庶民の暮らしとは別の世界の出来事のように進行しているのが、超富裕層をターゲットにした高価格サービスの広がり。
ひと口に“富裕層”といっても、その金融資産の保有額でランク分けされています。“超富裕層”は、金融資産が5億円以上の世帯で、その数、約9万世帯。全世帯の0.16%にあたり、総資産規模は105兆円。1世帯あたり、約10億円超の資産ということになります。次いで、金融資産が1億円以上〜5億円未満が“富裕層”で、約140万世帯、資産規模は259兆円。続く、5000万円以上〜1億円未満の“準富裕層”は、約325万世帯で、258兆円の資産規模となっています(2021年/国税庁・総務省)。
超富裕層市場で真っ先に思い浮かぶのが“億ション”。昨秋誕生した複合施設「麻布台ヒルズレジデンス」(森ビル/東京・港区)の54〜64階に入る91戸の分譲平均価格は20億円〜、最上階にいたっては300億円ともいわれます。
日本に少ないといわれていた、超高級な“五つ星ホテル”も昨年から開業ラッシュを迎えています。昨春オープンした「ブルガリ ホテル東京」(東京・八重洲)は、1泊25万円からで、スイートの料金は400万円を超えます。
フェラーリやポルシェなどの高級輸入車を取り扱う[コーンズ・アンド・カンパニー・リミテッド](東京)が昨夏、総工費300億円以上をかけて会員制サーキット「THE MAGARIGAWA CLUB(マガリガワ・クラブ)」を千葉の南房総にオープン。全長3.5kmコースを、自分の所有するスーパーカーで思う存分走ることができる、入会金1口3600万円のサーキット。発売してすぐに200口が完売しました。
富裕層羨望の超高級老人ホーム「サクラビア成城」(セコムと森ビルの共同出資/東京・世田谷)は、入居金が約1億2000万円〜4億5000万円台。入居の条件は、70歳以上で、要支援・要介護の認定を受けていない方。医師が24時間365日常駐。“いつかはサクラビア”と、保証金100万円を払って、10年後20年後の入居を希望する待機会員が30人以上いるとのこと。
日本では、長らく”中流”が経済のベースだったため、超富裕層向けの高価格サービスに戸惑う人も多いことでしょうが、いよいよ日本も超富裕層ビジネスを戦略的に展開する段階に入ったといえそうです。市井の私たちには、格差を悲観的に捉えるのではなく、富裕層が取り組むリゾート開発や街づくり、観光資源開発などの側面を、日本の魅力を高めるための戦略の一つとして捉えることが求められているのかもしれません。
参考:
国税庁 https://www.nta.go.jp/
総務省 https://www.soumu.go.jp/
麻布台ヒルズレジデンス https://www.azabudai-hills.com/
ブルガリ ホテル東京 https://www.bulgarihotels.com/ja_JP/tokyo/
コーンズ・アンド・カンパニー・リミテッド https://www.cornes.co.jp/
サクラビア成城 https://www.sacravia.co.jp/
日経МJ(2024年1月5日付)
昨年、ペットの飼育数が子どもの出生数を上回ったというニュースが話題となりました。『一般社団法人 ペットフード協会』の調査によると、ペットの総飼育数は約1591万匹で、そのうち、イヌが約684万匹(前年比約21万匹減)、ネコが約907万匹(前年比約23万匹増)。それに対し、2023年の出生数は約76万人(前年比約5%減)と、ペットの飼育数が大幅に上回っています。
日本、海外共に、ペット市場の成長をけん引するトレンドは、“ペットの家族化”です。“Pet Humanization”(ペット・ヒューマニゼーション=家族化)とも呼ばれ、ペットが私たち人間と同じように存在感を増し、飼い主との関係がより強調されるようになってきました。これに伴い、ペット関連用品の質を、人が使うレベルまで引き上げ、例えば、ペットフードの原材料にはすべて人が食べられる水準(ヒューマン・グレード)の食材を使用するようになりました。
こうしたなか、最先端のテクノロジーを駆使してぺットの世話をサポートする商品やサービス、「ペットテック」の市場が国内外で急激に拡大しています。基本的には、飼い主の負担軽減やペットの健康管理・快適性の向上を実現するためのもので、コロナ禍が落ち着き、飼い主の外出機会が増えたことが市場拡大の要因といえます。
ペットテックのアイテムはバラエティーに富んでいます。
外出先からでもペットの様子を確認できる「見守りカメラ」(ペットカメラ/スマートカメラ)や、自動で食べ物や水を補充・提供してくれる「自動給餌器」・「自動給水器」。排泄物を自動的に処理してくれる「自動トイレ」。さらに、ペットの排泄物から健康状態をモニタリングできる「スマートトイレ」。
ペットの気持ちを読み取れる機器も登場。心拍情報から5色のLEDライトで“リラックス”“ストレス”などのペットの感情を判定して飼い主に伝えます。
ペットの首輪などに装着し、健康管理ができる“ウエアラブルデバイス”は、GPS機能を使えば行方不明になってもペットの位置を知ることができます。また、ペットの鼻をスマホでスキャンして“鼻紋”をとるだけで、AIが解析して個体識別し、飼い主に連絡できるアプリも開発されました。災害時や迷子になった時などに役立ちます。
今後、さらにペットの家族化に拍車がかかり、ペットにかけられるお金はますます増え、ペットテックの市場は着実に拡大し続けることが予想されます。ちなみに、ネコの飼育に関する1カ月の平均支出額は、8005円でした(2023年/前年比約10%増)。
参考:
(一社)ペットフード協会 https://petfood.or.jp/
厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/
日経МJ(2024年2月14日付/同2月21日付)
「生成AI」というワードを頻繁に耳にするようになった昨今。メーカーや小売りを中心に、商品開発やコンテンツ制作など、マーケティング活動に生成AIを活用する取り組みが進んでいます。
従来の「AI(人工知能)」は、大量のデータを処理し、特定の業務を自動化したり、既存の情報を分析したりすることは得意ですが、ここから新たなコンテンツなどを生み出すことはできません。
一方「生成AI」は、“Generative(生産能力のある)AI”という意味からも、0から1を生み出す能力が備わっています。あらかじめ学習したビッグデータからパターンを抽出・分析し、それを基に商品の需要予測をはじめ、文章や画像、音楽などの新しいアイデアやオリジナルのコンテンツを、短時間で多数、創り出します。つまり生成AIには、“業務効率の向上”“コストの削減”といった、これまでのAIの能力に加え、“提案力の強化”というクリエイティブな“武器”が備わったことになります。
[キリンHD]は、缶チューハイ「氷結」の商品開発で、過去3年分のユーザーインタビューの情報を学習させた“ターゲット像(ペルソナ)”を生成AIでつくり、これまで50時間以上かかっていた消費者マインドの分析スピードを画期的に短縮。
[伊藤園]では、パッケージデザインのラフ画作成に生成AIを導入。アイデアの数を大量に提案することが可能に。[パルコ]は、キャンペーン広告のビジュアルデザインをはじめ、ナレーションや音楽なども、すべて生成AIだけで制作しました。[イオン]は今年、グループ90社の約1000人を対象に生成AIの利用を開始。店舗での文書の作成や商品企画、アイデア立案などの用途で活用。[セブンイレブン]も今春から商品企画に生成AIを導入し、企画に要する期間を10分の1に短縮。[NEC]は今春、国内初となる生成AI搭載の電子カルテを発売。カルテに記された診療データを基に、紹介状などの文章案を自動で作成します。
ある調査によると、“生成AI導入を検討している”という企業が約61%だったのに対し、実際に業務で活用している企業は、わずか9%ほどに過ぎないという結果が。また巷では、生成AIの出現で消滅してしまうかもしれない職種の話がささやかれています。しかし、生成AIから導き出されたアイデアを基にブラッシュアップするのは、ヒトがやるべき仕事です。敵対するのではなく、使い方次第で強力なパートナーとなり得るはずの生成AI。まだ“ヨチヨチ歩き”を始めたばかりですが、今後は、活用いかんで企業の業績にも多大な影響を及ぼすのは間違いなさそうです。
参考:
キリンホールディングス https://www.kirinholdings.com/jp/
伊藤園 https://www.itoen.co.jp/
パルコ https://www.parco.co.jp/
イオン https://www.aeon.info/
セブン-イレブン・ジャパン https://www.sej.co.jp/
NEC https://jpn.nec.com/
日経МJ(2024年1月19日付/同2月9日付)