才能はあるのに、長い間、芽が出なかった劇団のお荷物役者が、ある日、その演技が認められ、一躍、大河ドラマの主役に抜擢され、スターの座に昇りつめたようなもの…でしょうか。ただの海藻の一種だった「アカモク」が、いまやスーパーフードとして注目度が高まり、まさに引っ張りだこ状態となっています。
北海道東部を除く日本全国の沿岸の浅瀬に生息し、大きいものでは10mにも生育。赤く見える藻屑(もくず)の意味から名付けられました。熱湯にくぐらせると鮮やかな緑色となり、切り刻むと強い粘り気を発揮。“海の納豆”といわれ、表面は海藻類最強のネバネバ、ぬるぬる感、芯のほうはシャキシャキの歯ごたえ。クセのない味は、料理を選びません。
最大の魅力は、含まれている成分のケタ外れに高い栄養価にあります。例えば、カルシウムは昆布やワカメの1.2倍、モズクの4倍。鉄分は昆布の3.5倍、ワカメの5.2倍。カリウムはワカメの1.6倍。ネバネバの元であるぬめり成分“フコダイン”には、生活習慣病の予防や花粉症などのアレルギー改善、抗がん作用の効果が。さらには、内蔵脂肪の燃焼や抗酸化作用が認められている“フコキサンチン”も豊富に含まれており、まさに現代人待望の頼もしい食材といえそうです。
そんなアカモクも、かつては、繁殖力が強すぎるため、漁の網や船のスクリューに絡みつき、漁師たちからはただの厄介な海藻としてゴミ扱いされていました。宮城では「ジャマモク」「バツモ(×藻)」、三重にいたっては「クソタレモク」と呼ばれていたほどです。
しかし、利用価値がないと捨てられていたアカモクの健康成分にいち早く注目し、1998年から事業化していた岩手県では、山田湾で収穫された2016年のアカモク出荷量が10年前の4倍に拡大。
また、年間100トン以上を水揚げする大産地の福岡県が手掛けるのは、「岩屋あかもく」というブランド品として流通するほどに。
鳥取漁協では9年前からアカモクに着目して商品化。「人気で追いつかないほど」(漁協関係者)とうれしい悲鳴が。
函館では、2018年からアカモクの事業化に乗り出し、健康食品メーカーにアカモクエキスの販売を始めます。
その効能が認められてからほぼ20年という歳月を経て、やっと、健康志向の高まりという時代の後押しを得、晴れてスーパースターとなったアカモク。長いこと漁業関係者から忌み嫌われていた“海のゴミ”は、“海の葉っぱビジネス”と姿を変え、新たな収入源となって彼らに貢献します。ことに東北地方にあっては、経済的再興という重要な役割の一端も、アカモクは担っているのです。
※参考:
日経MJ(2017年8月7日付/同8月28日付)
近ごろ、若者を中心に“急須離れ”が進んでいます。ペットボトルや紙パック入りの緑茶飲料の消費量は増加しているものの、緑茶の国内消費量はこの10年で2割も減少しています(日本茶業中央会)。
その一方、米国を中心とした海外では、“お茶”が熱く盛り上がっています。背景には、“緑茶=ヘルシー”というスーパーフード的イメージが、世界的な健康志向の流れに乗って浸透したこと。加えて、和食がユネスコの無形文化遺産に登録され(2013年)、日本食ブームが沸き起こったことなどが緑茶の需要を押し上げました。
2016年の緑茶輸出量はこの10年で2.6倍に増加し、輸出額も過去最高を更新(財務省)。輸出の4割近くを占めてトップは、日本食レストランの多い米国。以下、ドイツ、シンガポール、台湾と続きます。
米国西海岸のシリコンバレーやロスのIT企業を中心に、ペットボトル緑茶の売り上げが好調です。この緑茶人気に目をつけた[米スターバックス]は、2012年に茶専門店「Teavana(ティーバナ)」を買収して全米で展開。さらに2014年、セレブも利用するというニューヨークの抹茶専門店「Matcha Bar」が引き金となり、“健康や美容にいい抹茶”のイメージの拡散に拍車をかけました。
アジアでも緑茶人気が広がっています。[アサヒ飲料]はインドネシアで、甘みを加えたペットボトル茶で攻勢をかけます。タイでは、飲むだけではなく、カレーやパスタなど、料理にも広く使用されています。
国内では、先細り感の否めない緑茶市場ながら、そのぶん、新しい息吹が吹き込まれて“深化”しているようです。
2017年にオープンした「東京茶寮(さりょう)」は、日本茶バリスタが目の前で専用のドリッパーを使って淹れるスタイルの日本茶専門店です。メニューは「2種類の煎茶飲み比べ+お茶菓子」のセット(1300円)のみ。
[紀伊國屋書店]は、東京・大手町に、“ブック&ジャパニーズカフェ”をコンセプトとした日本茶カフェ「紀伊茶屋(きのちゃや)」の2号店をオープンしました。
世界一の茶の産地は中国で、緑茶のシェアも世界一です。残念ながら、安価な中国製緑茶が世界では圧倒的に幅を利かせているというのが現状。日本産は、わずかひとケタ台のシェアに甘んじています。しかし最近では、中国での生産コスト上昇により、中国産との価格差が縮小。それにつれ、“価格は高いが品質も高い”日本茶の評価が改めて世界に認められ、年々需要が高まっています。
それにしても、海外での緑茶人気が、巡り巡って私たち日本人に日本茶の魅力を気付かせてくれるとは------。
※参考:
公益社団法人 日本茶業中央会 http://www.nihon-cha.or.jp/
農林水産省 http://www.maff.go.jp/
財務省 http://www.mof.go.jp/
日本貿易振興機構(JETRO) https://www.jetro.go.jp/
アサヒ飲料 http://www.asahiinryo.co.jp/
東京茶寮 http://www.tokyosaryo.jp/
紀伊茶屋 http://kinochaya.com/
日経MJ(2017年8月7日付)
共働き世帯の増加やライフスタイルの多様化に加え、高齢者を中心とする“買い物弱者”の増加といった社会的要因もあり、食の宅配サービスへのニーズは年々高まるばかり。そこに、スマホ(インターネット)という強力なツールが加わって、宅配ビジネスが一段と過熱。熾烈な顧客争奪戦が沸き起こっています。
コンビニ各社は、新しい収益源として、弁当などの宅配サービスに熱い視線を送ります。
[セブンイレブン]では、店舗で購入した弁当などを自宅まで届ける宅配サービス「セブンミール」を全店の7割超で展開中。しかし、十分な人手を割くのが難しいため、2017年、宅配業務を[セイノー]に委託。“ハーティスト”と呼ばれるセブン専属の配達スタッフが送り込まれ、複数の店舗を巡回して宅配を代行しています。
[ファミリーマート]は、高齢者向け宅配弁当の配送網を活用して、弁当と一緒に同店の商品を届ける「買物お助け便」を実施。配達時には利用者の安否確認も行います。
[ローソン]は、スマホなどから注文した食材を、毎週、指定した時間帯に届ける「ローソンフレッシュ」を展開中。
ネット事業者による宅配サービスも台頭しています。
[アマゾン]は、プライム会員向けに、今年4月、生鮮食品の宅配サービス「アマゾンフレッシュ」を開始。[楽天]では、2015年から、最短20分で配送する食品宅配サービス「楽びん!」を展開しています。
800以上のレストランと提携し、スマホからのオーダーでどんな指定場所にでも届けてくれるフードデリバリーサービス「ウーバーイーツ」が米国から上陸。配達員登録をした一般の人が、自転車や原付バイクで料理を届けるというユニークなシステムが話題に。
また、野菜を届ける宅配サービスでは、“調理キット”の販売を強化。
大手の[らでぃっしゅぼーや]は、副菜2品と汁物が10分で作れる食材セット「彩菜セット一汁二菜」を発売。[オイシックス(Oisix)]では、主菜と副菜が20分で作れる「キットオイシックス」を販売しています。
一方で、宅配のベテランともいうべき、ピザ・寿司業界では、配達スタッフ不足が深刻化。バイクの免許を持たない学生や主婦、シニア、外国人でも配達できるよう、電動自転車を導入して人手確保に懸命です。
2019年度には、2兆1470億円まで拡大すると見込まれている宅配ビジネス市場(矢野経済研究所)。宅配各社は今後さらに、ウェブでの注文の比率を高め、電話での接客時間の短縮、来店持ち帰りの増加など、効率的運営とともにスタッフの労働負担の軽減へと向かうのが潮流。
すでに、近い将来の導入に向け、ドローンや宅配ロボを使った配達の実証実験も始まっています。飲食系のITサービス、いわゆる“フードテック”の波は、想像を超える速さで世界中を席捲しつつあるようです。
※参考:
セブン-イレブン・ジャパン http://www.sej.co.jp/
セイノーホールディングス http://www.seino.co.jp/
ファミリーマート http://www.family.co.jp/
ローソン http://www.lawson.co.jp/
アマゾンジャパン http://www.amazon.co.jp/
楽天 https://rakubin.rakuten.co.jp/
ウーバーイーツ https://www.ubereats.com/
らでぃっしゅぼーや https://www.radishbo-ya.co.jp/
オイシックス https://www.oisix.com/
矢野経済研究所 https://www.yano.co.jp/
朝日新聞(2017年4月22日付)
日経産業新聞(2017年4月24日付/同6月8・9日付/同6月13・14日付/同7月25日付)