人が集まることが歓迎されない“withコロナ”時代に入り、小売業全体、特に食品スーパーにおいて、“チラシ”や“ポイントカード”といった従来型の集客手段の効力に衰えが見え始めたと言われています。そんな中、小売りの現場では、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」化の動きが急速に広まっています。
そもそも「DX」とは? 経産省が2018年に発表したガイドラインによると、「データやデジタル技術(AI=人工知能、VR=仮想現実、など)を活用して、製品・サービス・ビジネスモデルを変革するとともに、組織そのものを変革すること」(要約)と定義されています。ただ単に、今までの業務をアナログからデジタルへ移行することが「DX」ではなく、組織の在り方や枠組みの変革までが求められ、最終的に競争上の優位性を確立することにあるとされています。
手さぐりとはいえ、“店舗DX”は、すでにさまざまな業態で実施されています。中でも最近、注目すべきは、“値引き販売”にもDXが活躍し始めたことです。
デジタル技術を駆使した次世代店舗“スマートストア”を掲げる[イオン]は、[日本IBM]と連携して「AIカカク」という売価分析システムを開発、2020年11月から導入しています。過去3年分の単品ごとの売価や実売時間帯、天候、来店客数などの店舗ごとの販売実績をAI が学習。総菜や牛乳など、日持ちのしない商品のバーコードと売り場の在庫数を従業員が端末に入力すると、適切な割引率が提示され、割引シールが発行される仕組みです。
[東急ストア]でも今年2月から、AIが総菜などの値引き率を管理するシステムを導入。これまでは全国の店舗一律で時間を決めて行われていたものを、リアルタイムの在庫管理機能を活用し、約400品目について店舗ごとに値引き率や値引きシールの貼るタイミングを判断するシステムに。
[ローソン]は今年6月、AIが店舗ごとの売れ行きを予測し、値引き額を算出・推奨する取り組みを進めると発表。2023年度中に全店での導入を目指します。
東京地盤のスーパー[いなげや]は、小売業のDX支援を推進する[D&Sソリューションズ]と組み、スーパー専用に開発した「LINEミニアプリ」を導入。顧客ごとの利用実績に応じて特典をつけたり、割り引いたりする、一種の“ダイナミックプライシング”方式で、同じ商品をすべての客に同じ額を割り引くという、これまでのセールからの脱却を目指します。
コロナ禍によって客の消費行動は変わりましたが、そんな時こそ、コロナ前の販促方法に戻すのではなく、DXを活用した新しい販促にチャレンジできるチャンス。AIによって最適で迅速な値引き販売が浸透すれば、“販売機会の拡大”と“食品ロスの削減”を両立できる可能性が、さらに高まります。
※参考:
経済産業省 https://www.meti.go.jp/
イオンリテール https://www.aeon.co.jp/
東急ストア https://www.tokyu-store.co.jp/
ローソン https://www.lawson.co.jp/
いなげや https://www.inageya.co.jp/
D&Sソリューションズ https://www.ds-solutions.co.jp/
日経МJ(2021年6月2日付/同8月11日付)
日経クロステック(2021年6月24日付)
ここ数年の「ワイヤレスイヤホン」の進化と市場の急拡大には目を見張るものがあります。
“ワイヤレス=無線”という名の通り、イヤホン本体に超小型のバッテリーを組み込み、一切のコード(ケーブル)を廃してオーディオ機器と無線で接続する仕組みのイヤホンのことです。この“無線”の役割を担うのが、「Bluetooth(ブルートゥース)」という、近距離でデジタル機器のデータ通信をやりとりする通信技術です。
ワイヤレスイヤホンには、イヤホンの左右本体部分がコードでつながっている“左右一体タイプ”と、左右のイヤホンがそれぞれ完全に独立した“完全タイプ”の2種類あり、今人気なのが後者の“完全ワイヤレスイヤホン”です。正式には“トゥルー・ワイヤレス・ステレオ”という名称で、略して「TWS」と呼ばれることが多くなっています。
2016年、[アップル]が発売した「AirPods(エアーポッズ)」が大ヒットして人気に火をつけて以来、年々、新規参入の数が増加。“機能性”と“価格”の両面がメーカー各社の争点となっており、中でもしのぎを削っているのが、いかに周囲の音を打ち消して音楽を聞こえやすくするかという“ノイズキャンセリング(NC)機能”の研究・開発です。
[ソニー]が2017年にNC機能搭載モデルを発売したのを機に、国内の高級イヤホン市場が開花。2019年からは、[ゼンハイザー](ドイツ)や[テクニクス]といった国内外のオーディオメーカーが相次いでNC付きのTWSを発売。2020年には、[BOSE]が満を持してTWS市場に参入。もともとNC技術の先駆者であるメーカーのため、発売されるや一気に人気を博しました。
もう一つの争点は、価格。NC機能を搭載していない低価格帯(1万円以下)のTWS製品が相次いで市場に投入されたことで、NC付きの高級モデル(2〜4万円以上)と二極化が進み、全体の平均価格を押し下げることに。
外出時に周りの音を気にせず音楽などを楽しむことができるのがTWSの大きな特性の一つ。そのため、コロナ下の外出自粛の中では逆風となるのではと思いきや、思わぬところで新たなニーズを獲得。それは、在宅ワークや勉強に集中したい時に周囲の騒音をシャットアウトできるというNC技術が活躍。いわば“耳栓”としての使われ方が、好調な販売実績に貢献しているようです。
今後TWSには、単に音楽を聴くためのスマホの付属アイテム的な存在としてだけではなく、ハンズフリー通話や同時通訳、身体の生体情報のモニタリングなどの機能が付加され、“ヒアラブル(耳に装着する)デバイス”としての可能性が期待されています。
※参考:
アップル https://www.apple.com/jp/
ソニー https://www.sony.jp/
ゼンハイザー https://ja-jp.sennheiser.com/
テクニクス https://jp.technics.com/
BOSE https://www.bose.co.jp/
日経МJ(2021年7月14日付/同8月20日付)
[日本フランチャイズチェーン協会]と経産省は、「コンビニエンスストア(以下、コンビニ)」大手7社の2020年の年間売上高が、4.5%のマイナスとなったと発表しました([セイコーマート]は唯一、増収)。全店ベースでの売上高が前年実績を下回ったのは、統計を開始した1981年以降、初めてのことでした。
成長にストップがかかった要因として、コロナ禍による外出自粛が直撃したことは明らかで、そうした立地にあるコンビニの売上高の急減が全体の収益減につながりました。
しかし、実はコロナ以前からコンビニを取り巻く事業環境にある種の変化の兆しが見え隠れしていたのです。年間1000〜1500店ペースで店舗網を広げ、超えるのは難しいとされてきた5万店を達成したものの、出店の飽和状態を招き、ついに2019年末には、新規出店にブレーキがかかってしまいました。さらに深刻なのが“人手不足”と“人件費の高騰”。共に、加盟店負担が原則のため、ダイレクトに経営を圧迫する要因となります。加えて、50代以上が6割を超えるという加盟店オーナーの高齢化も喫緊の課題となっています。
そんな状況を、コンビニの新しい在り方を考えるいい機会と捉え、さまざまな角度からアフターコロナのコンビニ像を模索しています。
まず各社とも 、今回の“教訓”を踏まえ、出店候補地をオフィス街から郊外へとシフトする動きを活発化させています。
また、例えば[ファミリーマート]では、加盟店ケアに突出した支援策を打ち出します。営業の継続が難しくなったフランチャイズ店舗を本部が一旦直営化し、収益力を強化してから再びフランチャイズ店に戻すといった既存店のテコ入れ策を発表。
一方、品ぞろえの見直しの観点からは、まとめ買いがきく冷凍食品や、宅飲み需要に対応する酒類・総菜の拡充に続き、日用雑貨の品ぞろえを強化。[セブン]が100円ショップ[ダイソー]の売り場を併設すると、[ローソン]では[無印良品]の商品をそろえるなど、異業種とのコラボが相次いでいます。ほかにも、スーパーで購入した商品の受け取りロッカーを設置したり(セブン)、宅配サービスに対応する店舗を増やしたり(ローソン)、商品棚に飲料などを補充するロボットの活用(ファミマ)、など。
1974年、日本にコンビニが誕生しておよそ半世紀。
どうやら、今回初のマイナス決算を招いた根本原因は、コロナそのものではなく、以前からコンビニ業界が抱える構造問題にあり、コロナ禍が図らずもそれを浮かび上がらせた、という図式のようです。大量出店を前提とした事業拡大が終焉を迎えようとしている今、各社とも文字通り“持続可能”なビジネスモデルの確立が急がれます。
※参考:
一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会 https://www.jfa-fc.or.jp/
経済産業省 https://www.meti.go.jp/
セイコーマート https://www.seicomart.co.jp/
ファミリーマート https://www.family.co.jp/
セブン-イレブン・ジャパン https://www.sej.co.jp/
ローソン https://www.lawson.co.jp/
日経МJ(2021年8月4日付/同8月18日付)