「アイトラッキング(Eye Tracking)」----人の目の動きを解析する技術、またはその技術を応用した“視線計測調査”という意味でも用いられています。どの部分を、どれだけの時間をかけて、どのような順序で見ているかといった情報を得るための技術で、元々は医療(心理学)や科学など学術研究のフィールドで使用されていましたが、ここ数年は、ユーザーアンケートやモニタリングに代わって、あるいはそれらと併用しながら、消費者の志向を読み解くための強力な武器として様々な分野で採用されています。
活用シーンは、チラシ、DM、カタログ、広告、テレビCM、webサイトなどの販促ツール評価。陳列棚、POPなどの店頭評価。商品パッケージのデザイン評価など、視覚に関する、つまり目に見えるあらゆる媒体に及びます。
「アイトラッキング」を実施するには、専用の機器(アイトラッカー)が必要となります。専用のゴーグルに組込まれたカメラが前方の映像と瞳の動きを同時に読み取ってパソコンにデータを記録する“グラスタイプ”が一般的ですが、最近はモニター周囲に組込んだカメラや赤外線装置で、画面のどの部分を見ているかを記録する“ディスプレイタイプ”も増えています。ちなみに、専用メガネ、解析ソフトなど一式の価格は数百万円。日本国内では、500を超える企業や大学などが採り入れています。
売上げの90%近くが自販機だという飲料大手の[ダイドードリンコ]は、昨年1月から「アイトラッキング」の手法をマーケティングに採り入れました。これまで購買者の目線は、左から右へ、上段から下段へと移ると信じられてきたことから、商品陳列棚の“S席”(最重要位置)は“左上”、というのが普遍的な常識でした。ところが、「アイトラッキング」によって導き出された分析では、なんと“左下隅”に目線が集中したことが判明。その結果を踏まえて同社は、昨秋より、売りたい商品を左下隅に配置したところ、売上げが前年比3割増という、驚異的な数字に結びついたといいます。
これまで、チラシや商品パッケージなどのデザインの良し悪しは、限られた関係者による“感覚”での判断に委ねられてきました。その曖昧な部分を、「アイトラッキング」は科学的に公平に分析してくれます。なにより、説得力が違います。どうやら、いまどきのマーケティングは、“経験”や“勘”より、目線による“データ”がモノを言う時代になったようです。
※参考:
ダイドードリンコ http://www.dydo.co.jp
朝日新聞(2013年4月10日付)
日経産業新聞(2013年5月8日付)
介護を受ける状態になる前に、その原因を取り除くために行うのが「介護予防」です。フィットネスクラブ各社では、培ってきた知識と経験を生かして「介護予防」事業の強化に乗り出しました(一部、介護認定者も対象)。
その背景には、高齢化社会の到来に伴った会員の高齢化があります。それはとりもなおさず、これまでの成長を支えてきた“フィットネス適齢期”といわれる50歳までの会員の減少を意味します。しかも、その現象は今後ますます加速していくという現実。2008年をピークに会員数の伸びが頭打ちの現状で、施設も過剰気味。中小規模のクラブでは閉鎖や営業譲渡などがじわじわ増えており、業界再編が進んでいます。
業界トップの[コナミスポーツ&ライフ]は、昨秋から“60歳からの運動スクール”と銘打った新ブランド「ОyZ(オイズ=老いず)を展開しています。
まず、レッスン前に血圧測定など体調をチェック。続いてウォーミングアップ&ストレッチをしてからプログラムに入ります。転倒予防に効果のある“ロコモエクササイズ”を椅子に座って20分。踏み台を使った“スローステップエクササイズ”を20分。腰痛の予防に効果的な“コアエクササイズ”を20分、計1時間のプログラムを終えると、ゆっくりクールダウン。これが運動スクールの“時間割”です。利用料金は週1回で月額6,825円。
[ルネサンス]が展開するのは「元気ジム」。五感からの刺激と身体の動きを連動させることで脳を活性化させる認知症予防プログラム「シナプソロジー」を独自に開発し、採り入れているのが特徴。
[ティップネス]では、転倒予防、膝痛・腰痛予防、尿失禁予防、認知症予防などの教室を設け、グループエクササイズを採り入れた多彩なプログラムで展開。
“はつらつ・膝痛らくらく体操教室”“ヨガ・太極拳教室”“かんたんマシン教室”を中心に、60歳以上の健康づくりプログラムを提供しているのは、[オアシス]。
アメリカ生まれの女性専用30分間フィットネスとして2005年に上陸して以来、日本全国で展開する[カーブスジャパン]でも、約30の介護予防教室を開催し、女性の支持を集めています。
各フィットネスクラブとも、“介護予防運動指導員”や“健康運動指導士”といったプロによるサポート体制をとっていますが、同時にそれらの人材の養成も「介護予防」事業の一環として、自社で行っています。
“フィットネス”と“介護予防”の二毛作で事業展開を推し進めるフィットネスクラブ各社。売上高に占める介護事業の比率はまだまだ小さいとはいえ、これからの高齢化社会にとって、欠くことのできない重要な位置付けとなることは間違いありません。
※参考:
コナミスポーツ&ライフ http://www.konamisportsclub.jp/
ルネサンス http://www.s-renaissance.co.jp/
ティップネス http://www.tipness.co.jp/
オアシス http://www.sportsoasis.co.jp/
カーブスジャパン http://www.curves.co.jp/
日経MJ(2013年5月20日付)
戸建て住宅やマンションなど、一つの住宅を複数の人が共有して使う賃貸住宅、「シェアハウス」。同レベルの物件と比べると家賃はやや高め。各人の個室の他、トイレ、バス、キッチンなどの設備は共用で、生活上の一定のルールを設けた上で、入居に際しては“審査・面談”が行われるケースも多いようです。
最近の傾向としては、企業の独身寮や社宅、学生寮だった物件をリノベーションして「シェアハウス」に再生するといったケースが目立っています。
資産として物件を保有する企業側にとっては、遊休化している福利厚生施設の有効活用ができるというメリットが。仲介する不動産会社にとっても、入居者が絞り込める分、借り手が見つかりやすく、かつ高い賃料が設定できるというメリットがあります。
また、昨今のシェアハウス人気の火付け役となったのが、個性的な“コンセプト物件”の出現です。共通の目的や趣味を持った仲間が共同生活するため、より活性化したコミュニティが生まれます。
企業の社員寮が、“アウトドア”をコンセプトにしたシェアハウスに生まれ変わったのは「TENTMENT高輪」(東京)。外壁にボルダリングウォールが設置され、屋上にはテントが張れるテントテラスも。アウトドア用品のための倉庫や手入れのための工房も用意されている他、無料のシェアサイクルやカーシェア(有料)、近くには入居者専用の貸し菜園まで。
起業家を目指す人向けのシェアハウスが「X-garden桜台」(東京)。すでに起業した人、起業直前の人、起業を志す会社員など、入居者は20代から40代と幅広く、男女比は3:1。セミナールームが備えられているのが特徴で、自分のプランに鋭いツッコミを入れてくれる人が身近にいたり、入居者同士がコラボしたり、実践的なアドバイスや体験談などを日常の生活の中で得ることができるのが大きなメリットとなっています。
暮らしながら英会話が身につくシェアハウス「CROSS WORLD大森」(東京)では、共有スペースでの日本語は禁止。
“ペットも人も楽しく暮らす”がコンセプトのシェアハウスは「HOUSE-ZOO壱番館」(埼玉県越谷市)。玄関にはペット用シャンプーシンクが設置。ペットを飼っていなくても単に動物好き、という人も歓迎とか。
シングルマザー専用の「ペアレンティングホーム高津」(川崎)、漫画・アニメ・ゲームの大好きな、いわゆるオタク系女子専用の「ドーミー小金井Net」(東京)、日本初の鉄道模型(Nゲージ)好きの「ナインステージ」(東京)などなど。
「シェアハウス」は、居住空間としてのハード面の価値だけではなく、趣味・体験といった“ソフト価値”をもシェアする形態へと進化しているようです。
※参考:
TENTMENT http://www.tentment.jp/
X-garden桜台 http://www.x-garden.jp/
CROSS WORLD大森 http://crossworld-residence.com/
HOUSE-ZOO壱番館 http://www.house-zoo.com/
ペアレンティングホーム高津 http://s-affitto.co.jp/
ドーミー小金井Net http://www.dormy.co.jp/
ナインステージ http://9stage.jp/
日経産業新聞(2013年5月14日付)