外出自粛や在宅勤務が広がり、自宅で過ごす時間が増えたことで、家族で楽しめる“巣ごもり消費”が急拡大。特に、外食がままならないので、せめて家にいるときにはおいしいものを食べたいという“内食(うちしょく)”欲求が高まっています。
4月の家計調査(総務省)によると、内食率が21.6%と、2000年以降で最大を記録。どうやら、普段、厨房に立たない人が自炊に目覚めたことで、さまざまな分野の市場も目を覚ましたようです。
コロナ禍で売れ行き好調の一つが「調理家電」。ホームベーカリーやハンドブレンダー、ホットプレート・たこ焼き器など、家族みんなでワイワイ調理できるものが人気。中でも、[シャープ]の自動調理鍋「ホットクック」は前年同期比3倍の伸び。ただ、今回の調理家電の売れ行きには、ネット販売の売り上げが増加する一方で実店舗販売が落ち込むといった対照的な傾向がみられるのが特徴。不要不急の外出自粛、販売店の営業時間短縮などの影響が色濃く反映されたようです。
内食関連で売り上げ好調なのは調理家電だけではありません。食材の流通サービスも“コロナ特需”で需要を拡大しています。
生鮮食品販売のECサイト「クックパッドマート」は、その商品を受け取るための“生鮮宅配ボックス”を無償で提供。感染リスクの高いスーパーでの混雑緩和を目的とした試みです。
農産品や加工食品などの宅配サービス[Oisix(オイシックス)]では、親子で調理が楽しめる「Kit Oisix withしまじろう」というミールキットの販売を始めました。
オンラインで飲食店や生産者と交流するサービスも広がっています。例えば、長崎の漁師さんが、テレビ会議システムの“Zoom”を使って料理教室を開催。事前に送られてくる食材をオンラインで一緒に調理し、出来上がりを参加者みんなで食べるという“クラウドレストラン”。参加料は一人3000〜8000円。
企業単位でも、[キッコーマン][味の素][キユーピー]など食品6社がツイッター上で内食メニューの共同販促をスタート。週ごとにテーマの食材を決め、各社がレシピを投稿するという内容です。
普段なら手をかける時間はないけれど、今だからチャレンジできたと、皮肉なことにコロナが後押しすることになった内食の盛り上がり。その影響で落ち込む、弁当・おにぎり・総菜市場を尻目に、SNS上でも“#おうちごはん”が浸透し、家族と、調理そのものを楽しむムードはますます高まります。
果たして、この流れは一過性のものなのか? これまで“時短”がキーワードとしてもてはやされてきた調理の価値観が、変わるきっかけになるかもしれません。
※参考:
総務省 http://www.soumu.go.jp/
クックパッドマート https://cookpad-mart.com/
オイシックス https://www.oisix.com/
朝日新聞(2020年4月22日付)
日経クロステック(2020年4月23日付)
日経MJ(2020年5月13日付/同6月1日付)
日刊工業新聞(2020年5月20日付)
働き方のリモート化が普及するように、リモート化が進行しているスポーツがあります。室内で行う「バーチャルサイクリング」です。
オンラインを駆使し、リアルな道路を走らないという意味では、いわゆる“eスポーツ”なのですが、コントローラーを操ってプレーする指先のゲームとは違い、実際にペダルをこぎ、設定されたコースを走ることでしっかり汗を流すことができる、れっきとしたサイクルスポーツ。その代表的なプラットフォームが、2014年に米国で生まれた「Zwift(ズイフト)」です。準備するものは、Zwiftアプリをダウンロードしたり、モニターの役割を果たす“パソコン”(タブレットやスマホでも可)、ロードバイクやクロスバイクなどの“自転車”、そして自転車を固定するトレーナーと呼ばれる“ローラー台”(数万〜数十万円)にプラス、Zwiftの利用料金1650円(月額/税込)。
こいだ分だけ、画面の中のアバター(自分の分身)が脚を回し、コースを疾走していきます。画面上には、走行スピード、距離、タイム、勾配度などが表示されるほか、パワーメーターで自分のペダリングパワーを知ることもできます。走るにしたがって、画面の景色も変わっていき、上り坂になるとローラーの負荷が増してペダルが重くなり、下りでは軽くなるなど、リアルな走行感を体感。道路脇の観客の声援や鳥の鳴き声、風の音、石畳を走る際の走行音など、環境音もしっかり再現。
Zwift上では、毎日のようにレースやグループライドのイベントが開催されています。5月には83kmのコースを2時間半ほどかけて走破するサイクリングイベントが開かれ、約600人がオンラインで集いました。最近では、プロの自転車選手もエントリー。これは、バーチャルサイクリングが、限りなく“サイクリング”そのものであることの証しで、一般のサイクリストたちにとっては、プロと一緒に走ることのできる、またとない機会となっています。
インドアトレーニングは、個人で黙々と励むという考えが主流でした。だからツライし、面白くない…しかし、ネットを介したバーチャルの世界では、自宅に居ながらいつでも世界中の人とサイクリングを楽しみながらトレーニングすることができます。Zwiftの利用者は、コロナ禍前と比べると8倍以上に増加。この、トレーニングとeスポーツの面白さを兼ね備えた今までになかった自転車の楽しみ方は、コロナ収束後もスポーツの新しいカタチとして注目を集めそうです。
ちなみに、今年1月に開かれたIOC総会において会長は、「バーチャルサイクリングは、ゲームではなくスポーツだ」と発言。近い将来、五輪種目となるのも、あながち夢ではないかもしれません。
※参考:
ズイフトジャパン https://zwift.com/
日経MJ(2020年6月1日付)
訪れる側も、迎える側も、ウイルスに怯えながらの旅を余儀なくされるなか、苦境にあえぐ観光業界をネットの力で支援しようとする動きが湧き上がっています。
まず、“参加型”の代表格が、ネット上で旅気分が味わえる「オンラインツアー」。主にZoomアプリを使って、リアルタイムで国内外の観光地を訪れるバーチャルツアーです。複数人での同時参加が可能で、お土産を買ったり、ガイドに質問することもできます。集合場所は自宅のパソコンの前。料金はクレジットカードなどで入金確認後、ツアー開始となります。
人との交流の旅が特徴の[あうたび]では、これまで「ミス八丈島と巡る亜熱帯の島旅!」が話題となりました。4時間の“長旅”で行程もぎっしり。前もって送られてくる地元の特産品などの購入がツアー料金となります(6000円〜9000円)。
[HIS]のオンラインツアー「ふたたび美しい世界へ」は、世界各国に現地法人がある同社の強みを生かした企画が目白押し。「ワイキキ街歩き 英語レッスン」1100円〜、「インドの有名占い師によるオンライン占星術&手相占い」3000円〜など。
香川県のバス会社[琴平バス]では、バスに乗らないバスツアーを企画。通常のバスツアーが中止になるなかで打ち出した苦肉の策がヒットし、東京や福岡からなど、わずか1週間で満席になるほどの人気ぶり。例えば、「日本三大秘境・祖谷渓絶景旅」は、定員15名、90分のツアーで、料金は4980円(祖谷そば、ゆずみそなどの特産品セットの購入)。
また、“食”で地域の宿泊施設・飲食店を応援しようとする好例が、[TASTE LOCAL(テイスト・ローカル)]という厳選グルメのお取り寄せ通販サイト。高級旅館ならではの名物料理……例えば、伊豆「浜の湯」の看板料理「金目鯛姿煮」(4500円)や日光鬼怒川「金谷ホテル」の「和朝食BOX」(9180円)など。金目鯛は1カ月で1000食以上を売り上げたほか、民宿「松田屋」の「但馬玄(たじまぐろ)の牛すじコロッケ<10個入り>」(2000円)は、なんと20分で1000個を完売。
さらに、観光客の激減や物産イベントの中止などで苦境に立たされている特産品・土産品の製造業者や農家を支援するのは、[日本ふっこうプロジェクト]。中でも、地域の名産品を詰め合わせた「ふっこう復袋」が、“中味がわかる福袋”としてネット通販で話題を集めています。先駆けとなったのは、北海道物産展の中止によって行き場を失った、肉、魚介、野菜、果物、酒といった食材を廃棄するのは忍びないと、「北海道ふっこう復袋」として販売したのがきっかけ。その後、復袋の輪は全国に広がり、13の自治体が実施(2020年5月時点)、現在も増え続けています。売れ筋は5000円〜1万円。
“参加して(オンラインツアー)”“食べて(お取り寄せ)”“買って(復袋)”と、観光産業を支援・応援するカタチはさまざま。利用者は、現地に行って食べた“つもり”で気が済んだと思いきや、むしろその逆で、今度はいつか実際に行ってみたいという気持ちがいっそう募ります。
コロナ収束後の観光需要を見越し、利用者をつなぎ留める策を打つ-----できないことばかりを考えがちな世の中の空気ですが、今だからこそできることもあるはずです。
※参考:
あうたび https://autabi.com/tour/
HISグループ https://www.his.co.jp/
琴平バス https://www.kotobus.com/
TASTE LOCAL https://taste-local.net/
日経MJ(2020年5月18日付/同5月25日付/同5月29日付)