高が最も高く、全体の3割に上ります。
“スイーツ自販機”や“無人スイーツ店”は、コロナ下で盛り上がった“ギョーザ無人販売店”の展開版で、アフターコロナを迎えた今、一服感のあるギョーザに代わって急激に勢力を増してきました。ケーキ屋さんの多くは、夜の早い時間に閉まってしまうため、遅い時間に本格的なスイーツを食べたいという、これまで取りこぼしていた“深夜のスイーツ需要”を確実につかむことで業績を伸ばしています。
参考:
株式会社不二家 https://www.fujiya-peko.co.jp/
銀座コージーコーナー https://www.cozycorner.co.jp/
トゥエンティフォー https://24-sweets.com/
日経МJ(2024年2月19日付/同3月25日付)
主に観光客向けに、地域の特性をアピールした“ご当地菓子”や、空港・駅ナカ・駅ビル・高速道路のSA・PAなどの交通系で販売される菓子類を、総称して「土産菓子」と呼ばれます。
あるマーケティング会社の調べによると、コロナ前の2019年、市場規模は3500億円と順調に推移していた土産菓子市場でしたが、2020年に入るとインバウンドの消失、国内旅行や帰省・出張といった、お土産の活躍する場が激減し、前年比52%減の1700億円まで急降下。回復の兆しが見え始めたのは、やっと2022年の後半からで、2023年からは外出機会の増加やインバウンドの回帰を見込んで、メーカー各社が販売を強化。2024年の今は、市場も回復軌道に乗り、コロナ前の規模に迫る勢いです。
コロナ下の、土産菓子にとっては苦難の時代に、メーカーの販売戦略と消費者の購買行動にも興味深い変化が見られました。
全国の土産菓子メーカーの多くが、観光客に頼るこれまでのビジネスを見直し始め、空港や駅だけでなく、量販店や百貨店にも販路を見いだし、そこで催される催事に積極的に出店するケースが増えていきました。同時に、例えば“ういろう”の老舗が地元客を狙った新商品を開発したり、北海道の定番土産メーカーがUAE(アラブ首長国連邦)のドバイに海外1号店をオープンして海外の市場開拓に挑んだり、生八ツ橋の老舗が通販サイトに販路を拡大するなど、新たな活路を見いだそうと、“脱・観光客頼み”の波が波及。
片や、消費者は、巣ごもり時間を充実させるために、久々にお菓子を買うなら、ちょっと高価でもその土地ならではの特別なものが欲しいと、全国各地から土産菓子のお取り寄せ需要が高まりました。その証拠に、2021年以降、菓子原料の高騰によって商品価格が値上げされたにも拘わらず、土産菓子の購買意欲は鈍らず、高価でも他にはない味の希少性や付加価値に惹かれる傾向が強まっています。
土産菓子市場全体で見ると、2025年には2019年を上回る4000億円まで拡大することが見込まれています。従来の、旅行や帰省のお土産としてだけでなく、誕生日やバレンタインデーなどのイベントのギフトとして、さらには自分へのご褒美としての需要も増えている昨今。ただしそこには同時に、好調な量販店での販売に比重をかけ過ぎ、現地へ行かずとも、いつでも・どこででも買えると思われることが、“土産ブランド”の地域性や希少価値の低下を招きかねないという、危うい一面と背中合わせだともいえます。
参考:
日経МJ(2024年3月20日付)