最近、男女を問わず「かつら(ウィッグ)」のテレビCMが増えていると感じるのは気のせいでしょうか。商品の性格上、気軽に知人に紹介したり、どんどん口 コミで伝わるといった類のものではないため、大手メーカーは膨大な広告費をマスメディアにつぎ込み、大規模に宣伝するという戦略に打って出ます。
“大手”は、ご存知[アデランス]と[アートネイチャー]の2社。この2強で市場の5割以上のシェアを占めていますが、ここにきて大手といえども安閑と はしておれない状況に直面しています。単価の下落に加え、新興勢力による価格破壊などを背景に、市場の縮小に歯止めがかかりません。2011年度の「ヘア ケア」市場全体では微増でほぼ横ばいだったにもかかわらず、男性用の「毛髪業(かつら)・植毛」市場は大幅に市場規模を縮めています。その要因の一つは、 好調な「発毛・育毛剤」市場やシャンプー、リンス、トリートメントなどの「ヘアケア剤」市場から、「かつら」の需要が奪われていることにあります。
そこで大手2社は、窮状を打開すべく、これまでの40代〜高齢ユーザーの依存から、20〜30代の薄毛に悩む男性へとシフトしました。「かつら」利用者の永遠のニーズである“見た目の自然さ”実現へ向け、各社、ミリ単位の闘いを繰り広げています。
新製品の傾向としては、残っている髪の毛に金具で留めたり編み付けたりする既存タイプの手法ではどうしても不自然さが残るため、専用の接着剤で直接、頭皮に貼り付け、より自然に見せるタイプが主流となっています。
最大手[アデランス]は、“究極の自然さ”をうたった貼り付けタイプの「ヘアパーフェクト」を昨年5月に発売。ハリウッド映画の特殊メイクでも使われて いるという、厚さ0.08ミリの超極薄素材“スカルプエアネット”を採用。1平方cmに約100本の毛を、1本ずつネットに縫い付けていきます。着けたま まのシャンプーや水泳なども可能です。
[アートネイチャー]から昨年9月に発売された「レクア」も貼り付けタイプ。0.08ミリのネットに毛を縫い付ける作り方は「ヘアパーフェクト」と同じ ですが、残っている毛との差をなくすため、毛の太さを通常0.07ミリのところ、より細い0.05ミリのものも揃えている点が特徴です。
価格は共に、3枚セットで約70万円から。
ストレスや食事の欧米化による髪質の劣化などの影響もあり、成人男性の4人に1人は薄毛に悩んでいるといいます。高齢化の進行やアンチエイジング志向の高まりなど、「男性かつら」には追い風の要素が少なくないのですが・・・・・・。
※参考:
アデランス http://www.aderans.jp/
アートネイチャー http://www.artnature.co.jp/
日経産業新聞(2012年10月22日付)
日本はこれまで、若者が消費の中心でした。しかし、50代以上が過半数を占めるまでになったいま、個人消費の主役に躍り出たのは「シニア層」です。
これまでのシルバー世代とは全く異なる多様な嗜好や価値観を有し、特に消費体験豊富な団塊世代が加わり始めた“平成シニア層”は、従来の顧客理解の常識 が通用しない手ごわい消費者でもあります。かつての“シルバービジネス”が思ったほどの成果が挙げられなかったのは、このマーケットを“高齢者=老い=余 生”といったディフェンシブ(防衛的)な年齢軸の切り口でしかアプローチしなかったことが敗因。現代のシニアは、人生や社会にオフェンシブ(攻撃的)で、 齢にしばられないエイジレスな感覚を持った“新しい大人”なのです。高齢者はこういうもの、という単純化・画一化は禁物。そんなシニアたちの旺盛な好奇心 と消費意欲をくすぐる新しい接客・サービススタイルを打ち出そうと、各企業は様々な角度から模索しています。
[はとバス]では、利用者にシニア層が増えることをにらんで、2010年から同社OG(60代前半)の再雇用をスタート。さらに2011年からは、若い 世代のガイドと同乗する“ペアシステム”を導入。人気スポットなどの最先端の情報は20代のガイドから、豊富な知識の経験による味のある案内は同世代の年 配のガイドからと、絶妙な“老若コンビ”ぶりがシニア客にウケています。
シニアミセスに照準を合わせた店舗づくりを徹底しているのが[京王百貨店] 。“効率”より“満足”、“高級感の演出”より“居心地の良さ”の精神が店内の随所に現われていますが、最も“京王らしさ”が表われているのが「コンサル ティング機能」です。靴、フォーマル、ギフト、インテリアなど、主な売り場には商品知識に詳しい、有資格者が配されています。また、婦人服売り場などには シニア客の娘にあたる世代の販売員を配し、母娘で買物に来ているような“娘目線”での接客も好評です。
来店客にこだわり派のシニア層が多い[代官山 蔦屋書店] (カルチュア・コンビニエンス・クラブ)には、“本のコンシェルジュ”がいます。アート、建築、料理、旅行など、6つの分野に特化した売り場では、それぞ れの分野に精通したプロ中のプロたちのセンスが、選書から配置に至るまで発揮されています。コンシェルジュたちの年齢も中心顧客層に近く、客と店員という 立場を超えた“知的接客”が常連客づくりに大きく貢献しています。
今どきのシニアは、身体的にはともかく、精神的には自分が高齢者とは思ってはいない傾向があります。“シニア向け”“高齢者向け”を前面に出すことは、一番やってはいけない接客だということは間違いなさそうです。
※参考:
はとバス http://www.hatobus.co.jp/
京王百貨店 http://www.keionet.com/
カルチュア・コンビニエンス・クラブ http://www.ccc.co.jp/
日経MJ(2012年10月5日付)
高齢者など、潜在的な難聴の方を含んだ聴覚障害者の数は、日本の人口のおよそ15%にあたる約2,000万人といわれています。総務省は2007年、 2017年度までに生放送を除くすべてのテレビ番組に字幕を付けるように、と目標を定めました。その結果、「字幕付き放送」は、2011年度時点で、 NHKで70.6%、在京キー5局で90.8%までに達しました。ところがこの通達には、放送全体のほぼ2割に相当する“CM”は含まれていませんでし た。そこで日本民間放送連盟では、2010年に「字幕付きCM」のワーキンググループを設け、翌11年には試験放送に関する留意事項を取りまとめ、在京5 局が試験的に受け入れ態勢を整え、進めてきました。
「字幕付き放送」----テレビの音声を文字や記号で画面に表示するサービスで、地デジ放送への移行を機に本格的に導入された機能です。視聴者がテレビのリモコンの“字幕”ボタンを押すと画面下中央部分に音声と同じ内容の文字が現われる仕組みです。
「字幕付きCM」の第一号は、2010年3月、[パナソニック]が番組内で放送した60秒の企業広告でした。続いて同年7月に[富士通] 、11月に[ライオン]、さらに翌11年3月には[東芝] [トヨタ自動車]他5社による初の複数スポンサーによる「字幕付きCM」が日テレ系の特番でトライアル放送されました。
中でも特に熱心なのは[花王]で、2011年8〜9月を皮切りに、2012年1〜4月、そして同年10月からは3局同時に試験放送を実施しています。
しかし、「字幕付きCM」の本格普及には数々の課題が待ち受けているのも事実。その一つが技術レベルの問題です。
字幕は1行に15文字までしか表示できず、長いセリフで3〜4行にもわたると字幕がジャマをして背景の映像が見づらくなってしまう点。文字のサイズ、書 体、色に限りがあり、元々入っているCMの文字情報との混同を招く点。さらに、字幕データは番組映像とは別個に送出されるため、タイミングのズレが生じて 他社のCMや一般番組に字幕が映り込む恐れがある点など。トライアルを重ね、本格導入までのさらなる検証が必要のようです。
一方、視覚障害者など、テレビ画面表示の見えにくい人に向け、放送中の番組のタイトルや内容、放送局名、操作状況などを音声で読み上げてくれる機能を搭載した“しゃべるテレビ”が発売されています。
[三菱電機]の「リアル」は、19型から55型まで11種類に採用。[パナソニック]の「ビエラ」は全機種に、また2011年からはブルーレイ・ディスクレコーダー「ディーガ」にも“読み上げ機能”を標準搭載しています。
今後、「文字付き」や「読み上げ」テレビへのニーズが拡大することは確実ですが、それは単に一メーカーの利益追求といったレベルを超えた、企業の社会的責任の一つといえます。
※参考:
パナソニック http://panasonic.co.jp/
富士通 http://jp.fujitsu.com/
ライオン http://www.lion.co.jp/
日本テレビ http://www.ntv.co.jp/
花王 http://www.kao.co.jp/
三菱電機 http://www.mitsubishielectric.co.jp/
日経産業新聞(2012年10月1日付)