出版不況が叫ばれて久しい中、とりわけ週刊誌を除く女性誌の凋落ぶりは激しく、06年以降、右肩下がりを描き続けています。
しかし、出版各社も指をくわえて傍観しているわけではありません。読者を単に雑誌を購買する人たちと捉えるにとどまらず、その雑誌を一つのブランドとして育成し、そこに集まる共感者=ファンを獲得するといった、多角的な囲い込み戦略が活発化しています。
世界文化社では、今年の2月から「家庭画報サロン 習いごとの会」をスタートしました。同サロンは07年に発足、年間購読を唯一の入会条件とした親睦の会です。「習いごとの会」は、お稽古ごとを楽しみながら優雅なひとときを、の主旨で、月一回、同誌でお馴染みの先生方を講師に迎えて催されます。第一回は「Paris発 ケーク・サレ&ケーク・シュクレ」。奥田勝シェフを招き、フランスのケーキづくりを東京・フォーシーズンズホテル椿山荘にて24名限定で開催されました(参加費1万2,000円)。
集英社は、美容専門誌「MAQUIA(マキア)」と連携した専用のサロンを東京・新丸ビル内に設けています。本誌で紹介された製品が試用できたり、化粧品メーカーとのコラボ・イベントを開催したりと、読者と本誌の“クラブハウス”的な存在として活用されています。また、同誌のウェブサイト「マキアオンライン」では、双方向のビューティー情報サイトとして数々の読者会員サービスを展開しています。
講談社が今年3月から始動したのが、雑誌の購読者を対象にした新会員制サービス「ヘルスアンドビューティーレビュー(HBR)」。“知的・美的エイジングサロン”をテーマに、月会費3,500円で講演会・講座、会員雑誌、ウェブサイトの3つのサービスが提供されます。
しかしなんといっても、他を圧倒的に引き離す強力な読者獲得戦術がありました。大ヒットとなった、宝島社の「ブランドムック」です。
一冊まるごと国内外の有名ファッションブランドを紹介するムック(Magazine+Book=Mook)に、そのブランドのロゴ付の小物アイテムを付録としてセットしたもので、中心価格帯は1,000円台前半。付録のアイテムは、出版社側とブランド側が企画からデザイン、色、材質まで細かく時間をかけて決めるため、クオリティが高く、読者にとってはハズレのないお得感があり購買意欲をかきたてます。
ポーチ、バッグ、アクセサリー、折りたたみ傘、弁当箱、ビーチサンダル、ガーターベルト……特に評判をよんだのは、09年発売の「イヴ・サンローラン」(1,300円)で100万部を刊行!
黒地に金の刺繍で「YSL」のロゴが入ったトートバッグで、企画から制作まで2年がかりの力作でした。
新手の読者サービスやイベントを通して、また高い付加価値を提供することで雑誌のブランド力を確固なものにし、新しい収益源につなげようとする知恵比べはまだまだ続きそうです。
※参考:世界文化社 http://www.kateigaho.com/
集英社 http://maquiaonline.com/
講談社 http://www.hbrweb.jp/
宝島社 http://tkj_brandmook/
日経産業新聞(2010年1月29日付/同2月18日付)
駅や街中、商業施設などの屋内外を問わず、ポスターや看板に代わって画像を表示する大型のディスプレーが増えています。
2年ほど前から登場し、すでに私たちの暮らしの中にごく自然に溶け込んできている、「電子看板=デジタルサイネージ(DS)」と呼ばれる映像配信システムです。
商品の広告をはじめ、天気予報、ニュースなど、表示されるコンテンツはさまざま。また、設置場所や用途によって最新技術を駆使した色々なタイプのDSが相次いで登場しています。
スーパーの食品売り場のレジスペースに26〜32インチの液晶デイスプレーを置いたところ、DSで広告した商品の売上げが2倍になったという“実績”も。
滞在時間の長い美容室では、ミラー前に置く7インチのDS、「SALON TV」が20〜30代女性へ集中的なアプローチで効果を上げています。
ショーウインドー内に設置する82インチの大型DSや、逆にネームプレートサイズの極小DSをスタッフの胸元に付けて“移動するPOP”として客とのコミュニケーション作りに活用しているパブも出現。
単に見せるだけではなく、もう一つアクションをプラスした参加型のDSも開発されています。
旅行取扱店など、待ち時間が長くなりがちなところでは接客カウンターに設置されたタッチパネルタイプのDSが活躍しています。待ち時間に客がディスプレー画面に触れると旅行関連の情報が取り出せる仕掛けです。同様に携帯電話ショップでも、ICリーダーが内蔵されたディスプレー画面に携帯をかざすと商品情報が得られるといった具合。
さらに、試供品の配布機能を持たせたり、クーポンを配信したり、書店に置いてDSで“立ち読み”ができたりと、情報プラスαの機能を持ったDSが続々と出現しています。
コンビニの「ローソン」では6月から、アサツーディ・ケイ、NTTドコモと共同出資でDS事業に乗り出します。店内から外に向けて大型ディスプレーを置き、新商品情報やイベントなど、オリジナルの“番組”を流すというもの。
日立製作所、富士通、NECといったIT企業が、システム構築からコンテンツの制作、配信、管理など運用全般を一貫して受け持つことでいっそうの低コストが実現。導入する側はネット経由で広告のデータを送るだけで、店舗ごと、時間帯ごとといった細かなコンテンツの更新にもリアルタイムで対応可能なシステムが主流となっています。
高い訴求力が期待できる新しいカタチのプロモーションツール「DS」―――誕生間もない媒体の割には進化のスピードも速く、このまま加速度的に導入の増加が進めば、とてつもなく巨大な市場に拡大するだけのパワーをはらんだ超有望市場といえそうです。
※参考:日経産業新聞(2010年2月1日付)
日経MJ(2010年2月5日付/同2月24日付/同3月8日付)
このところ、「米粉」という文字をあちらこちらでよく目にするようになりました。
「もち米」や「うるち米」を製粉して作られる「米粉」は、一般的に「白玉粉」「上新粉」などの名称で家庭でも愛用され、古くから団子、煎餅、落雁(らくがん)、さくら餅といった和菓子の材料として私たちの生活に馴染みの深い食材でした。
ではなぜ、小麦粉より1.5〜2倍ほど割高な米粉が、ここにきて“引っ張りだこ”になっているのでしょう。その大きな要因は、2年前からの小麦の価格高騰が挙げられます。つまり、近年、日本人の米の消費量が激減するなか、国が懸命に米の消費拡大を図ってきましたが、その普及を阻んでいたのが米と小麦の価格差だったのです。
米粉の割高感が薄まったこと。粒が硬い米を小麦粉レベルに粉砕できる製粉技術が進歩したこと。さらに米粉ならではのもちもち、しっとりした食感がウケたことなどが、いま脚光を浴びている背景といえます。
学校給食での導入から始まり、大手食品メーカーは相次いで米粉の原材料使用に力を入れ始めています。
敷島製パン、ヤマザキといった製パンメーカーでは菓子パンや食パンに積極的に米粉を使用。ちなみにヤマザキの「米粉入り食パン」の場合、小麦粉8、米粉2の割合です。
ニチレイでは、アジフライなどの冷凍食品のコロモに米粉を2割程度配合。
日本ハムは、外食店向けに小麦を一切使用しない米粉100%のパンを開発。今春発売で、小麦アレルギーに悩む人にも安心して食べられると注目されています。個人向けにも通信販売される予定。
丸美屋食品工業からは「米粉のもちっと パンミックス」、グリコ栄養食品からはホームベーカリー用に「米粉パン用ミックス粉 こめの香」と天才パン職人と評判の福盛幸一氏が完成させた「福盛シトギミックス20A」とケーキ作りにも適した「福盛シトギ2号」が発売されています。
昨年10月、国産米粉の消費促進を目的に「米粉倶楽部」が発足しました。皆さんも新聞やテレビで広告をご覧になったことがあると思います。これは、農水省が推進する「FOOD ACTION NIPPON」の活動の一つで、米粉に関わる生産者、食品メーカー、流通業者、外食・サービス業などが一体となって、“米粉で食料自給率アップ!”を目指そうというもの。この主旨に賛同する企業の米粉使用製品に「米粉倶楽部ラベル」を貼付し、米粉の認知拡大や利用促進をアピールしています。
うどん、ラーメン、ビーフン、そば、パスタなどの麺類。クッキー、ケーキ、カステラなどの洋菓子。パン、ナン、ピザ生地、餃子やシュウマイの皮など、いまや小麦粉でできるものは何でも米粉でできる、と言っても過言ではないほどです。
小麦粉との価格差が縮んだとはいえ、まだまだ高価なことに変わりはない米粉。良質なたんぱく質を含み日本人好みの食感や味という、小麦に勝るメリットをいかに効果的に活かしていくか。今後の食品メーカーの腕の見せどころに注目しましょう。
※参考:農林水産省 http://www.maff.go.jp/
米粉倶楽部 http://syokuryo.jp/komeko/
敷島製パン http://www.pasconet.co.jp/
山崎製パン http://www.yamazakipan.co.jp/
ニチレイ http://www.nichirei.co.jp/
日本ハム http://www.nipponham.co.jp/
丸美屋食品工業 http://www.marumiya.co.jp/
グリコ栄養食品 http://www.glico-foods.com/
日経MJ(2010年2月22日付)