テーマやジャンルを絞った事柄について定期的に分けて刊行し完成させる方式の出版物を「分冊百科」、または「パートワーク」「ファイルマガジン」などと呼ばれています。イタリア生まれのこの出版形態は、本来、百科事典や文学全集、画集などで普及しました。高額の商品を分散させることで消費者の心理的ハードルを軽減した、“売りやすくて買いやすい”巧みな商法といえます。1970年代に日本に上陸して徐々に浸透。現在、出版不況で他の雑誌等が部数を落とす中、テーマによっては創刊号が100万部に達することもある「分冊百科」の検討ぶりには目を見張るものがあります。
この業界の先駆者であり王者に君臨しているのが、日本はもちろん世界でのシェアNO.1(50%以上)を占めている[デアゴスティーニ]。乗り物系、ミリタリー系、史跡系、音楽・映画・ドラマ系といった幅広いジャンルをそろえており、テーマ数とアイデア力で他社より一歩リード。発売中の195タイトル(2016年時点)のうち、8割が日本で企画されたものですが、同社には“企画部”は存在せず、社員全員が垣根を越えて企画を出せる環境で、ストックの豊富さが強み。世界約30カ国で展開する中、日本が断トツの売り上げを誇っています。
他にも、各社、メガヒット企画を狙ってしのぎを削っています。
硬貨や時計などの小物を少しずつ集めていくコレクション系と編み物やカリグラフィーなど、女性をターゲットとしたファンシー系が得意な[アシェット]。文学系や国宝・博物館などのミュージアム系、時代系(昭和、20世紀など)に強い[朝日新聞出版]。
懐かしの映像コンテンツがメインの[講談社]。絵画、落語などの文化芸術系や旅行系に加え、皇室や歴代総理といった個性的テーマが特徴の[小学館]。プロレス・相撲・野球などスポーツ系をメインに扱うのは、[ベースボール・マガジン社]と[集英社]。
この市場を支えているのは、団塊世代を中心とした中高年男性です。テーマによっては総額が何十万円となるものも少なくありません。自ずと、時間的にも経済的にも余裕のある人ということになります。
4月に発売され話題となっている、AI搭載のATOM(「週刊 鉄腕アトムを作ろう!」講談社)の場合は、全70号で、創刊号は830円、通常号は1843円、全巻合計で18万4474円(税別)。来年の9月まで、じっくりコツコツ、ワクワクが楽しめます。
※参考:
デアゴスティーニ・ジャパン https://deagostini.jp/
アシェット・コレクションズ・ジャパン http://www.hachette-collections.jp/
朝日新聞出版 http://publications.asahi.com/
講談社 http://www.kodansha.co.jp/
小学館 https://www.shogakukan.co.jp/
ベースボール・マガジン社 http://www.bbm-japan.com/
集英社 http://www.shueisha.co.jp/
昨春あたりから、観光業界で奇妙な現象が起きています。訪日外国人の数と宿泊施設(ホテル・旅館)利用者数との統計上の数値にズレが生じてきたのです。2016年の訪日外国人は約2400万人で、前年比22%もの伸びを見せているにもかかわらず、宿泊者数は伸びずに、その半分以下の8.4%増に留まっているのです(観光庁)。これまで両数値の曲線は、ほぼ比例して描かれてきました。
最大の要因は、旅慣れた訪日リピーターの増加にありそうです。宿泊費を削って、その分ちょっと豪華な食事や、よりディープな日本体験に使いたいというニーズが高まり、従来の宿泊施設を利用しない外国人観光客が相当数存在するようになったということです。
では、彼らは、どこで寝泊まりしているのでしょう?
その一つが「夜行バス」での車中泊です。例えば、東京→大阪間で4000円程度。夜、乗車して、朝、目が覚めると目的地。飛行機や新幹線より時間はかかりますが、はるかに割安、かつ宿泊代が浮く計算に。国交省も「高速バス情報プラットフォーム(Japan Bus Gateway)」を開設して、情報サービスを始めました。
何千人単位という乗客をのみ込む巨大クルーズ船での訪日観光客が増えています。昨年は、前年比78.5%増で過去最高を記録。当然、彼らは街なかのホテルには泊まりません。豪華な船室が宿となるからです。
ほかにも、数人で「キャンピングカー」をレンタルして日本を楽しむ訪日客が増加。寝場所を探す手間が省けます。
また、“こんなホテル、見たことない”と、かえって訪日客に喜ばれているのが「ラブホテル」。個性的な内装は、泊まれるテーマパークとしても人気で、宿泊所不足の解消に貢献しているようです。
さらに、24時間眠らない関西国際空港。その仮眠スペースでは、ホテル代わりに一夜を明かす訪日客で賑わっています。
終日営業のサウナや健康ランドといった温浴施設にも訪日客が目に付くようになってきたほか、小規模なゲストハウスやカプセルホテル、ウィークリーマンションなども選択肢に加わり、宿泊形態の多様化に拍車がかかります。
国の統計に上がってこない訪日外国人の、たくましくも柔軟な“寝場所”。今後は、その宿泊ニーズに応える受け皿づくりが、横ばい推移を描くインバウンド需要回復のポイントとなりそうです。
※参考:
日本政府観光局(JNTO) http://www.jnto.go.jp/
国土交通省観光庁 http://www.mlit.go.jp/
日本経済新聞(2016年10月22日付)
日経MJ(2017年1月25日付/同2月1日付)
日経産業新聞(2017年3月8日付)
ペットとして飼われている犬の数は約991万7000頭、猫は約987万4000頭(2015年/ペットフード協会)で、両方合わせると、日本の15歳未満の人口(約1617万人)をすでに超えているというから驚きです。ペットフードや医療の著しい進歩によって寿命が延び続け、犬の平均寿命が14.9歳、猫は15.8歳、共に人間の年齢でいうと約76歳に匹敵します(2015年調べ)。ちなみに犬の場合、1990年の平均寿命8.6歳から6.3歳も延びたことになり、これは人間に当てはめると、36歳も寿命が延びた計算になります。
関連各社は、“高齢”というコンセプトを次なるペットビジネスの主軸と捉え、きめ細かな商品開発に注力しています。
1986年からペット事業を展開する[ユニ・チャーム]は、昨秋、世界初となる高齢犬(7歳以上)対象の介護用品ブランド「ユニ・チャームペットPro」シリーズを立ち上げました。介護マット、尿吸収シート、体拭きシート、おしりまわり洗浄液の4点セットを、全国の動物病院を通じて販売。愛犬・飼い主、双方の介護負担を軽減するのが目的です。
フランスのペットフードメーカー[ロイヤルカナン]の「ベテリナリー ダイエット」は、獣医師の指導のもと、200種以上の犬・猫用の食事療法食を展開しています。
高齢ペットのためのオーラルケア用品も登場。
[ライオン商事]の犬・猫用歯ブラシ「ペットキッス 指サック歯ブラシ」は、ぐにゃりと曲がるボディの指先にブラシが付いており、奥歯までスムーズに磨けるのが特徴。犬の歯は、歯垢が歯石へと変わる速度が人間の5倍といわれており、高齢犬の必需品となりそう。
高齢ペットの市場拡大を見込んで、ペットとは縁遠かった異業種からの参入も目立ちます。特に、カメラやセンサーを活用した“ペットIoT”の動きは活発です。
犬の見守りサービス「わんダント2」を展開するのは[富士通]。センサー内蔵の装置を犬の首に付け、歩数や“ぶるぶる”の回数などを計測・分析して愛犬のハッピー度を飼い主のスマホに知らせます。
ソフトウェア開発の[アニコール]は、スマホアプリと連携して、興奮、欲求、リラックスといったペットの気持ちを知らせる、動物用ウェアラブル端末「しらせるアム」を開発しました。
肥満、認知症、訪問介護、デイケアサービス、食事療法、健康寿命……人間と同じ道を辿り始めた高齢ペットたち。今後、さらに寿命が延びることを考えれば、高齢ペットビジネスの需要がいっそう高まるのは自然の成り行きといえます。
※参考:
一般社団法人ペットフード協会 http://www.petfood.or.jp/
ユニ・チャーム http://www.unicharm.co.jp/
ロイヤルカナンジャポン https://www.royalcanin.co.jp/
ライオン商事 http://www.lion-pet.jp/
富士通 http://www.fujitsu.com/
アニコール http://anicall.info/
日経MJ(2016年11月16日付)
日経産業新聞(2017年1月23日付)
朝日新聞(2017年2月2日付)