観光庁の支援を受け、「泊まれるお城」が全国で続々と名乗りを挙げています。
その先駆けとなったのが愛媛県の「大洲(おおず)城」。鎌倉時代末期に築城され、2004年に天守の内部まで忠実に復元された木造天守と重要文化財の櫓(やぐら)に貸し切りで宿泊してお殿様気分を味わえるのが、2020年に開業した「大洲城キャッスルステイ」です。一日1組限定、2名1泊、100万円(税別/夕朝食付)というインパクトのある宿泊料金が話題となり、日本だけでなく、欧米豪の新聞に取り上げられるなど、ワールドワイドに話題となりました。
松山空港でスタッフの出迎えを受け、城に到着すると、男性なら“殿”として甲冑(かっちゅう)を、女性なら“姫”として着物に着替え。その後、史実を基にした“城主入城体験”の歓迎セレモニーが始まります。鉄砲隊の祝砲(本物の火縄銃)が響き、法螺(ほら)貝が鳴り、数十人の家臣らの出迎えなど、タイムトリップしたような仕掛け満載。ただ、城内にはエアコンや床暖房などの設備がなく、お風呂も隣接する別棟まで移動しなければならないなど、いわゆる“ラグジュアリーな高級宿”をイメージしている客には満足してもらえないかもしれません。しかし、それらのマイナス要因を超える感銘を受けた宿泊客の多くは、口をそろえて“100万円は安い”という感想をもらすとか。
長崎県の「平戸城」は、天守閣の“懐柔(かいじゅう)櫓(やぐら)”を2階建ての宿泊施設として改装し、一日1組(5名まで)限定の完全貸し切りの城泊、「平戸城CASTLE STAY懐柔櫓」を2021年にスタート。1泊1室60万円(税別/食事別)。
天守閣には泊まれませんが、城の間近に泊まれるというお城も。
長崎県の「島原城」では、日本初、キャンプ(車中泊)でお城に泊まれる「島原城の城キャン」を実施しています。本丸内が駐車場になっている、全国でも珍しいお城。乗用車やキャンピングカーでの利用は1泊2名4000円(税込)、常設トレーラーでの宿泊は、1泊2名8800円で、ライトアップされた夜の島原城を堪能。もちろん、城内は火気厳禁のため、たき火やバーベキューなどは禁止です。
どちらかと言えば、これまで、日本の城は保存一辺倒。活用法といえば拝観ぐらいで、保存費用の大半は税金に頼ってきたのが実情です。地方の自治体では、人口減や経済の停滞などで税収が減少、支えきれずに官民連携での事業に取り組み始めたという背景があります。地域活性化の広告塔として人を呼び、賑わいをとり戻し、活気ある“城下町”として栄えることにつながる「城泊」。余談になりますが、昔の武将は御殿など城内に別棟を建てて暮らすのが常で、実際に天守で寝起きしていたのは、あの安土城の主、織田信長くらいだったとか。
参考:
大洲城キャッスルステイ https://castlestay.ozucastle.com/
平戸城CASTLE STAY懐柔櫓 https://www.castlestay.jp/
島原城の城キャン https://shimabarajou.com/
日経МJ(2023年3月3日付)
これまで、軽貨物運送には軽トラックや軽バンなどの商用車、または125cc未満のバイク、自転車に限られていましたが、国交省は『貨物軽自動車運送事業法』を改正し、2022年10月から家庭用軽乗用車による軽貨物運送が解禁されました。背景にあるのは、EC市場の拡大に伴って増え続ける宅配貨物の数。人手不足が慢性化し、ドライバーの確保が追いつかないため、モノが運べない・届かないという“宅配クライシス”といわれる状況に陥っています。宅配大手の[ヤマト運輸]や[郵便会社]といった既存の物流事業者による宅配インフラからあふれ出した貨物に対応するために実施される、今回の規制緩和。
ただ、解禁されたとはいえ、軽のオーナーなら誰でもすぐに配送業務を請け負うことができるというわけではありません。まず「貨物軽自動車運送事業」を届け出て、現在の黄色ナンバーから事業用の黒ナンバー(黒地に黄色文字)の取得が必要となります。
軽乗用車で積載できる貨物の重量は165kgまでに制限されており(軽トラの約半分)、20kgの段ボール箱なら8個しか積めないことに。このことからみても、この業務をフルタイムで本業とするには現実的ではなさそうです。自ずと、休日やアフターファイブ、子どもの送迎のついでなどのスキマ時間を活用して、副業的に参入するオーナードライバーが大量に生まれることが予想されます。
一方で、今回の規制緩和の“しわ寄せ”を被る人も出てくることに。その筆頭は、現在、専業で貨物運送に取り組んでいるドライバーたちです。その車両台数は、全国で、2015年度の25万台から2021年度には33万台に増加。1台1人の単純計算で33万人のオーナードライバーが“生業”として小口の配送業務を担っていることになります。そこに新たに参入した“配送ビギナー”による運賃引き下げの常態化が危惧されています。
今回の改正を、フードデリバリー業界では積極的に後押し。[ウーバーイーツ][出前館]などが加盟する「日本フードデリバリーサービス協会」は、降雪時や大雨・強風時など、自転車や原付バイクによる配達が困難な状況であっても軽乗用車を利用することで配達が継続でき、サービス提供範囲を拡大できると歓迎。
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少ない荷物とはいえ、効率的に配達をこなすにはそれなりの専門的スキルと経験が求められます。配達順のコース組みや、その順番通りに荷物を積み込むスキル、狭い住宅地の路地を運転するスキル、駐車して違反切符を切られる前に車に戻るスキルなど。努力と工夫で稼ぐことは可能ですが、片手間で稼げると思うのは危険。自分のいつもの“軽”自動車を使うからといって、“軽”い気持ちで配送業に臨むには、それなりの注意と覚悟が必要といえそうです。
参考:
国土交通省 https://www.mlit.go.jp/
(一社)日本フードデリバリーサービス協会 https://www.jafda.or.jp/
日経МJ(2022年12月16日付)
「代行サービス」が、今やすっかり市民権を得て世の中に根付いた感があります。“行列代行”“恋人代行”“墓参り代行”……さまざまな分野でビジネスとしての代行サービスの需要が高まるとともに、新たなサービスも出現して話題となっています。
2022年8月、「PTA代行」のサービスが注目を集めました。手を挙げたのは、大手旅行会社の[近畿日本ツーリスト](以下、近ツリ)。そのアウトソーシングサービスの主な内容は、1.広報誌などのデザイン・印刷・封入・発送 2.PTA専用WEBサイトの開設 3.学校行事の受付、事務作業などの人員確保 4.学校行事やPTA主催イベントの企画・運営、ライブ配信のプロデュース 5.PTA主催の講演会開催や出張授業、学習支援の実施。
しかし、父兄の代わりに「近ツリ」のスタッフがPTA会長になってくれるわけでも、PTA業務のすべてを丸投げできるというものでもありません。一見、畑違いの会社のようですが、元々、旅行業務において添乗員、事務スタッフ、通訳、イベントスタッフなどといった得意分野への人材派遣業務はお手のもの。案件ごとのノウハウを持った同社の専門部署、もしくはグループ会社がPTA業務を直接担当します。つまり、この代行サービスは、「近ツリ」が本業でこれまで培ってきたノウハウを生かせる業務に絞られるということです。PTA代行に関しては賛否両論あるようですが、小・中学生を持つ保護者たちは、おおむね好意的な反応が多いといいます。
ほかにも、PTA業務代行の会社をマッチングできるサイト[ピータス]、PTA業務全般を発注できる[PTAプロワークス]などがあります。
公立中学における教員の「部活顧問」問題も浮上しています。
担当する部活の知識も競技経験もない教員が顧問になるケースが、4割以上を占めているという現実。スポーツ庁は、部活動は必ずしも教員が担う必要のない業務とし、休日の部活(運動部・文化部)を段階的に地域や民間へ移行することを掲げ、2023年度から2025年度末までを改革推進期間と位置付けています。
「近ツリ」はこの分野でも学校サポート事業の一環として、2023年4月から「部活動代行サービス」を開始。サービス内容は2本柱で、1本目が、どこに住んでいても専門的な指導が受けられる「オンライン部活」。そのラインナップは(2023年2月時点/カッコ内は協業企業)、“eスポーツ部”(NTTe-Sports)、“ダンス部”(エイベックス・マネジメント)、“ドローン部”(ドローン大学校)、“ヨガ部”(LAV International)。各授業、
オンラインツールを使用したプロ講師によるリアルタイムの指導で、双方向コミュニケーションが可能です。2本目が、部活動の運営に必要な事務局機能を代行する「部活動運営事務局」。
なお、サービスの料金などは公開されておらず、自治体や学校ごとの事情に応じて相談を受け付けているとのこと。
時間がなくてできないのなら、また、やる人がいないのなら、外部に任せられることはアウトソーシングする----たしかにビジネスの世界では当たり前のことですが、「代行」で、PTAや部活動が抱えるさまざまな課題の根本的な解決になるかといえば、微妙なところかもしれません。
参考:
近畿日本ツーリスト https://www.knt.co.jp/company/
スポーツ庁 https://www.mext.go.jp/sports/
日経МJ(2023年3月24日付)