コロナ禍の3密回避もあって空前のアウトドアブームが到来。中でも、キャンプ場は大賑わいで混雑が続き、憧れの“ソロキャンプ”にやって来ても隣りのテントが騒がしくて…などというケースも少なくないとか。そこで最近は、存分に静寂を満喫できる“自分だけの山”を買って、“山主”になろうという人が増えています。
“山を買う”といっても、山ひとつを丸ごと購入するわけではありません。ある山の地権者の一人となって、山の一部を所有するということです。購入に際しては、地元の不動産屋や森林組合を訪ねて相談するほか、最近では山林売買を仲介する専用サイトの利用も増えています。
山の値段はケースバイケースで、“適正価格”というものが“ない”といっても過言ではない市場です。今人気の、車で90分ほどの場所にある“都市近郊林地”の評価額は、1平方メートル当たり1000〜5000円が相場の目安(国交省)。広さやロケーション、アクセスの良さはもちろん、平地か傾斜地かなど、価格を決める要素は幅広く、敷地内に川が流れているかといったことも土地価格に加味されます。さらに、そこに植えられている木の種類や樹齢、手入れ状況などが価格に反映され、スギやヒノキなどが人工的に植樹されている山林は高値の評価となります。
山林の取引を仲介する[山林バンク](和歌山)で売りに出されている物件を見てみると、山梨県の山林1万7879坪(5万9000平方メートル)で260万円、福島県の山林1000坪(3300平方メートル)で160万円など。同様に、山の売買を手掛ける[山いちば](京都)では、南丹市の7500坪(2万5000平方メートル=甲子園球場2つ分)の山が100万円ほど。
また、いきなりプライベートマウンテンを“買う”のではなく、“借りる”人も増えています。
[山共(やまきょう)](岐阜)が2020年から始めたのは、同社が所有する山の一部をキャンパー向けに年間契約でレンタルするサービス「forenta(フォレンタ)」。現在、岐阜県の77区画、静岡県の35区画を貸し出し中。1区画、約1000平方メートル(300坪)で、レンタル料金は年6万6000円から。
昨春スタートした、キャンプ場のマッチングサイト[ヤマカス](運営:メディコム/大阪)は、埼玉や群馬、奈良など14カ所の山林を山主から預かり、月1万円台から貸し出し中。
山を買う人は、数年前までは50〜60歳代が中心でしたが、最近は40歳代が急増。
レジャー目的以外にも、世界的木材不足からくる価格高騰の影響からか、建設関連の法人による山の購入が増えているのも昨今の特徴です。ヒノキなどの価格上昇につれ、山の価格も上昇傾向。それを見込んで、投資対象として山を手に入れる人も。
キャンプブームに端を発して脚光を浴びることになった日本の山。以前に比べて“稼ぐ”チカラが備わった、新たな姿に注目です。
※参考:
国土交通省 https://www.mlit.go.jp/
山林バンク https://sanrinbank.jp/
山いちば https://yamaichiba.com/
山共 https://yamakyo.com/
ヤマカス https://yamakas.jp/
日経МJ(2022年5月11日付)
密を避けるコロナ禍の移動手段として自転車の存在が見直される中、欧州を発祥とする「e-BIKE」(以下、eバイク)が、日本の自転車ファンの間でも注目を集めています。
「eバイク」とは、スポーツタイプの自転車に電動アシスト機能が付いたもの。キビキビとした“スポーツ走り”に特化している分、買い物や子供の通園用といった、いわゆる“ママチャリ”タイプの電動自転車とは似て非なる、新ジャンルの自転車です。国産品で20〜50万円、海外メーカー品になると50〜100万円と値は張りますが、動力性能に優れてパワフルで、バッテリー容量も大きい(100km超。従来の電動自転車は40〜50km)ことから、これまでの電動自転車では難しかった長距離や急勾配の坂道
を、年齢や脚力に関係なく快適に走れるのが特長です。
国内でeバイク市場に先鞭をつけたのは、電動自転車のパイオニアである[ヤマハ]。次いで[パナソニック]が続きましたが、市場として確立されたのは2018年以降のこと。日本のレギュレーションに合致したドライブユニットの発売が始まったのを機に、ドイツの[Bosch(ボッシュ)]や中国の[BAFANG(バーファン)]など海外メーカーが続々と上陸。そこに、[シマノ][メリダジャパン](ミヤタサイクルから改名)といった日本勢も加わり、国内外のスポーツ自転車メーカーによるeバイクの開発が激化しています。
決して安くはない買い物となるため、“試し乗り”として人気なのがeバイクのレンタルサービス。東京の[CycleTrip BASE(サイクルトリップ ベース)]は、スポーツバイク専門のレンタルショップ。無料で、希望する場所まで自転車を届けてくれたり、回収してくれる点が魅力で(東京23区内限定)、料金は1日6000円〜。
また、観光振興の一環として、自転車を使った“サイクルツーリズム”で地域活性化を進める動きも広まっています。体力に自信がない人でも楽しめるeバイクは、その裾野の広さから、関連施設の整備があれば街おこしの効果は十分に期待できそう。例えば、北海道ニセコで、「ニセコエリアマウンテンバイク協会」を立ち上げ、自治体と共にeバイクの利用可能な環境整備を目指しているように、自転車で地域を走り、触れて、消費する-----地元には経済波及効果を生み、サイクリストにはその土地ならではの価値体験が得られるという、まさに“地走地消”が、サイクルツーリズムの効用。
それにつけても、ファミリー層やシニア層にとって、eバイク1台50万円という価格は、かなりお財布には負担か。今、日本市場で求められているのは、一般の電動自転車並み(10万円台)のeバイク。国産・海外を問わず、手頃な価格帯のeバイクの投入が、今後の市場拡大のカギとなりそうです。
※参考:
経済産業省 https://www.meti.go.jp/
国土交通省 https://www.mlit.go.jp/
(一社)自転車産業振興協会 https://www.jbpi.or.jp/
サイクルトリップ ベース https://cycletrip.jp/
(一社)日本サイクルツーリズム推進協会 https://cycletourismjp.org/
日経МJ(2022年5月25日付)