ある心理的な動きが、無意識のうちに特定の“モノ”を強く希求することがあるようです。出口の見えないコロナ禍によるストレスでふさぎ込んでいた気持ちが、「炭酸」の持つ爽快感やリフレッシュメントを強く求め、せめて喉越しから、この鬱積した気分を発散させたいと願う生活者のニーズが増幅したのか、家庭内での「炭酸飲料」の消費が拡大。中でも、コロナ禍をきっかけに「無糖炭酸水」が大きく伸長し、2020年には過去最高の販売数量を記録しました。
背景にあるのは、コロナ下の運動不足からくる健康意識の高まりで、糖分摂取を控える消費トレンドが市場拡大を後押ししています。
無糖炭酸水の市場をけん引するのは、シェア48%で“王者”として君臨する「ウィルキンソン」(アサヒ飲料)。2008年から13年連続で伸び続け、昨年の販売数量は過去最高を更新しました。
最近の新しい波として、“甘い炭酸は飲みたくないけど、まったくプレーン(無糖)の炭酸では物足りない”という、有糖と無糖の中間のニーズも沸き起こってきており、メーカーは競うようにフルーツフレーバー付きの無糖炭酸水を投入。ユーザーの間口が広がり、市場の活性化につながっています。
レモン、ジンジャーなどの無糖炭酸水「サントリー天然水スパークリング」シリーズを展開する[サントリー]から今年3月、「贅沢しぼり グレープフルーツ」が発売されました。砂糖を使わないゼロカロリーでありながら、グレープフルーツ由来の甘みが感じられるのが特徴です。
[キリン]は、“甘くないのにキリンレモン”をコンセプトに、同ブランド初となる無糖炭酸水「キリンレモン スパークリング無糖」を昨年6月に発売。11月には年間販売目標を早々と突破する好調ぶり。
[ポッカサッポロ]からは、昨年6月、レモン1個分に相当する果汁を入れつつ無糖でカロリーゼロに仕上げた、「キレートレモン 無糖スパークリング」を発売。
[コカ・コーラ]は、独自の“冷却スパーク技術”によって同社史上最強のガスボリュームの圧入を実現した、無糖強炭酸水「アイシー・スパークfrom カナダドライ/レモン」を今春、発売。開栓後の炭酸力の持続が売りです。
もちろん、無糖炭酸派が増えているとはいえ、甘い炭酸のファンも根強く存在します。今後はいっそう、有糖、無糖の垣根を越え、無糖のヘルシーさを維持しながらも果汁感などで飲みごたえを追求するといった、新ジャンルの炭酸水が市場を賑わすことになるでしょう。メーカー間の“炭酸水戦争”に、ますます拍車がかかりそうです。
※参考:
(一社)全国清涼飲料連合会 http://www.j-sda.or.jp/
アサヒ飲料 https://www.asahiinryo.co.jp/
サントリー食品インターナショナル https://www.suntory.co.jp/
キリンビバレッジ https://www.kirin.co.jp/
ポッカサッポロフード&ビバレッジ https://www.pokkasapporo-fb.jp/
コカ・コーラシステム https://www.cocacola.co.jp/
日刊工業新聞(2020年8月4日付)
朝日新聞(2020年12月17日付)
食品新聞電子版(2021年4月5日付)
喫茶店やフルーツパーラーなどに昔からあった「フルーツサンド」が、なぜか今、再ブレーク。いや、派手に姿を変えて、大ブレークしています。“令和バージョン”は、しっとりソフトな“パン”、ゴロンとまるごと使った“フルーツ”、甘さ控えめでたっぷりの“生クリーム”の三位一体のコントラストで、はちきれんばかりのボリューム感とカラフルで華やかな“見た目”。人気の最大の要因は、食べ物の断面の美しさに感動する“萌え断(もえだん)”ブームで、SNSから火がつきました。
今、ブームとなっているフルーツサンドの特徴は、いわゆる“パン屋”ではなく、青果店や八百屋が発信源となっている点です。
開店前から行列ができ、早い時は昼前には売り切れてしまうほどの人気店が、昨春オープンした「ダイワ中目黒店」(東京)。仕掛けたのは、岡崎市(愛知県)で代々続く八百屋[ダイワスーパー]。同店が全国的な有名店になったきっかけが、3年前から始めた看板商品のフルーツサンドでした。“八百屋の作る本気のフルーツサンド”と銘打ち、八百屋ならではの目利きを発揮して品種や生産者を吟味。鮮度の高い旬の果実を贅沢に使用した、見たことのないフルーツサンドがインスタで話題となり、これを求めて全国各地から客が訪れるまでに。「あまおう」など5粒ほどのイチゴをはさんだサンドが1058円、宮崎産マンゴーのサンドは3240円。平日で800〜1000個を売り上げます。
その成功に刺激を受けて、昨年12月、吉祥寺にオープンしたのは「先手家(ぽんてや)」。比内地鶏料理店などを展開する[YKT48]が、関東でトップクラスの規模を誇る青果店「丸八青果」とコラボし、プロの眼が厳選した最高級の果物を使用。パイナップルサンド486円、キウイみかんmix583円など。平日に200個、土日には400個が完売するとのこと。
昨年8月に、東京駅構内にオープンした「グランスタ東京」内にもフルーツサンド専門店が登場しました。「Be! FRUITS SANDWICH(ビーフルーツサンドイッチ)」で、百貨店を中心に果物を販売している[サン・フレッシュ](千葉)が運営。シャインマスカットサンド900円、まるごといちごサンド680円など、常時8〜12種類のサンドが並びます。
1991年に1万4000店近くあった果実小売業者が、2012年には約3900店と3分の1以下に減少(農水省)。人々のライフスタイルが変わり、皮をむくのが面倒、手が汚れる、保存に気をつかう、一人では食べ切れないなどの理由から、生の果物がどんどん敬遠されるようになったからです。そこで、青果店として生き残るには?と考えたときに思いついたのがフルーツサンド。冬はイチゴやみかん、夏はマンゴーやパパイアと、季節によって食材を変えられるので、そのまま食べるのとは違った果物の魅力を伝えることができます。青果店にとっては、果物をそのまま売るより利益率の高い商品との出会いに、新たな活路を見いだしたようです。
※参考:
ダイワスーパー https://358daiwa.com/
YKT48 https://hinaiya.jp/
サン・フレッシュ https://sunfresh-group.com/
農林水産省 http://www.maff.go.jp/
日経МJ(2021年3月14日付)
アーモンドやクルミなどの「ナッツ類」が今、身近な健康食品として再注目されています。
“太りそう”“カロリーが高そう”と敬遠されがちなナッツ。たしかにナッツには、種子植物として発芽し、成長していくために必要な栄養分がたっぷりと蓄えられているため、栄養価が高く脂質も少ないとはいえません。しかし、ナッツを食べたから必ずしも太るとは限りません。脂質=悪、というイメージがありますが、肥満の原因となったり、血中の悪玉コレステロールを増やして循環器系の病気を招くのは、主に“飽和脂肪酸”と呼ばれる脂質です。一方、ナッツの多くに含まれる“一価不飽和脂肪酸”には血液中の悪玉コレステロールを減らすはたらきがあり、“多価不飽和脂肪酸”には、そのはたらきにプラスして血圧を下げる作用があります。つまり、ナッツに含まれている脂質は、肥満や不健康に直結するものではなく、むしろ体に良い作用をもたらす種類の“健康的な脂質”といえるのです。それだけではありません。ナッツには、食物繊維やたんぱく質、ミネラル、ビタミンなど、体のはたらきを良好に保つ栄養素が豊富に含まれているため、生活習慣病の予防や抗がん、抗炎症、抗酸化などに効果があり、健康や長寿をサポートするはたらきがあります。
“世界三大ナッツ”といわれているのは、ビタミンEや食物繊維を豊富に含んだ“アンチエイジングの王様”、「アーモンド」。カリウム、マグネシウム、鉄分などのミネラル類を含み、デトックス&疲労回復&美髪効果のある「カシューナッツ」。ミネラル、ビタミンBを多く含み、皮膚や粘膜の健康維持、貧血予防、病気に対する抵抗力を高めるはたらきがある「ヘーゼルナッツ」の3種類。
そのほか、“ナッツの王様”と呼ばれ、最も歴史の新しい「マカダミアナッツ」。逆に、最古のナッツは「クルミ」で、血液をサラサラにする効果や美肌、貧血予防効果があります。また、最近、人気上昇中で“ナッツの女王”と呼ばれているのは「ピスタチオ」。高血圧予防や塩分の摂りすぎによるむくみ改善効果が期待できます。
国内で流通するナッツの大半は輸入品です。輸入量は、多い順にアーモンド、クルミ、カシューナッツ。今、市場をけん引するのは、塩分・糖分・油分を加えずにロースト(素焼き)されたもので、一日の摂取量の目安は25〜50g、片手でほぼひとつかみ分とされています。
7月22日は「ナッツの日」。暑い夏を乗り切るためのスタミナ食材として、まず浮かぶのは“うなぎ”ですが、ナッツも負けてはいません。うなぎ同様、ビタミンB群が豊富なうえに、ミネラルの含有量はうなぎを大きく上回っているのです。夏場の健康維持に、“ナッツパワー”の底力を実感してみてはいかがでしょう。
※参考:
日本ナッツ協会 http://www.jna-nut.org/
農林水産省 http://www.maff.go.jp/
日経МJ(2021年3月14日付/同3月29日付)