コロナ禍の3密回避策として、車を使っての“乗ったままサービス”が、さまざまな分野で脚光を浴びています。
代表的なのが、買い物の新常態として注目を集めている「ドライブスルー」。
東京・大田区の京浜島で4月から営業する「ドライブスルー八百屋」(フードサプライ)では、現地で注文、またはネットで予約した青果をスタッフが車のトランクに積み込んでくれるシステム。各種野菜のセットが3500円、それにコメを加えた5000円のセットが基本商品。
[イオン]は、ネットスーパーで注文した商品を店舗の専用スペースで受け取れるサービスを全国70店舗で実施(2020年8月時点)。連日、予約枠が埋まるほどの盛況ぶりです。商品を、自宅まで届けるか、来店して受け取ってもらうか----イオンのドライブスルー導入は、単にコロナ対策というだけでなく、ネット通販の物流面の課題である“ラストワンマイル”(購入者が商品を受け取る最後の区間)の効率性を検証するという狙いもありそうです。
ドライブスルー形式の非対面査定サービスを始めたのは、[ガリバー](IDOM)。独自開発のAIで査定価格を算出、3分ほどで結果がモニターに表示されます。
[ケンタッキー・フライド・チキン]は、自動料金収受システム(ETC)を使って決済できるドライブスルーを一部店舗で試験的に導入。ETCカードを車載器に差し込んで通過するだけで、支払いを済ませ商品を受け取れます。
ウィズコロナのエンタメとして、車の中で楽しめる「ドライブインエンタメ」と呼ばれる新ジャンルが続々登場しています。
「ドライブインシアター」がその代表格。1970年以降は衰退の一途をたどっていましたが、パンデミックを受け“安全なレジャー”として再浮上。料金は、例えば8月に千葉ニュータウンで行われた「ドライブインシアター2020」の場合、車1台につき8000円。
ほかにも、「ドライブインコンサート」や「ドライブインフェス」に、“ファッションショー”“お化け屋敷”“お笑いライブ”“プロレス”“花火大会”など、「ドライブイン〇〇〇」はアフターコロナの新しい“コト消費”としても根付きそうな勢いです。
車という鎧に守られながら、買い物をしたり、エンタメを楽しんだりするニューノーマルがウィズコロナ時代の安全な暮らし方の基本となるのでしょうか。そういえば、コロナ禍に見舞われるつい今春までは、若者の車離れに加え、車を所有するよりシェアしたり公共交通機関を使った移動がスマートとされていたものでした。しかし、今となっては、こうした行動も見直されつつあります。コロナが、車に再びスポットライトをあてるきっかけとなったのはまぎれもない事実。人々の生活価値観をも変えてしまう、コロナの力、恐るべし。
※参考:
フードサプライ https://www.foodsupply.co.jp/
イオン https://www.aeon.info/company/group/
IDOM https://221616.com/idom/
日本KFCホールディングス http://japan.kfc.co.jp/
朝日新聞(2020年6月17日付/同6月18日付)
日経MJ(2020年8月3日付/同8月21日付)
日本食糧新聞(2020年8月15日付)
「ホームセンター(以下、HC)」業界は、1974年に60店舗だった店舗数が、翌年から年間100〜200増と“雨後の筍”ペースで増え続け、今や4810店舗にまで拡大しています(2019年/日本DIY・ホームセンター協会)。
にもかかわらず、市場は期待ほどの伸びを見せず、ここ15年ほどは頭打ちの凪(なぎ)状態が続くという、ちょっといびつな形で“成長”してきました。しかし、業界全体が不振にあえいでいた今年、ふいに“コロナ”が訪れたのです。ステイホームでHCの存在価値が見直され、思わぬ需要拡大を招き、2月から右肩上がりで売り上げが急伸、6月にはなんとほぼ全社がプラスに転じました。しかしHC各社は、今回の“コロナ特需”を、あくまでも偶発的で一時的な活況と捉え、業界内の生存競争に生き残るための必然的戦略としての“再編”へ、一層の弾みをつけることになりました。
HC業界の足跡は、再編の歴史といっても過言ではないほど大小の再編劇が繰り広げられてきました。主な動きとしては------
2006年、北海道の「ホーマック」、愛知の「カーマ」、愛媛の「ダイキ」と、地方の中堅HC、3社の統合による[DCMホールディングス](東京)が発足。同社は、2017年には「ケーヨー」(千葉)と資本業務提携を締結。さらに、業界8位の「島忠」の完全子会社化を目指すことを発表(2020年10月時点)。店舗数は、北海道から九州まで約677店舗で、売上高はトップ(2020年8月時点)。
2位の[カインズ](埼玉)は、SPA(製造・小売り)方式で独自路線を突き進む業界の風雲児で、PB商品の売上高構成比率が40%と高いのが特徴。約220店舗を運営。
3位は大阪の[コーナン商事]。2019年に、プロ向け資材卸の「建デポ」を「LIXIL」から買収。今年2月には関東地盤のHC「ドイト」を手に入れ、プロ向け事業をさらに強化。
4位は、新潟発祥の[コメリ]。農業資材を強みに全国約1200店舗を展開。今年に入って[コーナン]に抜かれ、順位が入れ替わりました。
そして、いきなり5位に躍り出たのは、今年6月、業界11位の[アークランドサカモト](新潟)が6位の[LIXILビバ](埼玉)を完全子会社化するという大型買収劇によって誕生した[ムサシ+ビバホーム](仮)。まさに“小が大を飲み込む”下剋上M&Aでした。
再編は、各社が単に売上高レースを競っているわけではありません。また、再編による規模の拡大が、即、収益力アップに直結して勝ち残れるという単純な方程式でもなさそうです。底流にあるのは、再編による規模拡大をバネに、異業種やネット通販に対抗でき得る新たな需要喚起と次なる事業モデルの構築に他ならないということ。
今後は、これまでのような、業界同士の買収から他業種との連携へとシフトするといった、再編の質の変化が見え始めています。HCの再編劇は、一段と加速することが予想されます。
※参考:
日本DIY・ホームセンター協会 https://www.diy.or.jp/
DCMホールディングス https://www.dcm-hldgs.co.jp/
カインズ https://www.cainz.com/jp/
コーナン商事 https://www.hc-kohnan.com/
コメリ https://www.komeri.bit.or.jp/
アークランドサカモト http://www.arcland.co.jp/
LIXILビバ https://www.vivahome.co.jp/
日経MJ(2020年6月12日付)
これまで、あらゆる業種で人手不足が叫ばれていた日本の雇用状況が、“コロナ”で一変しました。不足どころか、休業や営業短縮を余儀なくされた飲食店・観光宿泊業などでは自ずと人手余りに。休業者の数は、4月時点で597万人に達し(総務省)、うち解雇や雇い止めにあった人は2万人を超えます(厚労省/6月)。しかしこの一方で、生活インフラとしての食品スーパーや介護現場などでは相変わらずの人手不足状態。このアンバランスな雇用状況打開のため、業種を超え、企業間で連携して雇用を維持しようという「従業員シェア」(雇用シェア)の動きが広がっています。コロナ禍発生直後の2月頃から、いち早く中国で導入され、徐々に米国や欧州に広がった雇用形態で、現在籍を置いている会社との雇用関係は維持されたまま、期限付きで出向先とも契約するという“在籍型出向”の仕組み。事態収束後は元の会社に復帰できることが前提となります。
居酒屋チェーン[塚田農場](エー・ピーカンパニー)の正社員が小型スーパー「まいばすけっと」の店員に出向。エー社の社員は休業扱いとなり、休業手当として給与の6割がエー社から支給。減収分は出向先で稼いでもらうという仕組み。
群馬県嬬恋(つまごい)のキャベツ農家には近隣のホテルや自動車工場の従業員が。長野のレタス農家には休業中の旅館の従業員が。共に、コロナの影響であてにしていた外国人技能実習生が来日できなくなったための補完策としての出向です。
デリバリーの[出前館]は、仕事が減ったりなくなった飲食店員らをデリバリースタッフとして臨時で雇う「緊急雇用シェアプロジェクト」を強化。
レジャー関連のオンライン事業を展開する[アソビュー]では、「災害時緊急支援プラットフォーム」を立ち上げ、IT企業を中心とした従業員シェアの仲介役を担っています。出向期間は1年以内、給与は出向先企業が全額負担(出向前の給与の維持が原則)。
解雇しか選択肢がない、という“コロナ切り”から従業員を守るための苦肉の雇用形態、「従業員シェア」。他企業間との人事異動であるこのシステムは、出向を命じられる従業員に出向先の選択の自由はありません。一見、労働者・出向元・出向先の三者それぞれにメリットがあると思われますが、労災発生時や社会保険加入等の責任の所在が曖昧になりがちなのも事実。ちなみに、このシステムの先駆けとなった中国では、労働者には従業員シェアを拒否する権利があることや労災の際は原則として出向元に補償義務があることが公式に明示されています。
※参考:
公益財団法人 産業雇用安定センター http://www.sangyokoyo.or.jp/
エー・ピーカンパニー http://www.apcompany.jp/
出前館 https://corporate.demae-can.com/
アソビュー https://www.asoview.co.jp/
朝日新聞(2020年4月21日付/同4月23日付/同7月10日付)
日本経済新聞(2020年5月7日付)
日経MJ(2020年5月29日付/同6月8日付/同7月10日付/同8月24日付/同8月28日付)