消費者のニーズが多様化し、良い商品だから必ず売れる、安ければ買ってもらえる、広告をバンバン打ってアピールすれば売れる、といった従来のビジネスモデルが通用しなくなり、かつてのようなメガヒット商品が生まれにくくなっています。市場分析やアンケート調査などの“外側の発想”をやみくもに信頼し精査しても、革新的な価値を持ったヒット商品を生み出すことが難しくなってきたいま。求められるのは、“〇〇とはこういうもの”といった常識を疑ってみる視点、そしてそこから導かれる、個の発意や情熱、勇気ある決断といった、常識にとらわれない“内側の発想”から生み出されるマーケティングです。
昨年12月、東京・六本木にオープンした「文喫」は、1500円(税別)を支払って入る書店です。にもかかわらず、週末には入場制限がかかるほどの盛況ぶり。一日中利用可能で、コーヒーと日本茶が飲み放題。店内で食事もとれます。運営は[日販]と[リブロプラス]。全体のプロデュースは「SoupStockTokyo」などで知られる[スマイルズ]。
同じく[スマイルズ]が手掛けたユニークなホテルが、香川県豊島(てしま)にある「檸檬ホテル」。レモン畑の中に建つ築90年の古民家をリノベーションし、ホテルとして「瀬戸内国際芸術祭2016」に出品された立派なアート作品。宿泊客は一日1組(2〜5名)だけ。“アート作品に泊まる”というコンセプトが話題となり、半年先まで予約が埋まっているとか。
農業にマーケティングの概念を持ち込んで、今や国内外の高級料理店から引っ張りだこの常識破りの野菜があります。
350万本に10本しか取れず、奇跡のネギといわれる究極のネギ「モナリザ」を1本1万円で販売する[ねぎびとカンパニー](山形)。
また、糖度にこだわり、“高級レンコン”という新たな市場を創り出すことで、1本5000円という「あじよし」のブランド化に成功した[野口農園](茨城)。贈答用としても飛ぶように売れ、注文に生産が追いつかない状況。
“破常識“なヒット商品はまだまだあります。
発売2カ月で100万部を超える売り上げを見せた「うんこ漢字ドリル」(文響社)。“うんこ”がタブーだと思っていたのは、大人だけだったということです。
安価が当たり前の豆腐業界に待ったをかけ、訳ありの高価な豆腐として定着を図った[男前豆腐店](京都)。
ランドセル=小学生、という常識を覆して大人向けランドセルをヒットさせた[土屋鞄製造所](東京)、などなど。
破常識の戦略といっても、競合との違いを追求するあまりひたすら奇抜なものだったり、タブーの領域に踏み込んだり、単に奇をてらった一過性のものなどとは一線を画したいもの。そこには、新しい価値の創出が必須であることは言うまでもありません。
※参考:
文喫 https://bunkitsu.jp/
スマイルズ http://www.smiles.co.jp/
檸檬ホテル https://lemonhotel.stores.jp/
ねぎびとカンパニー https://negibito.com/
野口農園 http://hasudane.web.fc2.com/
文響社 https://bunkyosha.com/books/
男前豆腐店 https://otokomae.jp/
土屋鞄製造所 https://www.tsuchiya-kaban.jp/
日経MJ(2019年6月3日付/同7月15日付)
突然ですが、スポーツジムなどに入会した人が退会を余儀なくされるには、どんな理由があると思いますか? 最も多いのが、“忙しくて通えない”“急な残業などで時間が合わない”。次が、“月々の会費が高い”“月に1〜2回しか行かないので会費がもったいない”、さらに“転勤(引っ越し)で通えなくなった”などが、ジム通いを諦めることになった主な理由です。
そんな、これまでのジムとの付き合い方のなかで生じる“負”の部分を一掃したのが、最近、全国に増えている「24時間営業のスポーツジム」です。その人のライフスタイルに合わせて、いつでも好きな時間に効率よくトレーニングできるところが大きな魅力で、特に仕事や子育てで忙しく、早朝か深夜しか時間がとれないような人にとっては、“行ける時に開いてるジム”がとてもありがたい存在となるはず。
利用者にとっては、大型の施設で月に数回、時間をかけてみっちり取り組むより、一日15分でもいいから毎日やったほうが運動を習慣化させるには効果的。第一、使うのは結局、ウエイトトレーニングとランニングのマシンだけだし…と、コスパにも優れた24時間ジムの人気がうなぎ登り。
「24時間ジム」の特徴は、プールなどを備えた総合型ジムと違い、筋トレなどの“マシン特化型”であること。自ずと、店舗面積も広い必要がなく、その分、会費が安く抑えられています(通常ジムの約3割安)。夜間〜早朝の時間帯にはスタッフが常駐していないため、入退館などのセキュリティーシステム完備のジムがほとんど。深夜の女性一人客でも安心して利用できます。
米国NO.1のフィットネスクラブ「エニタイムフィットネス」が日本に上陸したのが2010年。現在、店舗数は国内600店舗を超え、会員は約40万人という24時間ジムの先駆け。国内はもちろん、世界30カ国約4000の施設、どこでも専用キー1本で利用することができます。
日本生まれで急速に拡大している24時間ジムが「JOYFIT24」(約240店舗)。“女性専用エリア”や“日焼けマシン(有料)”などの女性向けサービスが充実しています。
[ファミリーマート]が運営する24時間ジムの「Fit&GO」は、初心者でもトレーニングしやすい設備やコースを提案しています。
朝(5時〜10時)と午後(10時〜17時)の時間帯には月額3000円(税別)という激安価格で利用できるのが「スマートフィット100」。このコースを選んで毎日通うと一日100円というのが売りで、店名にも入れてアピール。
雨後のタケノコのように増殖している「24時間ジム」ですが、市場的に見ると、トレーニングの機能が単一的に絞り込まれている故に、かえって他店と差別化が図りにくいということも。いかにサービス面でオリジナリティーを持たせ、利用者のすき間時間にアピールできるかが、今後の課題といえそうです。
※参考:
エニタイムフィットネス https://www.anytimefitness.co.jp/
JOYFIT24 https://joyfit.jp/
Fit&GO https://fitgo.jp/
スマートフィット100 https://smartfit100.com/
日経MJ(2019年7月3日付)
ここ数年、子どもの出生数が減少の一途をたどっているにもかかわらず、「ベビーフード」市場が順調に伸びているという奇妙な現象が起きています。2018年の市場規模は、対前年比8%増の約440億円と過去最高を更新(「日本ベビーフード協議会」)。
1歳未満の赤ちゃんが離乳するまでを手助けする目的の加工食品が「ベビーフード」で、月齢に合わせて素材の硬さや分量の目安が決められています。生後5〜6カ月頃には滑らかなペースト状、7〜8カ月頃には舌でつぶせる程度、9〜11カ月頃は歯茎でつぶせる程度、離乳食卒業間近の12〜18カ月頃には歯茎でかめる程度と、4段階のステップに分かれます。働きながらこれを自宅で作ろうとすると、調理に手間と時間を要する上、栄養バランスのとれたメニューを毎食考え、用意するのは容易ではありません。
ベビーフード市場拡大の背景には、女性の社会進出と共働き世帯の増加があります。働く女性の増加で、“時短”のためにベビーフードを便利なツールとして積極的に活用したいと考える親が増えています。その結果、使用量・使用頻度とも大幅に伸びたことが好調の大きな要因となっています。加えて、赤ちゃんを連れての外出機会の増加も見逃せません。メーカーは、“容器入り(瓶・カップ)”“レトルトパウチ”“フリーズドライ(粉末)”の3タイプを用意して利用シーンによる使い分けに対応。
さらにメーカー各社がいま、“新たな市場”と位置付けて積極的に取り組んでいるのが、1歳以上を対象としたベビーフードです。というのも、離乳食完了月齢が、10年前には生後12か月だったのが、直近の調査(2015年)では1歳1カ月〜1歳3カ月へと変化(厚労省/10年ごとの調査)。この3カ月近く離乳時期が遅くなったことに、各社は素早く反応。商品構成を、大容量タイプやデザートなど、付加価値で訴求しやすく高単価が期待できる“1歳以上商品”の比率を高めることに。そのことが、市場の拡大につながっています。
現代のママたちは、離乳食作りに時間を割くなら、その分赤ちゃんとのコミュニケーションの時間を増やしたいと考える価値観に変わってきています。
国も今年3月、12年ぶりに改定した『授乳・離乳の支援ガイド』(厚労省)に、「離乳食は、手作りが好ましいが、ベビーフード等の加工食品を上手に使用することにより、保護者の負担が少しでも軽減するのであれば、それも一つの方法である」と明記。さらなる市場拡大を狙う業界にとっては、またとない“お墨付き”をいただいたようです。
※参考:
日本ベビーフード協議会 http://www.baby-food.jp/
厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/
日本経済新聞 電子版(2019年3月22日付)
日経MJ(2019年7月12日付)