“スキル”を習得するためにさまざまな勉強をすることが“スキリング(skilling)”。さらに最近、“学び直し”する意味の「リスキリング(Re-skilling)」というキーワードが、急速にビジネスの現場に浸透しつつあります。ビジネスパーソンが、今の仕事を続けながら新たな技術や知識を得るための取り組みのことで、単に今あるスキルを伸ばしたりするのとは違い、まったく新しいスキルの習得を目的としたものです。
終身雇用が定着していた頃の日本での“学び直し”は、年収アップや転職など、あくまで個人レベルの動機でした。しかし、グローバル化の波が押し寄せ、終身雇用も崩れ、さらにそこへ襲ってきたコロナ禍で、一気にDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が顕在化。アナログからデジタルへと転換することで、新たな業務が発生し、仕事の進め方が大きく様変わり。必ずしも、リスキリング=DX教育、というわけではありませんが、リスキリングが、今、日本社会で推進されているDX化に対応する上での最適な方法の一つであることは間違いなさそうです。そのため、年収をアップさせるという目的どころか、現状維持するためにも学ばなければ、社内での存在価値が危うくなるという必然性に迫られています。
同じことは、DX化への対応に迫られている企業側にも言えます。深刻なIT人材不足から、企業間のDX人材の争奪戦が激化。そこで企業は、外部からスキルを持った人材を採用するのではなく、自社の社員にリスキリングによってDXスキルを身に付けてもらうという策に舵を切りました。企業が、DX時代に合わせて事業戦略を見直すと同時に、社員の育成戦略もまた“自社のことは自社で”という方向に変更する必要があったということです。
リスキリングが現在のように世界的注目を集めるようになったのは、2020年の『ダボス会議』(世界経済フォーラムの年次総会)で「リスキリング革命」が主要議題に上ったことがきっかけでした。DX普及の加速による、DX人材育成の文脈の中で使われた言葉でした。日本政府も、2022年秋に策定した「総合経済対策」の中に、リスキリングを含む“人への投資”に、5年間で1兆円の支援を盛り込んでいます。
ある調査によると(20〜59歳の正社員3000人を対象)、現在、リスキリングに取り組んでいるという人は、約30%。また別の、アジア太平洋地域14カ国を対象に行った調査では、社外学習や自己啓発をしていないという日本人が46%を超え、他国よりずば抜けて高いことがわかりました(平均は約13%)。はたして、学ぶことが定着していない日本のビジネスマンに、“学ぶことは仕事の一部”という意識が根付くことができるか---リスキリングという行動が、企業・社員、双方にとって、将来の行方を左右するといっても過言ではないでしょう。
参考:
朝日新聞(2022年6月26日付)
日経МJ(2022年10月24日付)
コロナ禍を発生源とする未曾有の事態は、日本経済、とりわけ労働市場を直撃しました。休業や時短営業のしわ寄せは、もろに労働者に及び、雇用は継続されているものの、月に数回しかシフトに入れないといった“隠れ失業者”が大量に発生。さらには、“働き方改革”による残業規制も加わって、“現在、職に就いているけれど、もっと働きたい!もっと稼ぎたい!”と願う人たちが増加。
そんな、いわゆる“追加就労希望”の就業者たちにとって格好の“場”と“機会”の受け皿となったのが、企業に属さず、単発・短時間・短期間で働く「スポットワーク」という新しい働き方です。
働き手が、それぞれの条件に合った働き方を実現できるとともに、受け入れ側にとっても、継続的な雇用関係にとらわれずに慢性的人手不足の解消や急なシフト変更に対応可能な、スポットワーカーという超短期雇用の求人は魅力です。
契約形態は、雇用契約を結ばない“業務委託”タイプと、短期の雇用契約を結ぶ“単発バイト”タイプの2種類に大別されます。
業務委託タイプは、「UberEats」や「menu」などに代表されるような配送・デリバリー業務を中心とした成果報酬型。デザイナー、プログラマーといったオフィスワークのスキル型業務もあり、最低賃金は保障されません。
一方、雇用契約タイプは、時給制で最低賃金や休憩時間など、労働基準法が適用されます。飲食、小売り、物流などの業務が中心となっています。
これらの需要を後押しするマッチングサービス(専用アプリ)の活用が広まっています。[タイミー]や[シェアフル]など、大手4社の登録会員数の合計が約760万人となり(2022年8月時点)、コロナ前(2019年)の2倍超に達しました。タイミーでは、2019年に16%にすぎなかった“会社員のスポットワーカー”の比率が、2022年には39%に上昇。いかに副業で働く人が増えているかを物語っています。同時に、スポットワーカーを求める企業(事業所)数も、2019年比で10倍(約8万カ所)に拡大しています。
[ワタミ]では、繁忙期の店舗でスタッフの1〜2割程度をスポットワーカーで対応。[カインズ]は2021年から、延べ1500人ほどを受け入れています。[ファミリーマート]では、スポットワーカー向けの業務研修会(給与あり)を昨秋から全国で実施。また、[JA]では農家の人手としてスポットワーカーの受け入れを検討。
働くまでに手間と時間がかからず、互いの条件がマッチングしたら即働けるのがスポットワークのメリット。たしかに、一時的で小刻みな時間の働き方にはネガティブな見方もありました。不安定な収入で、ワーキングプアの温床とさえ言われることも。しかし、現代のスポットワークは、あくまで本業の合間の副業として、あるいはバイトの兼業として追加で働くことが基本です。“その日暮らしリスク”とは一線を画するもので、ポジティブでクレバーなニーズから生まれたワークスタイルといえます。
参考:
(一社)スポットワーク協会 https://tghd.co.jp/
タイミー https://timee.co.jp/
シェアフル https://sharefull.com/
ワタミ https://www.watami.co.jp/
カインズ https://www.cainz.co.jp/
ファミリーマート https://www.family.co.jp/
日経МJ(2022年10月12日付)
ヘルシー食として認知されている和食の需要が、世界で増加の一途を辿っています。海外の日本食レストランの数は、2021年に15万9000店(農水省)と、この8年で約3倍に増えています。中でも、最もわかりやすくジャパンクオリティーをアピールできる“すし”、そして“すし職人”の技に注目が集まり、口コミで話題に。日本人の職人が在籍しているか否かで、その店の客の入りが違ってくるほど。
今、世界を舞台に、すし職人を巡る争奪戦が巻き起こっています。
すし職人の海外需要増の背景には、コロナ禍で日本に行きたいのに行けなくなったという、来日経験のある海外の富裕層を中心に、本場(日本)の味を自国で楽しみたいという欲求が高まったことにあります。
日本人料理人を海外に紹介する[和食エージェント](本社:クアラルンプール)では、香港やベトナム、カナダなど11カ国へ仲介。求人数は、2000年比で約17倍に増えています(2022年3月時点)。
日本初のすし職人養成スクールとして2002年に開校した[東京すしアカデミー]では、すし職人専門の求人サイト「SUSHI JOB」を運営。生徒の8〜9割が海外を目指しています。
ちなみに、海外からのすし職人募集の年収は、550〜650万円がボリュームゾーン。中には、年収が1000万円を超えるケースも。特に北米では、コロナ前と比べて3〜4割増の800〜850万円に上がって、職人の取り合いになっているとのこと(和食料理人向け海外求人サイト[Washokujob])。
厳しい師弟関係と、長い下積みの修行がつきもののすし職人の世界ですが、これらとは無縁のすし調理スクールが、昨年登場して話題となっています。“修行はいらない”と主張し、“超実践”をうたった[飲食塾](G-FACTORY/東京)で、一般的な調理師学校(1年制)のカリキュラムを3カ月に圧縮した濃密な短期集中型プログラムが特徴。授業料は121万円。海外で飲食店の運営を行っている同社のノウハウを生かし、海外志向のすし職人の支援を目的とした子会社をシンガポール、ベトナム、タイに有しているのが強み。
海外で働くすし職人にとっては、待遇面だけでなく、労働環境も魅力。休暇の取得や有給消化率は日本より高く、家賃補助が出るところも少なくありません。
すし職人の技術は世界で認知され、その技に価値を見出し、より高い対価で報いる-----今や、すしを握る職人たちにとっての理想の市場は、海の向こうにあるのかもしれません。
参考:
農林水産省 https://www.maff.go.jp/
和食エージェント https://washoku-agent.com/
SUSHI JOB https://www.sushijob.com/
Washokujob https://washokujob.com/
飲食塾 https://inshokujuku.com/
日経МJ(2022年9月26日付)