JRの[東日本][西日本]をはじめ、ドル箱の東海道新幹線を有する[JR東海]まで、JR主流各線がそろって初の営業損益赤字を計上(2021年3月期)。1987年の民営化以来、最悪の数字となりました。いったい誰が、インフラの要である鉄道が、これほどまで落ち込むことを予測し得たでしょうか。
未曽有の鉄道危機、その最大の要因は、“コロナ”で人が電車に乗らなくなったことにあります。
外出・移動の自粛要請の呼びかけと共に、在宅勤務やオンライン授業の拡大で通勤・通学客が激減。出張もウェブ会議の定着で新幹線に乗る必要がなくなり、さらに訪日外国人観光客や修学旅行などの大口観光需要も消失。これまであった膨大な移動需要が、一気に消えてしまったのです。
しかし、鉄道各社が抱える真の“苦悩の種”は別のところにありました。
鉄道の経営は、運賃収入による“日銭商売”が基本。そのため各社は、少子高齢化がもたらす沿線住民の減少を見越し、非鉄道事業に力を入れてきました。ホテルや不動産、レジャー、商業施設などの事業に資本を投入し、経営の多角化を進めてきました。まさに、“今回のような事態”に備えて、のはずだったのですが、その非鉄道の事業が、“本家”の鉄道以上にダメージを受け、逆に足を引っ張ってしまう結果に。特に、政府の観光立国に呼応してホテル事業を強化してきた私鉄各社は、その努力があだとなり、業績が総崩れとなった事態に落胆は隠せません。ホテルのウエイトが高い[西武]は、私鉄大手で最大の赤字額を計上。[阪急阪神]は、プロ野球の開幕延期の影響で収益が落ち込み最終赤字に。総じて、レジャー施設関連路線や空港へのアクセス路線を抱える会社ほど収益減が目立つ傾向にあります。JR、私鉄各社は、今春から終電時刻の繰り上げや減便に踏み切るなど、応急処置的対応に懸命。
コロナ前から衰退傾向にあった鉄道業界が、5年、10年かけてじっくり中長期的な展望を検討しようとしていた矢先、一気に待ったなしの状況に突き落とされたというのが現場の思い。いずれにせよ、運輸事業で稼いだ日銭を非鉄道の関連事業に投じて成長してきた長年のビジネスモデルはもはや通用しなくなり、抜本的な事業構造の見直しが迫られています。
そんな折、経営破綻の危機が忍び寄る[銚子電鉄]では、“売れるものは何でも売ってお金に換える”と、「線路の石(バラスト)の缶詰」(550円)の販売を開始。さらに昨年11月、JR東日本が新幹線を使った貨物輸送に本格的に乗り出すことを発表。
鉄道の、切羽詰まった窮状が浮き彫りになります。
※参考:
JR東日本 https://www.jreast.co.jp/
JR西日本 https://www.westjr.co.jp/
JR東海 https://jr-central.co.jp/
西武ホールディングス https://www.seibuholdings.co.jp/
阪急阪神ホールディングス https://www.hankyu-hanshin.co.jp/
日経MJ(2020年9月21日付)
日本経済新聞電子版(2020年9月25日付/同10月21日付) コロナ
今、日本はもとより、世界中で「プロテイン」関連の食品・飲料が急拡大しています。
プロテインとは“たんばく質”のことですが、最近話題となっている「プロテイン」は、たんぱく質を摂取できる栄養補助食品という意味合いの総称として呼ばれています。かつては、筋骨隆々のボディビルダーやプロのアスリートといった限られた人が使用するイメージが強かったため、市場も小さかったプロテインですが、2013年以降は毎年2ケタ増の成長を続け、10年前の4倍近くの規模に膨れ上がっています。背景には、スポーツ人口の増加に伴い、健康美を求める“プロテイン女子”やたんぱく質が不足がちとなるアクティブシニアの増加など、ユーザーのすそ野の広がりが挙げられます。加えて昨年は、巣ごもりによる“コロナ太り”を解消するサポート商品として新たな顧客層も獲得。
プロテイン商品には、“粉末”“ドリンク”“バー(棒状)”“ゼリー”などのタイプがあります。最近では、水で溶かす手間が要らず、手軽に摂取できるものが主流になっています。成分的には、牛乳由来の“ホエイ(乳清)プロテイン”や“カゼインプロテイン”、大豆由来の“ソイプロテイン”などに大別されますが、日本では、より吸収されやすいホエイタイプが人気。
ライトユーザーの広がりを受け、メーカー各社は“高たんばく”を謳った商品を続々と送り込んでいます。
国内売り上げNO.1のプロテインブランド「ZAVAS(ザバス)」を展開する[明治]は、女性ユーザーを意識した「ザバス for Womanミルクプロテイン脂肪ゼロ」シリーズからストロベリー風味とソイミルクティー風味のドリンクタイプ2種を昨春発売(共に200ml/税別142円)。[アサヒグループ食品]は、シェイプアップ効果を謳ったソイプロテイン「ディアナチュラアクティブ」シリーズ(粉末360g/税別2200円)で、20〜30代の女性へアピールします。「inバー プロテイン」を展開する[森永製菓]は、昨年5月、プロテインブランド「マッスルフィット」シリーズから「森永ラムネ味」(粉末900g/税別4800円)を通販限定で発売。
日常の食卓にもプロテインは溶け込んでいます。
[昭和産業]は、ミルクプロテインを含んだホットケーキミックスを。[カルビー]は、プロテインが豊富なシリアル食品「グラノーラ+プロテインin」を発売。
プロテイン先進国の米国の市場規模に比べるとまだまだ小さい日本市場ですが、今後、女性やシニア層を確実につかんでいけば伸びしろは十分なはず。なにしろ、その米国でさえ、この先10〜15年はさらに伸びる余地があると予測されているのです。日本は、まだその10分の1の市場規模にも達していないのですから。
※参考:
明治 https://www.meiji.co.jp/
アサヒグループ食品 https://www.asahi-gf.co.jp/
森永製菓 https://www.morinaga.co.jp/
昭和産業 https://www.showa-sangyo.co.jp/
カルビー https://www.calbee.co.jp/
日経MJ(2020年9月25日付/同10月20日付)
プラスチック製(以下、プラ)のストローやペットボトルなどによる海洋汚染が生態系に深刻な悪影響をもたらしており、ここ数年、“脱プラ”の動きが世界的に広がっているのはご存じの通り。
こういった流れは、ペーパーレス化が進み、紙の需要が落ち込んでいた製紙メーカーをはじめとする紙関連業界にとっては、またとない商機といえます。各社は、容器・包装・ストローなど、環境への優しさを謳ったプラ代替の紙製品を積極的に開発、商品化を競っています。
[日本製紙]は、シャンプーや消毒液といった浸透性の高い液体を入れることができる詰め替え向け紙パックを開発。日用品や化粧品メーカーの脱プラ需要の取り込みを狙います。同社はまた、ストローなしで牛乳などが飲める学校給食用紙パックも開発しています。
2025年までにすべての商品の包装材をリサイクル可能な素材に切り替えるという目標を掲げる[ネスレ日本]では、「キットカット」の大袋の外装を[王子HD]の紙素材へと変更。
中の液体のにおいが移りやすいとされていた“紙パック”の内側に、特殊なアルミフィルムを貼ることで“におい移り”を解消し(アセプティック加工処理)、画期的な紙容器を開発したのは[日本テトラパック]。その紙パックを使用したミネラルウオーターが相次いで登場しました。昨年8月、[三井農林]から発売された「ナチュラルウオーター 330ml」(12本入り/税込2073円)と、同時期に[ハバリーズ]から発売された「ハバリーズジャパン ナチュラルウオーター」(330ml/税別160円)。この商品は、1本につき1円が『世界自然保護基金(WWF)』に寄付される仕組みです。
また、化粧品大手[ロレアル]は、世界初となる紙製の化粧品チューブを開発。順次、ボトル類も紙製に切り替え、今年中の市場導入を目指します。
世界中で海に流れ込んでいるプラごみは、年間約800万トン以上。
この問題に対する消費者の関心も高まり、特に若い世代を中心に、購入するならサステナビリティー(持続可能性)に取り組む企業の商品を、という意識が高まっています。プラ問題を正面から向き合おうとせずに対策を講じない企業は、評価を下げるだけでなく、最終的には消費者に選ばれなくなる恐れがあります。
敏感なのは消費者の目ばかりではありません。投資家の間にも、プラ問題が今や重大な経営リスクでもあるという認識が浸透。企業の環境への取り組む姿勢いかんでは、投資家が離れていく可能性もはらんでいます。
環境対策が最重要の経営課題である-----その象徴でもある紙製の容器や包装が、消費者の新たな選択肢となる日が、すぐそこに来ています。
※参考:
公益財団法人 日本容器包装リサイクル協会 https://www.jcpra.or.jp/
日本製紙連合会 https://www.jpa.gr.jp/
日本製紙 https://www.nipponpapergroup.com/
ネスレ日本 https://www.nestle.co.jp/
王子ホールディングス https://www.ojiholdings.co.jp/
日本テクラパック https://www.tetrapak.com/
三井農林 https://www.mitsui-norin.co.jp/
ハバリーズ https://havarys.jp/
ロレアル https://www.loreal.com/
日本経済新聞電子版(2020年5月28日付/同7月22日付)
日経MJ(2020年5月29日付/同9月9日付/同9月28日付)
朝日新聞(2020年7月3日付)
日経産業新聞(2020年10月9日付)