2016年の国内家庭用マスク市場の規模は、昨年比5.6%増。ここ5年で52%も伸びています。最近では使途の多様化・細分化が進み、季節を問わず通年使用に対応する“高付加価値マスク”が注目され、市場を押し上げています。
マスクをファッションの小道具に変えたのは、[ユニ・チャーム]の「小顔にみえマスク」。アゴ全体に沿う“ラウンドフォルム”設計に加え、マスクの下半分のプリーツ幅を広くして均等が一般的頬もすっぽり覆うことで小顔に見える“目の錯覚”を利用。この特許技術とデザインが認められ、2016年度「グッドデザイン賞」を受賞しました。
[アイリスオーヤマ]も小顔に見える「美フィットマスク」を昨秋、発売。フェイスラインを美しく見せるため、マスク下部の両端を斜めに切り落としてフィット感を高め、小顔を実現します。
マスク需要が低迷する夏場をターゲットにした大胆なマスクも登場。[白元アース]の「be-style UVカットマスク」です。紫外線をカットする酸化チタンを練り込んだ素材を使用し、着用時の暑さや蒸れを防ぐ“涼感仕立て”で、側面部分にはメッシュ加工を施し、通気性を高めました従来の2倍。
メントールの清涼感でお馴染みの「フリスク」とコラボしたのは、[スズラン]の「フリスクマスク」。眠気防止にもつながると、カー用品店や高速SAなどでも販売。同社の一般的マスクと比べ、30倍の売れ行きだとか。
満員電車内などでの悪臭対策にと登場したのは、[ピップ]から発売された、その名も「悪臭退散マスク」。4層構造(従来は3層)で不快なニオイをシャットアウト。都心部のドラッグストアでの売れ行きが好調です。
マスク界の常識を打ち破ったのは[小林製薬]の「のどぬ〜るぬれマスク ひもなし貼るタイプ」。長時間、着用していても耳が痛くならないという、マスクメーカー共通で永遠の課題を見事にクリア。医療用テープと同素材の粘着テープでマスクを固定するという画期的な方法を開発、商品化にこぎつけました。
オシャレ感覚の“だてマスク”が流行り、女性の間では“すっぴん隠し”の必須アイテムになりつつあるマスク。食事のときしか外さない“年中マスク族”や“家中(いえなか)マスク族”も増殖中。最近特に若者の間で増えているのは、マスクをしているとなんとなく落ち着くという“精神安定マスク族”。人と直に接するコミュニケーションが苦手な現代人は、一種の恐怖心から表情を見せない対人関係を好むという考察もなされています。いまどきならではの、マスクのもう一つの効用なのかもしれません。
※参考:
日本衛生材料工業連合会 http://www.jhpia.or.jp/
ユニ・チャーム http://www.unicharm.co.jp/
アイリスオーヤマ http://www.irisohyama.co.jp/
白元アース http://www.hakugen-earth.co.jp/
スズラン http://www.suzuran-corp.co.jp/
ピップ http://www.pip-club.com/
小林製薬 http://www.kobayashi.co.jp/
日経MJ(2016年11月28日付)
日経産業新聞(2016年11月30日付)
21世紀には消滅してしまうかもしれないとささやかれていた「アナログレコード(以下、レコード)」市場が再燃の兆しを見せ、いまや世界的ブームとなっています。
ブームの中心は、ノスタルジックな思いでレコードを手に取るシニア世代かと思いきや、CDやデジカメで育った若き(35歳以下)デジタルネイティブ世代なのです。
ブームをけん引している要因として次の3点が挙げられます。
一つは、レコードプレーヤーが身近になったこと。これまではマニアのための高価なモノといったイメージが強かったのが、ここ最近のレコード人気に比例して、初心者が気軽に聴くには充分な機能を備えたオールインワンタイプの機器(1万円前後)が続々と登場しています。
二つ目は、人気ミュージシャンの相次ぐレコード化です。「きゃりーぱみゅぱみゅ」「サザン」など、ミュージシャンの間でも自作をレコードでリリースするのがちょっとしたブームとなっているようです。また、2014年にレコード専門店(渋谷)をオープンした[HMV]は、昨年、2号店を新宿にオープン。さらに昨年、レコードが付いたコレクションブック「ジャズ・LPレコード・コレクション」が[デアゴスティーニ]から創刊されるなど、周辺の動きも活発です。
そして、三つ目が最も大きな要因といえるかもしれません。それは、“ユーザーの意識変化”ともいうべき消費スタイルの変わりようです。1杯ずつドリップで抽出する“サードウェーブカフェ”がいま人気になっているように。小型インスタントカメラ「チェキ」や「写ルンです」が再び密かな人気を集めているように。手間や不便を超えた“味わい”を感じたい層が確実に増えているという時代のテイスト。指先ひとつで何でもできるデジタルの時代だからこそ、面倒くささを愛おしむという価値観。だからといってアンチ・デジタルではなく、両方を使い分ける----家ではレコードをプレーヤーで楽しんで、外ではスマホに取り込んだデータや配信サービスを利用して音楽を聴くという、アナログとデジタルの融合です。
国内で唯一レコード盤を生産する[東洋化成](横浜)では、連日フル稼働の状態が続いており、この3年でプレス枚数が倍以上になったといいます。関連各社にあっては、この状況はもはや“復活”ではなく、新規事業と捉え、新しいカルチャーとして発信していく絶好のチャンス。ちなみに、あのスティーブ・ジョブズ氏は、家に帰るとレコードを聴いていたとのことです。
※参考:
日本レコード協会 http://www.riaj.or.jp/
HMV http://www.hmv.co.jp/
デアゴスティーニ・ジャパン http://deagostini.jp/
東洋化成 http://www.toyokasei.co.jp/
日経МJ(2016年9月26日付/同11月9日付)
共働き世帯の増加、さらに高齢者世帯や単身者世帯も増えていることなどを背景に、近年、家事の担い手の多様化が進んでいます。その担い手の一つが、「家事代行サービス」です。
「家事代行サービス」とは、家庭における日常的な家事全般(掃除・洗濯・アイロンかけ・食器洗い・買い物など)を、派遣されたスタッフが依頼者に代わって行うサービスのことです。専門技術を有し、特殊な道具や洗剤などを使用する「ハウスクリーニング」や、スタッフ個人と直接雇用契約を結ぶ「ハウスキーパー(家政婦/お手伝いさん)」などとは異なります。
特別な免許や設備が要らないことから、事業参入へのハードルは低く、他分野からの新規参入組が目立ちます。電鉄、電力、不動産、家電、警備、運送など、まさに群雄割拠の様相、その数は枚挙にいとまがありません。
基本的に、部屋の間取りと家族人数を元に、作業内容についてヒヤリングを行った上で料金が決められます(交通費は別途)。平均額(東京)は、1時間4000円強。通常2時間からの利用なので、1回6000〜8000円程度。
この業界は一方で、主婦層を中心とした新たな雇用を生み出しています。育児を一段落した女性の社会復帰として家事のスキルを活かせる点や、すきま時間を活用して収入が得られる点など、業界の慢性的なスタッフ不足を補う意味でも期待されています。ちなみにTBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で、ヒロインの家事代行として働く姿が共感を呼んだせいか、このドラマを監修した業界最大手の「ベアーズ」には、スタッフの応募が平常の1.5倍も寄せられたとのこと。
日本人男性の家事負担率が18%という調査結果が出ています。1位はスウェーデン(42.7%)で、日本は最下位でした。政府(経産省)も“女性が輝く社会”の推進には家事負担の軽減が不可欠として、「家事支援サービス推進協議会」を2015年に立ち上げ、家事代行サービスの利用促進を国を挙げて後押し。なにしろ、家事代行サービスの存在を「知っている人」が70%もいるのに、「現在利用している人」がたったの1%しかいない現実(「利用したことがある人」は3%)。料金の高さに加え、他人が自宅に入ることへの抵抗感がネックとなっているようです。
政府は今後、このサービスの市場規模を、2012年度の980億円に対し、約6.1倍(6000億円)まで膨らませると目論んでいますが、はたして……。
※参考:
全国家事代行サービス協会 http://www.kaji-japan.com/
厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/
経済産業省 http://www.meti.go.jp/
ベアーズ http://www.happy-bears.com/
朝日新聞(2016年10月9日付/同12月26日付)
日経MJ(2016年12月9日付)