レジ袋や持ち帰り用の容器から、ストロー、スプーン、フォーク、マドラーといった“使い捨てのプラ製品”を自然界(街中や川など)にポイ捨てすると、やがて海に流れ込み、海中で有害な化学物質を吸収。それをプランクトンが食べ、魚が食べ、海鳥が食べ、という食物連鎖となって、様々な生物(ヒトも含む)の体内に蓄積されるという恐れがあります。
数あるプラゴミの中でも、昨春、ウミガメの鼻にストローが詰まった動画が世界中に拡散したことから一気にプラ製ストローに注目が集まりました。世界各国の外食関連企業はすぐさま反応。
[米マクドナルド]が昨年6月、2025年までに世界全店でプラ製ストローやパッケージなどのすべてをリサイクル可能なものに変更すると発表。[米スターバックス]も7月、2020年までに世界全店でのプラ製ストローの使用禁止を発表。[米ウォルト・ディズニー社]も、世界の直営施設での使用を2019年までにやめる方針を表明。
国や自治体レベルでも独自の規制に動いています。
昨年5月には、[EU]が使い捨てプラ製品の使用禁止を提案。米国のシアトル市は、プラ製食器類の使用禁止を制定した世界初の都市となりました。英国では、今年から使い捨てプラ製品の販売が禁止。宮殿内での使用も禁じると発表されました。タピオカミルクティーでおなじみの台湾でも、2030年までに全面廃止を掲げています。
“脱・プラ”への大きなうねりは、当然日本にも押し寄せています。
しかし、世界的チェーンの日本法人各社をはじめ日本の外食企業の多くは、ストロー廃止による顧客のサービス低下を懸念する見方も根強く、加えて、紙製など代替素材によるコスト高のジレンマに頭を抱えているのが実情。企業にとっては大きな負担を伴うため、“重大な問題ではあるが、すぐに変更する計画はない”という慎重な姿勢が大半を占めます。
一方で、こうした動きは、ストローメーカーや製紙、化学メーカーにとっては“特需”といえるほどの商機到来といえます。バイオプラスチック(植物由来の生分解性プラ素材)をはじめ、強度の高い紙製など、各社、需要の急拡大を見込んで開発・生産を強化。環境省も、バイオプラスチックを製造する企業を対象に補助金を出して後押し。さらに、プラ製に代わるものとして、ガラス製、ステンレス製、竹製、チタン製、高額なシルバー製なども登場して、思わぬ“マイストロー・ブーム”の兆しが。
昨年6月に開かれた「G7サミット」では、使い捨てプラ製品の削減などを促す行動宣言「海洋プラスチック憲章」が採択されましたが、日本と米国だけが署名を拒否しました。一人当たりの使い捨てプラゴミの発生量が世界2位(「国連環境計画」報告書)である日本が、世界の潮流に乗り遅れているのは認めざるを得ないようです。ちなみに、1位は米国でした。
※参考:
環境省 https://www.env.go.jp/
日経MJ(2018年8月27日付/同9月14日付/同9月28日付/同10月17日付)
朝日新聞(2018年8月30日付/同9月20日付/同11月19日付)
日本経済新聞(2018年9月20日付)
主に観光を目的に日本を訪れる外国人たちが“インバウンド”と呼ばれ、日本経済に多大な貢献をするようになって数年が経ちます。その数年間で、インバウンドの旅のスタイルが変わってきました。最近では、友人や家族といった個人単位で日本を訪れる人が急増。そういった、自分で航空券やホテルの手配をしながら海外旅行をするスタイルは「FIT」(エフアイティー=Foreign Independent Tour)と呼ばれており、2017年には訪日客全体の約70%と、ここ5年間で15%も増えています(観光庁)。
FITの特徴は、訪日経験のあるリピーターが多いこと。旅慣れた彼らは、定番の東京・大阪・京都といった“ゴールデンルート”では満足せず、よりディープな地方エリアへと興味が移ります。また、観光するときの、交通手段や宿泊、飲食などにかかる費用に関してシビアな点も特徴で、来日前や旅行中も、SNSやブログなどで情報収集して細かく計画を立てることは当たり前。そんな彼らにとっての新たな“旅の足”として定着しつつあるのが、安くて効率的な移動手段である「バス」です。
高速バス大手の[ウィラー]は、インバウンド専用の高速バス乗り放題乗車券「ジャパン・バス・パス」を販売(日本人の利用は不可)。3日間、5日間、7日間と3タイプのパスがあり(料金は1万円〜1万5000円)、一日に何回乗ってもOKで有効期間は2カ月。利用者数は、5年間で約2.5倍に拡大しています。
九州各地や下関周辺の高速バスと一般路線バスなどが乗り放題となるフリーパスチケット「SUNQ(サンキュー)パス」は、4日間で1万4000円。17年度の利用者は、4年前に比べて8倍超に。そのほとんどがFIT客でした。
[九州産業交通HD]では昨秋、日帰り観光バスツアー「カバの旅」(「観光バス」の略)を販売。日本人対象のバスツアーをインバウンドに売り込むのは全国でも珍しいと注目されています。
また、ツアーにもかかわらず途中参加や途中離脱も可能、“ルートまたぎ”のコース変更もOKという型破りなインバウンド向け“乗り合い型”バスツアーを始めたのが、[JTB]。北海道から九州までの全48コースで、観光バスを路線バスのように定期巡回させるシステムです。
急速にFIT化するインバウンド市場にあって、鉄道の旅では体験できない、バスならではのルート設定の柔軟さや運賃の安さ、周遊観光の自由度の高さなどは、FIT客にとって大きな魅力となり得るはず。交通・観光事業者と自治体とがタッグを組んだ、次なる“ゴールデンルート”の開拓に期待したいものです。
※参考:
観光庁 http://www.mlit.go.jp/kankocho/
ウィラー http://travel.willer.co.jp/
サンキューパス http://www.sunqpass.jp/
九州産業交通ホールディングス https://www.kyusanko.co.jp/
JTB https://www.jtb.co.jp/
日経MJ(2018年7月23日付/同10月15日付)
日本経済新聞(2018年10月4日付)
飲料容器市場ではペットボトルに押され気味だった「紙パック」のシェアが、2017年、6年ぶりに上昇に転じました。そのけん引役は、「キャップ付き」容器の普及です。これまで紙パックの主流だった“屋根型容器”(ゲーブルトップ)は、“一度に飲みきれない”ことが隠れた難点でした。加えて、開口部を両手で左右に広げるための力が必要で、握力の弱まった高齢者にとってはストレスとなっていました。その点“キャップ付き”は、力を入れなくても開け閉めがしやすく、繰り返し開閉できる(リキャップ)という大きな利点を獲得。この“リキャップ”こそ、最近のコンビニでの飲料ヒット商品に共通するキーワードといわれるほど、売れ筋を大きく左右する要素となっているのです。そのおかげで、“直飲み”が可能となると共に、トレンドである、オフィスや移動中、屋外などで、少しずつ時間をかけて飲む“チビだら飲み”のニーズにも応えます。
商機と捉えた容器メーカー各社は、相次いで新容器を投入。
[日本製紙]は、2019年3月期のキャップ付き紙容器の供給量を前期比の5倍増に。[日本テトラパック]のキャップ付きの出荷量は、この3年間で約2倍に。中でも、小容量(330ml)のキャップ付きが5倍に、中容量(500ml)も3倍と大きく伸びています。
飲料・乳業メーカー各社も、本格的にキャップ付きの採用に踏み切っています。
[明治]は昨年、「明治おいしい牛乳」(900ml)の紙パックをキャップ付きに全面刷新。[森永乳業]では現在、300〜500mlタイプでキャップ付きの割合が4割にまで達しました。[伊藤園]は昨春、「1日分の野菜」など、1Lタイプの屋根型大型紙パックにキャップ付きを導入。野菜飲料業界では初の試みとなりました。[キリンビバレッジ]の果汁飲料「トロピカーナ」シリーズにもキャップ付きを採用。底に沈みやすい果実成分が混ざるように、ぐるっと逆さにすることができると好評です。
いずれの商品も、キャップ付き採用後は売れ行きが好調で、明らかに切り替え前より上回っているとのこと。
開けやすく、注ぎやすく、持ち運びしやすく、衛生面も優れている----旧来型の屋根型パック飲料の購入者の約7割が男性だったのに比べ、「キャップ付き紙パック」商品の購入者は、年齢を問わず圧倒的に女性の割合が多いことがわかっています。まさに、“たかが容器、されど容器”。
今後、“脱・プラスチック”の本格的な広がりが予測される中、環境規制を追い風とした紙容器全体の存在価値が、改めて評価されることになりそうです。
※参考:
日本製紙 https://www.nipponpapergroup.com/
日本テトラパック https://www.tetrapak.com/jp
明治 https://www.meiji.co.jp/
森永乳業 https://www.morinagamilk.co.jp/
伊藤園 https://www.itoen.co.jp/
キリンビバレッジ https://www.kirin.co.jp/
日経MJ(2018年7月2日付)