道行く人に向けてパンフレット類の棚がずらりと並び、奥にはカウンターがあって、というお馴染みの旅行代理店の店舗風景が姿を消す日も近いかもしれません。
今や、WEB上での旅行商品の販売が店舗販売を上回り、数年前から始まったこの傾向はここにきてますます加速し、旅行業界は急ピッチで販売方法の見直しが迫られています。
09年、国内旅行の場合で見てみると、各旅行会社が運営するサイトか、楽天トラベベルなどのネット専門の旅行予約サイトで申し込んだという人が約35%と前年比増で、他の申し込み手段を抑えてトップ。一方、店舗を通しての申し込みは約16%と、年々減少傾向が見られます(JTB調べ)。旅行大手各社は、不採算の店舗を減らすと共に、専用のサイトを立ち上げ、紙のパンフレットを前提とした商品づくりとはひと味違う、ネット向け商品の開発に注力し、ネットでの取扱い高を増やすことに躍起です。
JTBは、予約サイト「るるぶトラベル」でネット専門商品「るるぶトラベルツアー」を昨年6月からスタート。“宿泊+航空便・レンタカー”を自由に組み合わせて作ることができ、出発3日前までの申し込みが可能です(ネット以外は10日前)。
もともと新聞や情報誌など、店舗以外のメディア販売に積極的な阪急交通社は、「トラピックス」という予約専用サイトを開設しています。
近畿日本ツーリストは、ネット専用商品「Clicky(クリッキー)」を展開。
大手各社に危機感を抱かせ、ネット販売強化へと駆り立てたのは、「楽天トラベル」や「一休」といったネット専用事業者の急成長と目を見張る収益力でした。ネット販売においてはIT関連の企業が先駆者であり、旅行大手と言えども出遅れ感は否めません。その結果、旅行業界では新参者であるIT関連のサイトを追いかけるかたちとなってしまいました。加えて、ネット販売が主流になると、旅行会社にとって大きな収入源であった手数料(キックバック)が見込めなくなるため、さらなるビジネスモデルの構築の必要性も生まれています。
背景には、旅行者のパッケージツアー離れや団体旅行人気の凋落、そして個人旅行の潮流の強まりなど、需要の成熟に旅行会社が対応できなかったことが挙げられます。業界全体の苦戦が、新しい旅行会社の姿を生むきっかけとなりそうです。
※参考:
JTB http://www.jtb.or.jp
阪急交通社 http://www.hankyu-travel.com/
近畿日本ツーリスト http://holiday.knt.co.jp/
楽天トラベル http://travel.rakuten.co.jp/
朝日新聞(2011年1月8日付)
2009年に登場してメガヒット商品となったキリン「フリー」や、その翌年に発売されたサントリー「オールフリー」などの、いわゆるノンアルコール“ビール風味飲料”の人気にあやかろうと、ビール以外の酒類にもアルコール度数ゼロの波が押し寄せてきました。
ちなみに、アルコール度数が1%未満なら、ゼロでなくても“アルコール0%”と表示することができ、“ノンアルコール”と呼ぶことが許されます。それ故にメーカー各社は、“アルコール分0.00%”の完全ノンアルコールにこだわります。
また分類上、「ノンアルコール飲料」は清涼飲料のカテゴリーで酒税がかからないため、価格が抑えられるのが特徴です。
ノンアルコールの“梅酒風味飲料”として今春発売されたのは、「チョーヤ 酔わないウメッシュ」(チョーヤ梅酒)。同社の看板商品、梅酒ソーダ「ウメッシュ」のノンアルコール版で、焼酎に漬け込まない国産梅と砂糖と炭酸のみで作られ、アルコール分0.00%を実現しました。
アサヒビールからは、アルコール分0.00%&カロリーゼロの“カクテル風味飲料”、「ダブルゼロカクテル」シリーズの第3弾、「シャルドネスパークリングテイスト」が発売されました。今年は昨年の倍増と、強気の販売計画で勝負をかけます。昨年はノンアルコールビールでキリンやサントリーに劣勢を強いられたビールの本家「アサヒ」が、ノンアルコール市場で巻き返しを狙うとは、ちょっと皮肉な展開といえます。
“ワイン風味飲料”の商品化に成功したのは、老舗ワイナリー「シャトー勝沼」の「カツヌマグレープ」。ノンアルコールの赤ワインです。ブドウを発酵させず、緑茶とフルーツ果汁をブレンドしてワイン独特の渋味、酸味を再現しました。
“シャンパン風味飲料”も登場しました。「デュク・ドゥ・モンターニュ」(湘南ワイン)というスパークリング・ワインで、アルコール分は0.05%。この数値は、天然果汁ジュースに含まれているアルコール分と同じ値です。
さらに、世界初の“ノンアルコール焼酎”まで登場。鹿児島の小正醸造から発売された「小鶴ゼロ」。さつま芋と米麹を原料として通常の芋焼酎と同じ工程で仕込みますが、発酵させずに蒸留することで、アルコールを生成せずアルコール分0.00%を実現しました(糖質・カロリーもゼロ)。芋焼酎の豊かな香りと深い味わいを再現しています。
“意外性”がウケている「ノンアルコール飲料」ですが、それにしてもここまでアルコール離れが進んでいることに、あらためて驚かされます。次の素材は、日本酒でしょうか、それともウイスキー?
※参考:
チョーヤ梅酒 http://www.choya.co.jp/
アサヒビール http://www.asahibeer.co.jp/
シャトー勝沼 http://www.chateauk.co.jp/
湘南ワイン http://www.shonanwine.com/
小正醸造 http://www.komasa.co.jp/
日経産業新聞(2011年6月9日付)
“スマートフォン”や“スマート家電”など、“スマート”流行りの昨今ですが、住宅の分野でも「スマートハウス」が話題となり、いまや“時の家”として注目されています。
「スマートハウス」のベースとなっているのは、省エネ住宅です。高断熱構造にした上で太陽光発電システムで自家発電を行って燃料電池に蓄電するシステムや、高性能のエコキュート(自然冷媒ヒートポンプ式電気給湯器)と太陽電池システムを組み合わせたものなどが主流の省エネ住宅ですが、これをさらに進化させたものが「スマートハウス」です。様々なITを駆使して、家庭内のエネルギーの需給をスマート(賢く)に管理することでCO2排出の削減を実現しようとする、次世代型省エネ住宅のことです。
その中核となるのが、「HEMS=ホーム・エネルギー・マネジメント・システム」(ヘムス)という、“見える化”実現のための技術です。これにより、どこからでも自宅の居室ごとの電気使用量や太陽光発電システムによる発電量などのエネルギー動向が、パソコンやケータイ、スマートフォンといった端末から把握することができます(電気料金まで表示)。また、蓄電池への充放電やエコカー(プラグインハイブリッド車=PHVや電気自動車=EV)への充電なども制御します。
太陽光発電システムの累積契約数が10万棟を突破して住宅業界のトップを走るセキスイハイムは、NECと共同開発したHEMSを業界で初めて「スマートハイム」に標準搭載し、4月から販売しています。このシステムには、ユーザーとメーカーとの間の双方向コミュニケーションを可能にし、データを基にした省エネ診断といったコンサル機能も導入されています。
ミサワホームは今年初め、「GENIUS(ジニアス)」シリーズに「LCCO2マイナスモデル」を発表。太陽光発電と太陽熱利用を組み合わせた“カスケードソーラーシステム”などにより、居住段階におけるCO2収支を大幅にマイナス。建設から解体に至るまでに排出するCO2をゼロ以下にするという、業界初の商品化に成功しました。省エネと創エネの両面効果で、年間のエネルギー自給率も147%を達成する“頼もしい家”です。
三井ホームのスマートハウスは、「green’s(グリーンズ)」。瓦と一体型の太陽光発電システムや高効率の太陽熱ソーラーシステムの採用で、給湯エネルギーを削減。エネルギー監視システムで、発電量やCO2などもチェックできます。
また、トヨタホームでは実証住宅としての「スマートハウス」の販売を6月から開始。HEMSをベースとした省エネ・創エネ・蓄エネの各種機器をはじめ、PHVやEVなどのエコカーも無償で貸与されます。
7月には、大手電気機器メーカー、自動車メーカーなど10社が、次世代の省エネ住宅の普及に向け、HEMSの規格統一を目指して検討に入るというニュースが飛び込んできました。来年夏までに目安をつけ、2014年には最終的な規格の実現を目指すということです。
※参考:
セキスイハイム http://www.sekisuiheim.com/
ミサワホーム http://www.misawa.co.jp/
三井ホーム http://www.mitsuihome.co.jp/
トヨタホーム http://www.toyotahome.co.jp/
日経産業新聞(2011年6月6日付/同6月14日付)