これまで、農薬を散布するには、人が歩きながらまいていくか、無人ヘリコプターで上空からまくかのどちらかでした。しかしここ数年、ヘリより安価で操作も簡単で静か、しかもより広範囲を少ない人手で効率よく散布できる「ドローン(小型無人航空機)」に注目が集まっています。
背景には、就農人口の減少に伴う一人当たりの管理農地面積の増大と、7割超が65歳以上という担い手の高齢化。さらには2016年、農水省がドローンでの農薬散布のガイドラインを制定し、ドローンの農業活用の普及を推し進めていることも追い風となっています。
また最近は、「精密農業」という管理手法が広がりつつあります。農業に情報通信技術(ICT)を導入し、各要素を数値化して管理する“農業のスマート化”の一つです。作物を空から撮影して生育度合いのデータを収集・解析するといったやり方で、高度なセンサーカメラを搭載できるドローンは、まさに最適任者といえます。
世界のドローン市場を圧倒的なパワーでけん引しているのは、中国。なかでも、代表的メーカーが[DJI]です。昨春発売された最新の農業散布用ドローン「AGRAS(アグラス)MG-1」(機体価格180万円/税別)は、約10Lの液体農薬、肥料、除草剤を高精度に散布。最高時速約20km、1haを10分間で散布が可能です。
農業用無人ヘリの先駆者として約30年の歴史を誇る[ヤマハ発動機](静岡)も、昨秋、農業用ドローン市場への参入を発表。
稲作用ドローンを開発した[ナイルワークス(東京)は、“空からの精密農業”をコンセプトに、まきたい箇所にまきたい量を1cm単位の精度で自動調節散布。さらに搭載したカメラで稲の生育状況(光合成)が把握できるなどの特長を備えた完全自動飛行のドローンを開発しました。現状では自動飛行は認められていませんが、今春、実験的に青森、栃木など8県に15機を試験販売。19年から本格販売を始め、21年までに4000機の普及を目指します。価格は、約350万円。なお、同社へは昨年10月、産業革新機構、住友商事、JAなど計6社から総額8億円の資金調達が実施され、強力な支援体制が整っています。
国内のドローン市場(機体+活用サービス)は、2022年度には16年のほぼ6倍の2116億円まで膨らむと予測されており、特に“活用サービス”の分野に、ドローンビジネスの大きな商機が潜んでいると期待が寄せられています。
数年先には、インターネットとつながったドローンが当たり前のように田や畑の上空を飛び交う姿を目にすることになるかもしれません。
※参考:
農林水産省 http://www.maff.go.jp/
DJIジャパン https://www.dji.com/
ヤマハ発動機 https://www.yamaha-motor.co.jp/
ナイルワークス https://www.nileworks.co.jp/
日経産業新聞(2017年10月13日付)
スポーツ庁によると、2002年のサッカー日韓Wカップで使用された国内10カ所のサッカー競技場のうち、14年度に黒字だったのは、野球の本拠地も兼ねた「札幌ドーム」だけだったというショッキングな結果が出ています。
そんな、全国のスタジアムの“火の車”状態を打開しようと、“スポーツ観戦改革”ともいうべき仕組み作りが、官民挙げて急速に進んでいます。政府は昨年、スポーツの市場規模を2025年までに15兆円(12年の約2.7倍)に拡大する目標を掲げました。共通する使命は、観客目線に立ち、ICT(情報通信技術)の活用で集客を図って施設の経営を改善すること。当然ベースには、20年の東京五輪を見据えていることは言うまでもなく、関連企業にとっては大きなビジネス創出の場となるのは間違いありません。
[東北楽天ゴールデンイーグルス]の本拠地「コボパーク宮城」では、パナソニックと協力して観客のスマホを活用したサービスを導入。複数のカメラからの映像を手もとで見られたり、リプレー動画の視聴も可能に。さらに、スマホから売店にフード類を注文でき、出来上がると通知が来るので行列に並ぶ必要がありません。
昨年2月に行われた「冬季アジア札幌大会」で[NTT]が提供したサービスは、スマホ向けにVRやマルチアングル映像を利用した観戦支援動画の配信。特に、カメラをカーリングのストーンに装着した“ストーン目線”画像をVR動画にするなど、見たことのない映像体験が話題となりました。
[ソニー]は、主に“審判補助システム”に力を入れています。よく知られているのは、テニスでボールのライン・イン/アウトの微妙な判定時に用いられる“チャレンジシステム”です。時速200kmを超えようというテニスボールの軌道を複数のハイスピードカメラで撮影し、ミリ単位で瞬時に解析する技術です。また、体操の競技では、レーザーセンサーによる自動採点システムが導入されています。
[NEC]は、顔認証技術を使った入場サービスの仕組みを開発(約1秒で本人確認)。同社は他にも、会場内の混雑状況の把握のための“群衆行動解析技術”を世界で初めて開発。共に、各地で実証実験を重ねています。
先進技術を駆使した新たな映像サービスや観戦スタイルの提供。現場に足を運ばないと得られない感動と興奮を演出する未体験のコンテンツの数々----ICTの活用を核としたイノベーションは、スポーツ観戦の常識をも変えようとしています。
※参考:
スポーツ庁 http://www.mext.go.jp/
東北楽天ゴールデンイーグルス https://www.rakuteneagles.jp/
NTTデータ https://inforium.nttdata.com/
ソニー http://www.sony.jp/
NEC http://jpn.nec.com/
朝日新聞(2017年9月26日付)
扉で区切られた専用個室スペースが「レンタルオフィス」なら、業種や企業のカベを越え、複数の利用者が同じワークスペースを共有するオープンなオフィス形態が「シェアオフィス」と呼ばれています。
最近、働く時間や場所に制約されないテレワークを導入する企業が増えたことで、一般のビジネスパースンの間にシェアオフィスの利用が拡大。例えば、シェアオフィスを拠点としているベンチャーの起業家と、テレワークで立ち寄る企業の社員との協業で事業を立ち上げる“オープンイノベーション”が活発化するなど、企業のニーズを具現化する新たなきっかけの場としても、その効用に注目が集まります。
いま、そんなシェアオフィス事業に触手をのばしているのが、主に不動産や電鉄大手。次々と新しいワーキングスペースを提供しています。
[三井不動産]は昨年、法人を対象とした大型シェアオフィス「WORKSTYLING(ワークスタイリング)」を開設。受付にはコンシェルジュが常駐し、セキュリティーも万全。テレビ会議室や一人用個室も備えています。現在、全国約20カ所で展開。
[東急不動産]の会員制シェアオフィス「ビジネスエアポート」の5号店が、昨年、六本木に開業しました。オープンなワークスペースやミーティングルームのほか、37の個室やカフェスペースも完備。
[東京建物]は昨年夏、同社初となるシェアオフィス「+OURS(プラスアワーズ)」を東京・八重洲にオープンしました。地方企業の東京出張時の拠点としての利用も想定。現在は新宿との2店舗展開。
[東急電鉄]が2016年から運営するのが、会員制シェアオフィス「New Work(ニューワーク)」。現在6カ所で展開中。いずれも駅から徒歩3分圏の好立地。カフェのような空間にフリーアドレス型の衝立付きデスク席を用意し、会議室、Wi-Fi、電話ブース、ロッカーなどを完備。入退室時に必要なライセンスカードは全国の同店で利用可。今年度中に100店舗まで拡大する計画です。
“世界一集中できる空間”を目指して、昨年12月にオープンしたのが、眼鏡チェーン[JINS(ジンズ)]が運営する会員制シェアオフィス「Think Lab(シンク・ラボ)」です。集中はストレスとリラックスの共存から成るという考えから、神社仏閣をコンセプトに空間設計。一人掛けの机で全162席。奥には12席分の個室スペースも用意されています。
業務の場を自社内に限っていたこれまでの労働環境に限界を感じている多くの企業にとって、ワークスタイル、ひいては社員のライフスタイルを変えていくことがひっ迫した課題として横たわります。大企業の社員にも多様な働き方を許容し、そして要求するいま。シェアオフィスという新しい共有オフィス環境への需要は、今後一段と高まりそうです。
※参考:
一般社団法人 日本レンタルオフィス協会 http://www.jroa.or.jp/
三井不動産 http://www.mitsuifudosan.co.jp/
東急不動産 http://www.tokyu-land.co.jp/
東京建物 https://plus-ours.com/
東急電鉄 https://www.newwork109.com/
JINS https://thinklab.jins.com/
日経MJ(2017年7月17日付/同8月16日付)