今年の2月、厚生労働省から全国の自治体へ向けて出されたある通知が、飲食業界を中心に波紋を呼びました。その内容は、「受動喫煙防止のため、多くの人が利用する公共的な施設の原則全面禁煙を求める」というものでした。これは、もはやこれまでの分煙では不十分であると、一歩踏み込んだ方針を打ち出したことになります。
対象となるのは、学校、ホテル・旅館、病院、百貨店、官公庁、駅、交通ターミナル、タクシー、娯楽施設(劇場・ゲームセンター・カラオケボックス・パチンコ店など)、金融機関、屋外競技場、飲食店などと指定されていますが、ここで“小さな混乱”が生じました。それは、この通知に従わなくても罰則がないことです。あくまでも努力義務に過ぎず、なんら強制力がありません。実施するか否かの判断はそれぞれの施設事業主に委ねられるという、曖昧で、ある種の“ゆるさ”をはらんだものだったからです。
例えば、全面禁煙に難色を示しているのが、喫煙する利用客が多い居酒屋・スナック・バーといったアルコールを提供する飲食店や、客の8割前後が喫煙者というパチンコ店。「客足は確実に遠のく」「客にタバコを吸うなとは言えない」「なぜ分煙ではダメなのか」といった反発・疑問の声が挙がっています。自分の店が全面禁煙を実施したばかりに、喫煙できる店に客を奪われかねないといった経営上の危機感が大きく、「現実的ではない」との声も。
そんな中で、神奈川県では県を挙げて積極的に導入を図っています。4月から、全国で初めて飲食店にも禁煙や分煙を義務付け、罰則規定を設けた「受動喫煙防止条例」を施行。学校・病院・官公庁などの「第1種施設」は全面禁煙、飲食店やホテルなどの「第2種施設」は禁煙または分煙とし、施設管理者が必要な義務を怠った場合は5万円以下、また喫煙禁止区域で喫煙した場合は2万円以下の過料処分とするというもの。県の取組みを後押しするように、ホテルや大手ファストフード、ファミレス、カラオケのチェーンが先陣を切って導入に踏み切っています。
禁煙はいまや世界的な流れ。しかし、日本の喫煙率は18年連続で減少しているものの、先進国の中では依然として“禁煙後進国”。
今回の動きに対しても「骨抜きで生ぬるい」「世界の多くの国のように罰則付きの法規制であるべき」といった声が挙がる一方で、外食業界側からは「一方的に行政が決めるのではなく、喫煙、分煙、全面禁煙を事業者や利用者が選択できるようにする形が望ましい」と、戸惑いを隠せないといった声も聞かれます。
余談ですが、“煙のない万博”が合言葉の上海市では、市内のすべての公共施設を対象に、罰則付きの全面禁煙条例が施行されています。
※参考:厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/
神奈川県 http://www.pref.kanagawa.jp/
日本フードサービス協会 http://www.jfnet.or.jp/
朝日新聞(2010年2月20日付/同5月17日付)
日経MJ(2010年3月1日付/同4月5日付)
いま、資産の有効活用の一つとして、賃貸用の戸建て住宅に熱い視線が注がれています。これまでの戸建て賃貸のような中古物件ではなく、新築の賃貸目的の戸建て住宅です。
2009年版「土地白書」(国土交通省)によると、戸建てに住みたいと願っている人は約80%で、マンションなどの集合住宅がいいという世帯の約9倍にも達しています。しかし厳しい経済環境の中、マイホームの取得が一層難しくなり、賃貸入居者の意識も変わり始めているようです。「先行き不安な時に、持ち家は足かせになる」「無理して建ててローンに追われるより、現在の家賃より少々高くても戸建てに住めるならそうやって人生を楽しみたい」。
こういった現実に対し、賃貸の供給戸数は、アパート・マンションが95%以上なのに戸建ての賃貸住宅は5%にも満たないという圧倒的な少なさ。マイホーム購入に踏み切れないファミリー世帯を中心に、戸建て賃貸に住みたいのに物件が不足している。つまり需要の大きさに比して供給が小さすぎるという、極端なアンバランスを招いているのが現状です。
住宅メーカーではここを商機と捉え、土地保有者へ向け新しい資産運用商品として各社各様の個性的物件でアピールします。
「桧家ランデックス」の『プライムアセットNew』は、入居者のライフスタイルに合わせて居住空間が変更可能。
3年前から発売している「ミサワホーム」の『ベルリード カシーヤ』は、庭・ガレージ付きで1棟、約1,000万円。また、平屋タイプで高齢者向け仕様の『ベルリード カシーヤ ウィズ マザアズ』も販売。さらに昨年10月には『ハイブリッド ホームプラス』という、自宅部分と賃貸部分が併用した住宅を販売しています。
「ハイアス・アンド・カンパニー」は、“デザイナーズ戸建て賃貸”と銘打った『ユニキューブ』を1棟740万円のローコストで販売。
他にも「大和ハウス」「タマホーム」「セキスイハウス」など、大手から中小まで多数参入しています。
建てる側(オーナー)の最大のメリットは、供給が過剰気味のアパート・マンション経営と比べ、供給量が少ないぶん希少価値を生み、借り手が見つかりやすく安定した家賃収入が見込める点。また、必ず駐車場付きのため、駅から離れた立地でも入居者を獲得でき、さらに同レベルのマンションより15%は高い家賃設定が可能な点、など。住む側も、よほど快適なせいか、戸建て賃貸の平均入居期間は約11年と、アパートなどの2倍強という人気ぶりです。
需要と供給のギャップが埋まるまで、戸建て賃貸市場はさらに活況を呈することになりそうです。
※参考:国土交通省 http://www.mlit.go.jp/
桧家ランデックス http://www.primeasset.jp/
ミサワホーム http://www.misawa.co.jp/
ハイアス・アンド・カンパニー http://www.hyas.co.jp/
大和ハウス http://www.daiwahouse.co.jp/
日経産業新聞(2010年4月1日付/同4月22日付)
デジカメのメモリーカードを差し込むだけで撮った写真が液晶ディスプレー上に映し出されるという“デジタル写真立て”、「デジタルフォトフレーム(DPF)」。パソコンなどが苦手な方でも簡単に操作できるとあって、いま、写真の新しい楽しみ方のツールとして急速に売上げを伸ばしています。
日本でのDPFの登場は2006年。当時はほんの数社のメーカーが販売しているだけで、規模も1万台未満のレベルでした。消費者から見ても、家電大手が参入していなかったこともあり、マイナーな製品という印象が拭えませんでした。それでも2007年には参入メーカーも徐々に増加。販売台数も伸び、そして2008年、DPFが世の中に注目されだした絶好のタイミングで「ソニー」が参入したことで、爆発的に火が点きました。追随する参入企業も急増し、普及台数が前年の約10倍の30万台強、44億円を上回り、これをきっかけに一気に認知度も上がって、ようやく“市場”と呼べるレベルに達したのです。
現在、DPF市場を牽引するのは「ソニー」で、販売ランキングでも常にベスト10の半数を占めるほどの圧倒的な強さを誇ります。次いで、昨年参入した「富士フイルム」や「グリーンハウス」「ドリームメーカー」などが続きます。
売れ筋は7.0型サイズで、価格帯は5,000〜17,000円前後のものが主流。
高画質化・低価格化が進むなか、機能的には、日々進化を続けているといっても過言ではないほどで、スライドショー、時計、アラーム、カレンダーなどを備えているのは当たり前。動画が再生できたり、3D映像が映し出せるモデル、ケータイやパソコンからDPFのメールアドレス宛てに送った写真を表示する通信機能付き。また、ネットに接続してパソコンやケータイから写真だけでなく文字まで転送できるという無線LAN対応モデルも登場。
さらに、ミニコンポにもなるDPFやFMラジオが聞けたり、地デジを見ることができたり、ゴッホやルノワールの絵画鑑賞用まで。果ては、プリンタ機能が搭載されたものやスキャナ機能が内蔵されているものまで…。
2009年の販売台数が100万台を突破し、わずか2年足らずの間に急速に拡大したDPF市場。結婚する友人や離れて住む両親や祖父母に贈って、子供や孫、ペットの姿を送信するといった贈答ニーズがメインのDPF。家電・インテリア・プレゼントと、3つの分野に顔を出し、ますます将来が楽しみな有望アイテムと言えそうです。
※参考:ソニー http://www.sony.jp/
富士フイルム http://www.fujifilm.co.jp/
グリーンハウス http://www.green-house.co.jp/
日経MJ(2010年4月16日付)
朝日新聞(2010年4月17日付)