ある飲料メーカーが行ったアンケート調査によると、「ゴミ分別時のストレス」で2位にランクインしたのが、“ペットボトルのラベルはがし”だったとか(1位は、段ボールをつぶしてまとめる作業)。この煩わしい作業を解消することを目的の一つとして生まれ、最近、にわかに注目されているのが、ラベルのない(ラベルレス)ペットボトルです。
ペットボトルに貼付されたプラスチックラベルをなくすことで、ラベルをはがす手間を省くほか、プラスチック削減による環境負荷の低減に貢献。従来は、ボトルラベルに記載されていた原材料名などの表示は、外装の段ボールケースに記載。そのため、ラベルレス商品の多くはケース単位での販売が一般的です。また、容器自体も、これまではリサイクルマークを記載したタックシールを付ける必要がありましたが、昨年3月、『資源有効利用促進法』の一部改正により、タックシールが不要に。その代わり、ボトル本体に直接リサイクルマークを刻印することで“完全ラベルレス化”が実現しました。
他社に先駆け、2018年からラベルレスに取り組んでいる[アサヒ飲料]は、「おいしい水 天然水」や「ウィルキンソン タンサン」「十六麦茶」などに加え、昨秋には緑茶飲料のラベルレス商品を投入。昨年1-8月、同社のネット通販などのEC(電子商取引)チャネルでの販売数量は、前年同期比2倍超と好調に推移しています。
[伊藤園]は、「お〜いお茶 カフェインゼロ ラベルレス」を昨秋、発売。
[味の素AGF]からは、すでに2019年、EC限定で「ブレンディ ボトルコーヒー」のラベルレスが発売されています。
[日本コカ・コーラ]の「い・ろ・は・す 天然水」は、昨春からラベルレスに。ボトル表面にブランドロゴが大きくエンボス加工され、側面には製造者表記と識別マークが刻印された完全ラベルレス商品です。次いで、「綾鷹」「爽健美茶」などが続々とラベルレスで発売され、ECの売り上げは右肩上がり。
一方で、EC以外の販路を模索する動きもあります。
[サントリー食品]は昨春から、緑茶「伊右衛門」のボトルの首に小さな表示ラベル(原材料などを記載)を掛ける“首掛け式”を導入。これにより、EC限定のケース売りだけでなく、コンビニなどのリアル店舗での単品販売が可能となりました。
今回のラベルレスのムーブメントには、先に挙げた効果のほかに、飲料メーカーにとって最も重要な“使命”が託されています。それは、巣ごもり需要による飲料の宅配急増の波に乗った、ECチャネルの強化です。飲料各社の収益の柱である自販機やコンビニでの売り上げが激減するなか、活況を呈しているのがECの販路。ネット通販を主戦場とするラベルレス飲料には、もってこいの活躍の場といえます。
※参考:
アサヒ飲料 https://www.asahiinryo.co.jp/
伊藤園 https://www.itoen.co.jp/
味の素AGF https://www.agf.co.jp/
日本コカ・コーラ https://www.cocacola.co.jp/
サントリー食品インターナショナル https://www.suntory.co.jp/softdrink/
朝日新聞(2020年8月20日付)
日経МJ(2020年10月14日付/同10月28日付/同11月6日付)
健康志向の高まりを受け、フィットネス市場は2012年以降、7年連続で増え続けています(日本生産性本部『レジャー白書2019』)。利用者数も右肩上がりで、さらに高齢者層の“健康寿命”への関心度も高まり、フィットネス需要にはまだまだ伸びしろがあると思われていました、“コロナ”の前までは…。
経産省の調査によると、昨年5月のフィットネスジムの利用者数は約95%の大幅減。多くのジムが休業に追い込まれ、行き場を失った利用者は一時、“ジム難民”となってしまいました。しかし、コロナによってフィットネスの需要そのものが消失したわけではありません。“難民救済”に乗り出した業界は、その受け皿としてフィットネスのオンライン化(ライブ配信/動画コンテンツ)を急ピッチで整備。自宅でできるフィットネスサービス「ホームフィットネス」の市場が、またたく間に拡大しました。その波及効果もあって、コロナの影響が顕在化した昨春以降は、家の中で使用可能な「フィットネス機器」の販売が並行して伸びています。テレワークの合間のすき間時間に、手軽に運動効果を得ることができる上、ジムのように不特定多数が器具を共有しないという衛生面の安心感も好調の要因に。
売れ筋としては、“ダンベル”や“懸垂棒・平行棒”“ステッパー(踏み台昇降器)”などの初級的なものから、回転するベルト上を歩いたり走ったりできる“ウォーキング(ランニング)マシン”、体幹が鍛えられる“スライディングボード”、ペダルを回して運動する“エアロバイク”などの、やや大型の機器まで。なかでも、ここ数年トレンドとなっており、今回の市場拡大にも貢献している二つの器具があります。一つは、筋肉に微弱な電流を流すことによって収縮と弛緩を繰り返し、自分の意思とは関係なく筋肉をトレーニングできる“EMS(電気的筋肉刺激)タイプ”。かつてはベルトタイプが主流でしたが、最近は鍛えたい部位に貼るパッドタイプが人気です。もう一つは、細かく振動する機器(パワープレート)の上に乗るだけで、体幹やインナーマッスルが鍛えられる“振動タイプ”です。手元の操作だけで振動強度や速度を変えられるため、テレビを見ながらの“ながら運動”に最適。自ら体を動かす必要がなく、これなら続けられそうと、シニア層を中心に支持を得ています。
テレワークの普及で、通勤という、サラリーマンにとっての最大の“運動”がなくなったことで“コロナ太り”は増え、むしろコロナ前よりフィットネス需要は高まっているのが実情。さらに、感染拡大が収束に向かい、休業していたジムが復活したとしても、以前と同じだけの利用者が戻ってくるかは疑問視されています。
“自宅トレーニング”にフィットした機器の需要は、当分、弱まりそうもありません。
※参考:
公益財団法人 日本生産性本部 https://www.jpc-net.jp/
経済産業省 http://www.meti.go.jp/
日経МJ(2020年10月14日付)
ひところ話題となった“おひとりさまブーム”からほぼ15年が過ぎ、もはやブームとは言えぬほど定着した感があります。特にここ数年、おひとりさま市場の広がりを商機と捉えた外食業界では、しゃぶしゃぶ、すき焼き、焼き肉など、かつては一人で楽しむのが難しかった業態が積極的におひとりさま需要を取り込んで顧客を獲得。
その流れは、家庭にも押し寄せました。
少子高齢化による世帯人数の減少、単身世帯・二人世帯・共働きの増加など、家庭の形態が大きく様変わりしてきたと共に、家族も、各人、一日のライフスタイルが異なるため、そろって食卓を囲む機会が激減。一人ひとりが好きな時間に食事をとるという、“家庭内おひとりさま”現象に拍車がかかっています。
そんな“個食化”の影響を最も強く受けたのが、家族団らんの象徴ともいえる「鍋」。
昔から親しまれている人気メニューだけあって、“鍋つゆ”市場は活況を呈し、パウチ包装のストレートタイプやボトル容器の濃縮タイプなど、新商品が続々と登場。そんな好調市場に、2013年、ポーション容器に一人分の鍋つゆが入った「プチッと鍋」が[エバラ食品]から発売されました。まさに、1プチッと1人前という、主婦が待ち焦がれた個食対応の画期的商品でした。そして2020年、コロナ禍によって、料理を大勢の箸でつつきたくないという“新しい生活様式”の意識が高まり、すでに家庭で定着していた“ひとり鍋”が、改めて脚光を浴びることになりました。
一つの鍋を複数人で囲むスタイルが歓迎されない状況なら、従来の鍋の特徴である皆で一緒の空間・時間を共有しつつも、手元の鍋は、個々で具材・出汁・つけだれなどをアレンジ。家族や友人たちとつながりながら、自分お気に入りの鍋にカスタマイズしながら楽しむことができる、“みんなで個鍋”がトレンドになっています。
個鍋専門店が注目を集め、個鍋のレシピ本も相次いで出版。食器店でも一人用サイズの鍋の売れ行きが好調。テイクアウトやネット通販のお取り寄せでも、一人用容器を使用した商品が目立ちます。
そもそも“一人用鍋つゆ”は、食事時間バラバラの家族が一人のときでも鍋を楽しめるようにと開発された商品。それがコロナ下では、感染対策上、安心・安全な鍋スタイルにはなくてはならぬ立役者に。
鍋は家族みんなで食べるもの-----既成概念にとらわれ、従来の家族構成、生活スタイルを前提とした商品展開では、もはや消費者のニーズに応えきれないということに改めて気付かされた今回の個鍋ブーム。
今後、食品メーカーのみならず、関連業界の、“個食”という巨大市場への挑戦と戦略が注目されます。
※参考:
ぐるなび https://corporate.gnavi.co.jp/
エバラ食品 https://www.ebarafoods.com/
ミツカン http://www.mizkan.co.jp/
日経МJ(2020年11月2日付)