牛乳、バター、チーズなどの乳製品を使用していない食品のことを「ミルクフリー」または「デアリーフリー」と呼ばれ、新たな食のトレンドになりつつあります。日本では「デイリーフリー」という呼び方が一般的なようですが、正確には“日常”を意味する“Daily”ではなく、“Dairy=デアリー=乳製品”という意味です。
乳製品にアレルギーを持つ人だけでなく、ベジタリアンや、一切の動物性原料の食品を摂らない完全菜食主義の“ヴィーガン(VEGAN)”などに支持されています。欧米ではミルクフリー食品のニーズが高く、レストランのメニューにも表示されるなど、もはや特別なものではなくなっています。
遅ればせながら日本でも最近、植物性のミルクということで豆乳やライスミルクなどを皮切りにミルクフリー商品が登場。なかでも話題となっているのは、美肌づくりに欠かせないビタミンEやミネラルをたっぷり含んだ“ナッツ(アーモンド)ミルク”です。
[グリコ]は2014年から、“飲むアーモンド”を謳った「アーモンド効果」を発売し、人気商品となっています。
[フルッタフルッタ]は昨秋、ミルクフリーシリーズのサンドアイスに、カシューミルクとココナッツミルクの2つの味を発売。併せて、クルミ、カシューナッツ、アーモンドの3種類からできた濃厚なナッツミルク、「オメガミルク」も発売。そのままで飲んだり、コーヒーに入れたり、シリアルにかけたりと、普通の牛乳と同じ感覚で楽しめます。
[大塚チルド食品]の「ミルクのようにやさしいダイズ」シリーズは、牛乳と相当量のカルシウムが摂取できる大豆ミルク。いちご、塩キャラメル、コーヒーなど5種類の味が揃っています。
[ブラウンシュガーファースト]では、有機ココナッツミルクをたっぷり使った「VEGANアイスクリーム」を発売。これまで大豆原料が主流だったミルクフリーのアイスを、ココナッツミルクを使うことで濃厚でより乳製品に近い味わいを実現しました。
アレルギーや菜食主義の人だけでなく、昨今の美容・ダイエットブームを受けて、日本でも20〜30代女性を中心にじわじわと広がりを見せているミルクフリー食品の数々。まだ、価格面では若干高めな印象があるものの、日本在住や訪日外国人など、確実に需要は見込まれます。そのためにも、商品開発はもとより、商品へのわかりやすい表示や売り場づくりなど、日本も本腰を入れる時期に来ているようです。
※参考:
農林水産省 http://www.maff.go.jp/
江崎グリコ https://www.glico.com/
フルッタフルッタ http://www.frutafruta.com/
大塚チルド食品 http://www.otsuka-chilled.co.jp/
ブラウンシュガーファースト http://bs1st.com/
日経МJ(2016年6月10日付)
昨年あたりから、20〜40代の働く女性や子育て中の女性たちを中心に世界的ブームを巻き起こしているのが、「大人のぬり絵」です。
子ども用のぬり絵と違うところは、細密画のような緻密な絵柄、インテリアにもなるようなデザイン性の高さとアーティスティックな美しい仕上がり。配色のバランスや色付けのタッチの加減を楽しみながら完成させていくのが特徴です。塗っている時は無心になれる“ストレス解消効果”や手作りの作業を通して心が癒される“ヒーリング効果”。さらに、正解がなく(完成見本がない)、好きな色で好きなように塗る作業がリラクゼーションにつながる“リラックス効果”などが得られるといわれています。
この予期せぬブームで思わぬ特需に沸いているのが「色鉛筆」メーカーです。今春には、ドイツの大手メーカー[ファーバーカステル社]が色鉛筆の在庫不足に陥るほどでした。「大人のぬり絵」ブームの勢いが、世界的メーカーを慌てさせたのです。同社ばかりか、世界の多くのメーカーが色鉛筆の品薄を招き、その“うれしい悲鳴”の余波は日本にも及びました。
[三菱鉛筆]の「No.888 36色セット」(税抜き3,000円)は、昨年末に発売されるや5カ月で当初目標の4倍の受注があり、一時、生産が追いつかない状況となりました。併せて、72色、100色セットの売り上げも伸びました。
他メーカーもこぞって活発な動きを見せています。
[パイロット]からは、ボールペンで開発した“こすると消える”技術を色鉛筆にも応用。鉛筆後部のラバーでこすると色が消える「フリクションいろえんぴつ」(全12色/1本100円)を発売。[サクラ]は、オランダの有名メーカー[ロイヤルターレンス社]の「ヴァンゴッホ色鉛筆60色セット」(税抜き12,000円)を発売。[トンボ]は、自然界の色を再現した「色辞典 オリジナル全90色/全3集」(1集/税抜き3,000円)を発売。カワセミ、たんぽぽ、桜貝など、魅力的な色名が10色ごと、トーン別に(1集3トーン)編集されたユニークな色鉛筆セットです。
塗るのが下手でも上手く見えてしまうという、不思議な魅力に大人がハマるぬり絵の世界。ブーム拡大に一役買っているのは、SNSの存在です。でき上がった作品をアップして、世界中のぬり絵仲間との交流を楽しむ輪が広がっています。男性の“ヌリエスト”も増えてきたいま、ぬり絵本が書店から飛び出てホームセンターや画材店へと販路を拡大し、色鉛筆も書店のぬり絵本と隣り合わせの販売戦略を----なにやら、ほのぼのとした“販促交流”となりそうです。
※参考:
三菱鉛筆 http://www.mpuni.co.jp/
パイロットコーポレーション http://www.pilot.co.jp/
サクラクレパス http://www.craypas.com/
トンボ鉛筆 http://www.tombow.com/
日経МJ(2015年12月9日付)
日経産業新聞(2016年5月9日付)
熱い食べ物はさめないうちに、冷たい食べ物はぬるくならないうちに、というのが美味しくいただく原則とされてきました。ところが最近、これまで“熱々”や“冷え冷え”が常識だったものを、あえて“ぬるめ”で提供する店などが増えはじめて話題となっています。
東京の立ち喰いそば店[ちかてつそば](メトロプロパティーズ)では、「ぬるそば280円」のメニューが目を引きます。“ぬるさ”のレベルには5段階あり、スタンダードの「ぬるそば」は、熱いスープを冷水で割ったもの。フーフー要らずで、一気に麺をすすったりスープを飲み干すことができます。汗もかかず、メガネも曇りません。「熱いと味がわかりにくい。ぬるい方がダシの香りや味わいがよくわかる」というのが店主の持論。
大阪では、創作うどん[御馳走UDONLIFE うれう]の「ぬるいUDON」シリーズが人気です。冷たい麺に温かい具材をかけ、かき混ぜることでぬるくするという“ぬるメニュー”を昼限定でラインアップ。
丸亀の[純手打ちうどん よしや]では、“あったかい”と“冷たい”の他に“ぬるい”があって、一押し人気となっています。
山形では、“ぬるいラーメン”が名物。[お食事処 葵]のメニューにあるのは、“ぬるい”と“冷たい”の2種類(日によって“熱い”もある)。ゆでた麺を一旦、冷水で洗い、その上に熱いスープをかけて全体をぬるく仕上げます。「ぬるいのが最高においしい。私たちの意図するスープの味が一番出るから」と、開店当初から、ぬるいラーメンを看板メニューとすることに迷いはなかったとのこと。
他にも、「ぬる中華」「ぬるまラーメン」など名称は異なりますが、なぜか山形県内ではぬるいラーメンが盛んなようです。
コンビニをはじめ自販機にも“常温ブーム”の波が押し寄せています。[アサヒ飲料]などメーカー各社は、オフィスの冷房で体が冷える女性や病院からの要望に応え、“HOT(約50度)”と“COLD(約5度)”の2種類しかなかった設定温度に、“常温(約20度)”を加える動きが広がっています。
また、[スターバックス]でも、「ライトホット」と注文するとぬるめに温度調整してくれるカスタマイズサービスを行っています。
体を冷やさない、喉や胃腸にやさしい、本来持っている味をしっかり感じることができる-----常温需要の高まりは、単に“温度”のモンダイというより、熱すぎず・冷たすぎず、中庸を善しとする日本人の精神文化の一つの表れなのかもしれない、などと考察するのは大袈裟でしょうか。
※参考:
メトロプロパティーズ http://www.metro-pro.co.jp/
アサヒ飲料 http://www.asahiinryo.co.jp/
スターバックスコーヒージャパン http://www.starbucks.co.jp/
日経МJ(2016年6月10日付)